大阪地判平成14年(ワ)10511【酸素発生陽極…】<山田>

 

*①数値限定に意義がある場合は、特段の事情がない限り本質的部分

「…数値をもって技術的範囲を限定し、その数値に設定することに意義がある場合には、その数値の範囲内の技術に限定することで…特許が付与された…」

 

*②実施例で測定された有効桁数を考慮し、原告が主張している四捨五入を否定した。

⇒均等論も否定した。

⇒非充足

Cf.H14(行ケ)213は、特許発明1.2~3.0と公然実施品1.18とが重なるから新規性喪失として、維持審決を取消した。

「実施例1においては、金属タンタルの重量は、少なくとも0.001g単位で計測されていたと認めるべきである。とするならば、上記のとおり、40g/㎡は計算上300m㎡当たり0.012gに相当するのであるから、この「40g」とあるのが有効数字1桁であるとはいえず、有効数字は少なくとも2桁以上と解するべきであるから、「40g」とあるのは「35~44g」と読むべきとする原告の主張は採用することができない。」

 

 

 

(判旨抜粋)

一般に、特許請求の範囲において、数値をもって技術的範囲を限定し、その数値に設定することに意義がある場合には、その数値の範囲内の技術に限定することで、その発明に対して特許が付与されたと考えるべきものであるから、特段の事情のない限り、その数値による技術的範囲の限定は特許発明の本質的部分にあたると解するべきである。…本件A発明の構成要件A⑤は、中間層の厚さの上限を3ミクロンと限定しているところ、…この上限の設定には、結晶性金属タンタルの使用量を抑制して経済性を高め、スパッタリング法による加工を容易にし、中間層の剥離が起き易くなることを防止するという意義があり、この点が本件A発明の本質的部分にあたらないというべき特段の事情も見当たらないから、中間層の厚さの上限が3ミクロンであることは、本件A発明の本質的部分であるというべきである。…

 

…原告は、薄膜中間層の厚さを、本件A明細書の実施例1の計算と同一の計算方法によって算出するのであれば、そこで表記されている「40g」及び「3ミクロン」という数値は有効数字1桁であるから、「40g」とあるのは「35~44g」と、「3ミクロン」とあるのは「2.5~3.4ミクロン」と読むべきであると主張する。

しかしながら、…本件A明細書に記載された実施例1において、用いられた金属基体は、大きさ30mm×10mmであり、その表面積は300m㎡であるところ(…)、40g/㎡は計算上300m㎡当たり0.012gに相当する。この重量が、実施例1において用いられた金属タンタルの重量(すなわち、スパッタリング後の基体の重量とスパッタリング前の基体の重量の差)であるが、ここで、仮に、基体の重量の計測が、0.01g単位でしかできないとしたならば、300m㎡当たり0.01gは計算上33g/㎡に、300m㎡当たり0.02gは計算上67g/㎡に(いずれも小数点以下四捨五入)、それぞれ相当するから、実施例1の記載のように40g/㎡という数値が現れることはあり得ない。したがって、実施例1においては、金属タンタルの重量は、少なくとも0.001g単位で計測されていたと認めるべきである。とするならば、上記のとおり、40g/㎡は計算上300m㎡当たり0.012gに相当するのであるから、この「40g」とあるのが有効数字1桁であるとはいえず、有効数字は少なくとも2桁以上と解するべきであるから、「40g」とあるのは「35~44g」と読むべきとする原告の主張は採用することができない。…

なお、有効数字の桁数とは別に、実施例を根拠として、特許請求の範囲に技術的範囲の上限を「3ミクロン」とクレームした場合に、実施例における誤差の最大の範囲が権利範囲に含まれるとすることにも疑問があるところである。なぜなら、実施例において、0.5ミクロンの誤差があるのであれば、その誤差の範囲まで、すなわち、「3.5ミクロン未満」を上限として特許請求の範囲に記載すればよいのである。ところが、これをせずにおいて、特許請求の範囲に上限を「3ミクロン」と記載しておきながら、「3.5ミクロン未満」が技術的範囲であるとすることは、特許請求の範囲の記載の明確性を損なうものである。これと同様、40g/㎡のタンタルを用いるとの趣旨でクレームしておきながら、誤差を理由に45g/㎡未満としなければならない合理的理由も見いだせないところである。

 

 

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/985/009985_hanrei.pdf

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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