【商標】 商標「相続ワンストップ」の識別力が争われた事例

知的財産高等裁判所 令和8年9月16日 令和8年(行ケ)第10020号  審決取消請求事件

要約

行政書士法人である原告が、「相続ワンストップ」の文字からなる商標について、拒絶査定不服審判の不成立審決の取消しを求めた事案である。
裁判所は、構成文字の語義と相続関連業務における取引の実情から、本願商標は、指定役務に使用された場合、一般消費者に「様々な相続関連業務を一か所で行うことができる」との役務の質を表示記述するものとして認識されると判断した。また、その意味合いに適合しない役務に使用すれば役務の質の誤認を生ずるおそれがあるとして、商標法3条1項3号及び4条1項16号該当性を肯定し、原告の請求を棄却した。

事件の概要

本件商標(本願商標):

原告は、「相続ワンストップ」の文字を名称に含む行政書士法人である。原告は、「相続ワンストップ」の文字を普通に用いられる方法で横書きに表した商標について、令和4年8月2日に商標登録出願をした。当初の指定役務には、相続手続に関する情報提供等も含まれていたが、審判請求後を含む複数回の補正により、第45類「行政書士法第1条の2にいう官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類の作成」に限定された。

原告は拒絶査定を受け、拒絶査定不服審判を請求したが、特許庁は、本願商標が商標法3条1項3号及び4条1項16号に該当するとして、審判請求を不成立とする審決をした。審決は、「相続ワンストップ」が、全体として「相続(に関する業務)をワンストップ(一度の手続で、必要とする関連作業を完了できる)で行うこと」ほどの意味合いを容易に認識させ、役務の質(内容)を表示したものと認識されるにとどまるとし、相続に関する業務をワンストップで行うことができる役務以外の役務に使用した場合には役務の質の誤認を生ずるおそれがあると判断したものである。

原告は、①審決の理由が不明確であるという手続違背、②商標法3条1項3号該当性に関する判断の誤り、③商標法4条1項16号該当性に関する判断の誤りを主張し、審決の取消しを求めた。 ①については、裁判所は、審決の記載は更なる補正によっても拒絶理由は解消し得ない旨を指摘するにすぎないとした。本稿では、主として②及び③の点を紹介する。

裁判所の判断

原告は、「ワンストップ」には複数の意味合いがあり、「相続」と結合しても漠然とした意味を想起させるにとどまるため、本願商標は役務の特定の質を認識させない一種の造語であると主張した。また、本願指定役務の範囲外である他士業の業務等に関する取引の実情を考慮するのは不当であるとも主張した。

裁判所は、商標法3条1項3号の該当性について、審決時である令和8年2月12日に、本願商標が指定役務に使用された場合、取引者・需要者によって役務の質を表示記述するものとして一般に認識されたかという観点から判断した。

本願商標のうち、「相続」からは、被相続人の権利義務を相続人が包括的に承継することとの観念が生じ、「ワンストップ」からは、「一か所。また、複数のことを一か所ですませられること。」又は「複数の買い物や用件が一か所で済ませられること。」との観念が生ずると認定した。さらに、遅くとも審決時には、行政書士を含む様々な士業及びこれらと連携する事業者により、「相続ワンストップサービス」「相続ワンストップ体制」「相続ワンストップ窓口」「ワンストップ相続」などの名称で、書類作成を含む様々な相続関連業務を一か所で請け負い、サポートする役務が提供されていたと認定した。

裁判所は、本願指定役務の需要者を一般消費者と捉え、上記の語義及び取引の実情に照らすと、「相続ワンストップ」は、本願指定役務に使用された場合、一般消費者から「様々な相続関連業務を一か所で行うことができる」程度の意味合いで、役務の質を表示記述するものとして一般に認識されると判断した。

その結果、本願商標は、指定役務との関係で、役務の質を普通に用いられる方法で表示記述する標章のみからなるものであり、取引上、何人も使用を欲する表示として特定人に独占させることが公益上適当でないとともに、一般的に使用される標章であって自他役務の識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないとした。また、これを前提とし、需要者は本願商標を「様々な相続関連業務を一か所で行うことができる」との役務の質を表示記述したものと認識するから、これを上記以外の役務に使用した場合には役務の質の誤認を生ずるおそれがあり、商標法4条1項16号にも該当すると判断した。

なお、原告が問題視した他士業等の取引実情についても、本願指定役務の需要者である一般消費者の認識を判断するためには、行政書士の業務だけでなく、行政書士を含む様々な士業及びこれらと連携する事業者が行う相続関連業務の実情を考慮することが相当であるとして、原告の主張を採用しなかった。

以上を前提に、裁判所は、審決に手続違背はなく、商標法3条1項3号及び4条1項16号の各該当性に関する判断にも誤りはないとして、原告の審決取消請求を棄却した。

判決のポイントと実務上の留意点

本判決は、本願商標の識別力について、審決時に、本願商標が指定役務に使用された場合、取引者・需要者によって役務の質を表示記述するものとして一般に認識されるかという観点から判断している。この枠組みは、近時の知財高裁判決と大枠で共通する。例えば「健康経営EXPO」事件(知財高判令和7年4月23日・令和6年(行ケ)第10098号)は、ワイキキ事件最高裁判決(最判昭和54年4月10日)を引用した上で、審決時において、取引者・需要者によって、将来を含め、役務の質を表示したものとして一般に認識されるものであれば足り、その判断は商標の構成と指定役務に関する取引の事情を考慮して行うべきと判示している。もっとも、本判決の判断基準の説示には「将来を含め」の文言はみられず、商標の構成や取引の事情を考慮すべき旨も基準としては明示されていない(ただし、あてはめでは語義と取引の実情を考慮している。)。いずれにせよ、識別力の判断にあたっては、当該商標と同一の表示が現実に使用されているか否かよりも、構成語の語義と取引の実情から需要者がどのような意味合いを受け取るかという点が考慮される。

原告は「相続ワンストップ」を一種の造語であると主張したが、採用されなかった。同種の結合語をめぐる近年の裁判例、例えば前掲の「健康経営EXPO」事件や「知財実務オンライン」事件(知財高判令和6年4月10日・令和5年(行ケ)第10141号)においても、商標自体は辞書に掲載されていない語であるとしても、商標を構成する各文字等の語義と取引の実情から3条1項3号該当性が肯定される例がみられる。本判決も、「相続」と「ワンストップ」の各語義から「様々な相続関連業務を一か所で行うことができる」程度の意味合いを導いている。「ワンストップ」に複数の意味合いがあるとの原告の主張に対し、判決は個別には応答していないが、その結論からすると、意味の幅や抽象性はそれだけでは識別力を基礎付けないものと解される点には留意が必要である。


なお、商標の識別力の判断にあたり考慮される取引実情として、商標を構成する語の組合せ方が取引上ありふれているかについても重視される傾向がある。例えば、「健康経営EXPO」事件では、「EXPO」の語頭に主題を配してイベントの名称とすることが広く行われている実情が認定され、「知財実務オンライン」事件では、「〇〇オンライン」標章の用例を分析した上で、「オンライン」の前に示される商品・役務をオンラインで提供するものと需要者が認識すると判断された。本判決でも、「相続ワンストップサービス」「ワンストップ相続」等、両語を組み合わせてサービス内容を説明する用例が多数認定されており、認定された用例に「相続ワンストップ」単体の表示は含まれていないものの、語順が入れ替わった表示や「サービス」「窓口」等を付加した表示も、本願商標の記述性を裏付ける事情として機能したものと考えられる。


本件では、指定役務が行政書士の書類作成業務に限定されていたにもかかわらず、裁判所は、需要者である一般消費者の認識を判断するに当たり、他士業や連携事業者による相続関連サービスの実情も考慮した。需要者の認識が同種のサービス領域全体から形成される場合、補正で指定役務を狭く限定しても識別力の問題は解消しにくい。なお、本判決では、前記①の原告による手続違背の主張を退けるにあたり、行政書士の法定独占業務を特定するための更なる補正をしても拒絶理由は解消し得ないとした審決の記載を是認したことも、この点を示しているといえよう。もっとも、本判決は、あらゆる関連業界の事情を常に考慮できると一般化して判示したものではなく、あくまで本件の需要者及び相続関連業務の実情を前提とする判断である点に留意すべきである。

※本稿の内容は、一般的な情報を提供するものであり、法律上の助言を含みません
文責:北原絵梨子

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