東京地判平成29年(ワ)43269【抗ウイルス性衛生マスク】<柴田>

 

<構成要件B>

*文字通り解釈すると狭いクレーム文言が、実施例を考慮して、広めに解釈された!!

「左右の両耳介部を覆う形態」は、マスクが耳介部全てを覆う必要性はない。

⇒充足

 

<構成要件D>

*技術的意義に鑑みて機能的クレームが、広めに解釈された

⇒作用効果を奏する範囲の構成を含む。

⇒充足

 

 

(判旨抜粋)

 

(「左右の両耳介部を覆う形態」(構成要件B)の充足性)について

本件明細書には、左右の両耳介部を覆うマスクの発明である本件発明の実施の形態として,両耳介の外側に及ぶ外周に沿ってマスクの「耳介部」を形成し,両耳介内側に頬との隙間を防止するためニット布地で一定厚みの縁取による「内耳介部」を形成することが記載されている。また,本件明細書には,本件発明を実施したマスク本体の形態として【図1】~【図4】,【図8】を参照することが記載されているところ,これらの図のマスクでは,いずれも,耳介の外側に及ぶ外周に沿うものである「耳介部」の枠体と,頬に接し得る「内耳介部」の枠体が形成されていて,【図8】には,マスク本体の外周に沿った枠体が耳介部の付け根の外側を覆う形態のマスクが開示されているが,本件明細書にマスクが耳介部の全てを覆う形態の図はない(甲2)。そして,マスク本体の外周に沿ってニット布地で一定の厚みの縁取を形作る枠体が耳介部の外側を覆い,その収縮性に伴う密着性によってウイルスの侵入を防止することができるという本件発明の技術的意義に照らすと,マスクが耳介部全てを覆う必要性はない。これらの本件明細書の記載や本件発明の技術的意義を踏まえると,「左右の両耳介部を覆う形態」とは,マスクの枠体が左右の両耳介部の付け根の外側を覆う形態を意味すると解するのが相当である。…

これに対し,被告らは,「覆う」とは,「露出するところがないように,全体にかぶせてしまう」等の意味を一般的に有することから,「左右の両耳介部を覆う形態」とは,左右の両耳介部の全てを覆う形態であると主張する。たしかに,「覆う」とは,一般的に被告らが主張するとおりの意味を有する…。しかし,本件発明は衛生マスクの発明であり,一般的に耳介部全てを覆う形態のマスクが当然に想定されているとはいえず,また,本件発明の上記技術的意義に照らすと,マスクが耳介部全てを覆う必要性はないし,…本件明細書の記載に照らしても,被告らの主張は採用することができない。

 

 

(「空間を形づくる非伸縮性の接合部」(構成要件D)の充足性)について

…「空間を形づくる非伸縮性の接合部」とは,少なくとも,会話や呼吸の妨げにならないように,マスクの本体が鼻下及び唇の表面に接触しない程度の空間が保たれるよう,マスク本体の中央部を左右に分離させ,外膨らみの扇形状に裁断して可及的に伸縮性をもたない非伸縮性とすべく縫合する構成を含むと解するのが相当である。

…これに対し,被告は,「非伸縮性の接合部」について,「非」とは,後に続く語句について「そうでない」という意味であり,「非伸縮性」とは,伸縮しない,又は,伸縮するものを除くという意味であると主張するが,本件明細書には,前記のとおりの記載があり,他方,「非伸縮性」について全く伸縮性を有しないとは記載されていない。また,本件発明はニット生地のマスクに関する発明であり,一切伸縮しない製品のみを想定しているとは考え難い。

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/834/088834_hanrei.pdf

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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