【商標】 事件名図形と「SORA」の結合商標の類否及び美容関連役務の類否が争われた事例
知的財産高等裁判所 令和8年4月13日 事件番号令和7年(行ケ)第10111号 審決取消請求事件
要約
原告は、図形と「SORA」の文字からなる本願商標について、先行する図形と「SORA」の文字からなる引用商標との類似を理由に商標法4条1項11号に該当するとした拒絶審決の取消しを求めた。裁判所は、両商標について「SORA」の文字部分を要部として抽出することが許され、両要部は外観上近似し、称呼が同一かつ観念も比較できないか又は同一であるから、両商標は類似すると判断した。また、本願指定役務は引用指定役務中の「美容」に含まれ、取引の実情を考慮しても役務が類似するとし、原告の請求を棄却した。
事件の概要
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(左)本願商標 |
(右)引用商標 |
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原告は、黒色の横長長方形を背景とし、その中央部に白色の円弧及び複数の曲線を組み合わせた図形と、白色の「SORA」の欧文字を上下に配置した結合商標について、商標登録出願をした。本願指定役務は、第44類「マッサージが組み込まれた顔及び体の手入れ、マッサージが組み込まれた美容のための体の手入れ」である。引用商標は、図形と、その右側の「SORA」の欧文字からなる結合商標であり、第44類「美容、理容」を指定役務として登録されていた。
特許庁は、本願商標及び引用商標の各「SORA」の文字部分を要部として比較し、両商標が類似すると判断した。また、本願指定役務と引用指定役務は、容姿を美しくするという目的を共通にし、同一の事業者により提供される場合が多く、需要者も一致するとして、両役務も類似すると判断した。その結果、本願商標は商標法4条1項11号に該当するとして、拒絶査定不服審判の請求を不成立とした。
原告は、本願商標は図形部分と文字部分を一体として観察すべきであって、「SORA」の文字部分だけを抽出することは許されないと主張した。また、本願指定役務は、国家資格を有する美容師が提供する引用指定役務の「美容」とは異なり、両役務が同一の営業主によって提供される取引の実情もないなどとして、本件審決の取消しを求めた。
裁判所の判断
(1) 商標の類否
商標の類否について、裁判所は、つつみのおひなっこや事件(最判平20年9月8日・裁判集民事228号561頁)を参照し、結合商標であっても、一部が出所識別標識として強く支配的な印象を与える場合などには、その部分を要部として抽出し比較できるとした。
本願商標と引用商標はいずれも、図形部分と「SORA」の文字部分が外観上分離して認識される。本願商標の黒色長方形の背景も、この判断を左右しないとされた。図形部分からは特定の称呼・観念は生じない。一方、「SORA」からは「ソラ」の称呼が生じ、観念については造語として特定の観念を生じないか、「空」の観念を生じるとされた。そのため両商標の要部は「SORA」であり、外観は近似、称呼は同一、観念は比較不能か同一であることから、両商標は類似すると判断された。
原告は、各ウェブサイト上の説明を根拠に、本願商標の図形部分は「日の入り」「日の出」「静けさ」を、引用商標の図形部分は「髪をカットするところ」を表すと主張した。しかし裁判所は、類否判断で考慮できる取引の実情は指定役務全般についての一般的・恒常的なものに限られ、現在の使用態様に関する特殊的・限定的な事情は含まれないとして、この主張を退けた。なお、引用商標の権利者のウェブサイトにおいて「SORA」の文字に個別の意味付けがされているとの主張も、同じ理由により採用されなかった。
(2) 役務の類否
裁判所は、ARIKA事件(最判平23年12月20日第三小法廷判決(平成21年(行ヒ)第217号)・民集65巻9号3568頁)を参照し、指定役務の意義について、商標法施行令・施行規則上の区分及び細分類、国際分類の類別表注釈、類似商品・役務審査基準における類似群の同一性等を参酌して解釈すべきであるとした。また、役務の類否については、橘正宗事件(最判昭和36年6月27日・民集15巻6号1730頁)等の判決で示されたとおり、役務自体の誤認混同ではなく、役務の手段・目的の関連性、同一の営業主又は同一の場所で提供されるのが通常であるかなどの取引の実情を踏まえ、同一又は類似の商標を使用したときに、同一営業主の提供に係る役務と誤認されるおそれがあるかにより判断するとした。 その上で、裁判所は、商標法施行令別表第44類の名称、商標法施行規則による「美容 理容」の細分類、類別表注釈の「美容ケア」に関する説明、及び「美容」「手入れ」の辞書上の語義を併せ考慮し、引用指定役務中の「美容」は、容貌、容姿、髪型を美しくするための美容ケアに関連する役務を広く含むとした。そして、人に提供する美容ケアに関連するサービスである本願指定役務は、これに含まれると判断した。さらに、裁判所は、両役務は、需要者が一般の利用者である点及び目的が美容である点で共通するとした。加えて、裁判所は次の二点を認定した。一つは、エステティックサロンで顔・首筋等へのマッサージが提供される一方、美容室でもアロマトリートメントやフェイシャルエステ等、マッサージが組み込まれた顔や体の手入れが提供されていることである。もう一つは、厚生労働省のウェブサイトにおいて、顧客の容姿を美しくしたいというニーズに対応するためのメイク、ネイル、エステ等のサービス拡充や、パーマ施術中を利用したリラクゼーション・サービスメニューの検討が挙げられ、収益力向上のため、美容室でマッサージが組み込まれた顔や体の手入れを提供することの検討が提案されていることである。これらから、裁判所は、両役務は必ずしも常に提供する営業主や場所を異にするものではないとし、同一又は類似の商標を使用するときは同一営業主の提供に係る役務と誤認されるおそれがあるとして、類似の役務に当たると判断した。
原告は、役務としての「美容」は美容師という国家資格の保有者のみが提供し得る、頭部を対象とする役務であり、本願指定役務とは明確に相違すると主張していた。これに対し、裁判所は、美容師法が「美容」をパーマネントウエーブ、結髪、化粧等の方法により容姿を美しくすることと定義し(美容師法第2条1項)、無免許営業や美容所以外の場所における営業を禁止していること(美容師法第6条、第7条)によって、上記の判断は左右されないとした。 また、原告は、スパサービスや美容サービスの需要者は事前に役務の提供場所を検索して内容を確認した上で赴くのが一般的であり、通常の注意力を有する需要者であれば、同一の称呼を生ずる商標が使用されていても出所の混同は生じないと主張していた。裁判所は、本願指定役務に引用商標と同一又は類似の商標を使用するときは同一営業主の提供に係る役務と誤認されるおそれがあることは前記のとおりであるとして、この主張を採用しなかった。
(3) 結論
裁判所は、本願商標が引用商標に類似し、かつ、本願指定役務が引用指定役務と同一又は類似する役務であるため、本願商標は商標法4条1項11号に該当すると判断した。本件審決に判断の誤りはないとして、原告の請求を棄却した。
判決のポイントと実務上の留意点
本判決では、図形と文字の組み合わせからなる結合商標の類似性、及び、指定役務の類似性について判断が示された。
商標の類否については、つつみのおひなっこや事件等の最高裁判例の規範に則り、本願商標・引用商標のいずれについても、図形部分と文字部分が外観上分離して認識されること、図形部分から出所識別標識としての称呼・観念が生じないことなどから、「SORA」の文字部分を要部として抽出した。本願商標は黒色の横長長方形の背景内に白色で図形と文字を配置した構成であったが、裁判所は、そのことによって分離して認識されるとの判断は左右されないとした。
類似する他人の商標がある場合、図形等の他の要素を付加したり、ロゴ化したりする等して外観上の差異を大きくし差別化を図ることは実務上多く行われてはいる。しかし、登録審査の場面では、ロゴデザインで差別化を図っても、文字部分が分離して認識され、図形部分から称呼・観念が生じない構成である限り、文字部分を要部として抽出した上で類否が判断される場合があるため留意が必要である。
また、本判決は、ウェブサイト上で図形の由来や「SORA」の各文字の意味が説明されていても、それは類否判断で考慮すべき一般的・恒常的な取引の実情ではないとして、判断を左右しないとした。この点について、商標法4条1項11号該当性の判断では、商標の使用態様や自社による意味付けは特殊的・限定的な事情として考慮されにくく(参照:「保土谷化学工業事件」最判昭49年4月25日(昭和47年(行ツ)第33号))、特に審査・審判段階での反論材料としての効果は限られる点に注意すべきである。
次に、役務の類否について、本判決は、「美容」が美容師法上の資格制度に服することによって判断は左右されないとし、引用指定役務の「美容」を美容ケアに関連する役務を広く含むものと解した。指定役務の意義は、原則として別表の区分や類別表注釈等を参酌して解釈され、その類否は取引の実情から判断されるのであり、業法上の資格区分によって直ちに決まるものではないという点は実務上留意する必要がある。
第44類の「美容」の分野で先行商標登録があれば、エステティックやマッサージを内容とする役務でも先行登録との抵触を想定すべきであり、本件のように「マッサージが組み込まれた」と役務を限定するだけでは役務の抵触は回避できない場合がある。なお、本判決が認定したエステティックサロンや美容室での提供実態を前提とする限り、本判決における役務の類否に関する結論は妥当と考える。
※本稿の内容は、一般的な情報を提供するものであり、法律上の助言を含みません
文責:北原 絵梨子


