大阪地判平成28年(ワ)12296【棒状フック用のカードケース】<佐藤>

 

「嵌まる」と文言で“遊び”を許容した。

①辞典

②実際の用法

③他の特許公報

★④本件明細書

 

「遊び(間隔)がある場合であっても,「嵌まる」とか「嵌め込む」と表現する場合もみられる。」

 

(判旨抜粋)

…「嵌まる」の意義について…辞典には…「嵌まる」の意味として「ぴったり合ってはいる」と記載されつつ,その具体例として,「穴・枠・溝などの内側に物がはいる」ことが挙げられており,穴等とそこに入る物が完全に同じ大きさだと,物が入らないから,その記載は,隙間があっても「嵌まる」と表現する場合があることを示しているといえる。

また,「遊びがある状態に嵌めること」とか,「嵌めたものと嵌められたものとの間に間隔があること」という意味を有する「遊嵌」という言葉があるように,遊び(間隔)がある場合であっても,「嵌まる」とか「嵌め込む」と表現する場合もみられる。

さらに,…特許や実用新案の公報において,隙間(間隔)や,遊び,余裕がみられる場合にも「嵌まる」という文言が用いられる場合がみられる。…そうすると,本件特許の構成要件Hの「嵌まる」という文言から,上保持部13と下保持部14の抜き穴の形状又はその関係が一義的に定まるとの被告の主張を採用することはできず,構成要件Hの「嵌まる」という文言の意義については,本件特許の願書に添付した明細書の記載及び図面も考慮して,解釈する必要がある(特許法70条2項)。…

構成要件Hの「嵌まる」とは,平面視で「抜き穴21」と「上保持部13」とがぴったりと隙間なく合っている必要はなく,「抜き穴21」の大きさが「上保持部13」の大きさよりも大きく,平面視で両者の間に隙間(間隔)や,遊び,余裕がある場合を含むものと解するのが相当である。他方,…「上保持部13 が入る」,あるいは「上保持部13 が収まる」といった言葉ではなく,あえて「嵌まる」という言葉が使われており,その技術的意義は,一対の金型の抜き違いによって上下保持部13,14 を製造できるようにすることにあると説明されていることからすると,「抜き穴」の大きさが「上保持部」よりも相当大きいような場合や,それらの形状が大きく異なるような場合は,構成要件Hの「嵌まる」には当たらないというべきであり,同構成要件を充足するためには,「上保持部」が全体として「抜き穴」を囲う形状に形成されていることに加え,「抜き穴」の大きさが「上保持部」よりも若干大きい程度であり,形状もある程度類似していることが必要である…。

 

 

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/947/088947_hanrei.pdf

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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