平成26年(ネ)10082【4H型単結晶炭化珪素の製造方法】<高部>

 

①*一審棄却判決とは、本件発明の課題自体の捉え方が変更された

⇒「昇華再結晶法」は実施例に限定されない

⇒(特許権侵害訴訟)控訴審における逆転充足!!

 

②*「頒布された刊行物」ではない

⇒新規性〇

 

原審・東京地判平成23年(ワ)23651<高野>

 

 

(判旨抜粋)

①*

本件発明は,…種結晶を用いて昇華再結晶を行う改良型のレーリー法で単結晶炭化珪素を成長した場合でも,通常の温度条件(摂氏2200~2400度)では6H型単結晶炭化珪素が高い確率で形成されてしまい,高周波高耐圧電子デバイスに適した4H型単結晶炭化珪素を得るのは困難であるという問題があったことから(…),かかる課題を解決する単結晶炭化珪素の製造方法を提供することを目的とするものである(…)。…本件明細書の…記載に照らせば,本件発明は,種結晶を用いて昇華再結晶を行う従来方法に対し,さらに,「炭素原子位置に窒素を所定範囲内の量導入する」という技術的事項を新たに適用するものであると理解できる。そうすると,本件発明は,種結晶を用いた昇華再結晶法において,上記技術的事項以外の成長条件については,従来の4H型単結晶炭化珪素の成長方法におけるものを前提としていると認められるから,「種結晶」の材料,ポリタイプ及び面極性の選択についても,従来方法で,4H型単結晶炭化珪素の成長に適するとして選択されていたものを前提としているものと認められる。…以上によれば,特許請求の範囲(請求項1)には,坩堝に充填する出発原料を特に規定又は限定する記載は存しないにもかかわらず,「種結晶を用いた昇華再結晶法」(構成要件A)を,実施例として開示された,坩堝に充填する出発原料として炭化珪素粉末を用いる態様のみに限定して解釈すべきであるとはいえない。したがって,「昇華再結晶法」(構成要件A)には,出発原料(坩堝に充填する材料)として炭化珪素固体(粉末)を用いる態様のみならず,出発原料として珪素と炭素を用い,この両者を反応させて結晶状態の炭化珪素を形成し,この炭化珪素を昇華させることで種結晶上に単結晶炭化珪素を形成する態様も含まれるものと解される。

 

②*

(引用例2に基づく新規性欠如)特許法29条1項3号に該当するというためには,刊行物が不特定又は多数の者において閲覧可能な状態になることを要すると解される。しかし,…DTICが引用例2を受領し,その電子文書管理システムに格納し,DTIC目録に載せて索引を付した段階では,引用例2にアクセスをすることができた者は,「DTICの登録ユーザである国防省及び連邦職員,並びにその契約者(一般市民は含まれない)」に限られていたというのであるから,引用例2が,上記当時,不特定又は多数の者において閲覧可能な状態であったとの事実を認めるに足りない。

 

 

 

 

≪原審・東京地裁平成23年(ワ)第23651号<高野>≫

…本件発明は,高品質の単結晶炭化珪素を得るために導入された炭化珪素原料粉末を原料とし種結晶を用いて昇華再結晶を行う改良型のレーリー法においても解決できなかった課題を解決するために,炭化珪素からなる原材料を加熱昇華させ,単結晶炭化珪素からなる種結晶上に供給し,この種結晶上に単結晶炭化珪素を成長する方法において,炭素原子位置に窒素を5×1018㎝-3以上5×1019㎝-3以下導入するという技術手段を採用したものであると認められる。そうだとすれば,構成要件Aの「昇華再結晶法」は,結晶性固体を「昇華」させて再び結晶させる,すなわち,生成物と同じ物質からなる多結晶固体原料を昇華させてから結晶させて単結晶の生成物を得ることを意味すると解するのが相当である。

 

 

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/517/085517_hanrei.pdf

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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