【著作権法★★★】量産実用品の全体又は部分における形状等が、観念上、機能に由来する構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができるものである場合には、当該量産実用品の全体又は部分は、著作権法2条1項1号にいう著作物のうち、美術の範囲に属するものに当たる旨を判示して、下記原告製品の著作物性を否定した原審の判断を是認し、上告を棄却した判例

最判令和8年4月24日(令和7年(受)第356号)(岡村和美裁判長)
◆判決本文

原告製品

判決要旨

1.量産実用品に係る著作物性の有無の判断基準

量産実用品の全体又は部分における形状等が、観念上、機能に由来する構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができるものである場合には、当該量産実用品の全体又は部分は、著作権法2条1項1号にいう著作物のうち、美術の範囲に属するものに当たる。

2.原告製品に係る著作物性の有無

本件椅子は、量産実用品であって、約66度の略L字型を成して床面から立ち上がっている2本の脚を有し、当該2本の脚の間に座面板及び足置板が床面と平行に固定されるようになっている点は、子供用の椅子としての機能に由来する構成である脚、座面板及び足置板の配置による形状が美感を起こさせるものであることを基礎付ける事情にすぎない。そして、本件椅子の全体又は部分における形状等は、子供用の椅子としての機能に由来する構成としてしかこれを把握することができず、当該構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができるものではない。よって、本件椅子は、著作物に当たるとはいえない。

コメント

1.判決要旨1について

いわゆる応用美術の著作物性の有無の判断基準について、近年、知財高裁の裁判例上、従前の下級審の多数の裁判例における段階理論的な加重要件説とは異なる、分離可能性説(知財高判平成26年8月28日判時2238号91頁〔ファッションショー事件〕)と無制限説(知財高判平成27年4月14日判時2267号91頁〔TRIPP TRAPPⅡ事件〕)とが並立し,その後の下級審,特に東京地裁の多数の裁判例上,分離可能性説が主流となった。そして,分離可能性説を著作権法2条1項1号前段所定の「思想又は感情を創作的に表現したもの」か否かの問題として採用したものと理解される知財高裁の裁判例(知財高判令和3年12月8日(令3(ネ)10044号)裁判所ウェブサイト〔タコの滑り台事件〕)もあったものの、原判決(知財高判令和6年9月25日(令5(ネ)10111号)裁判所ウェブサイト〔TRIPP TRAPPⅢ事件〕)は、他の知財高裁の裁判例(知財高判令和3年6月29日(令3(ネ)10024号)裁判所ウェブサイト〔グッドコア事件〕)と同様に、分離可能性説を同号後段所定の「美術・・・の範囲に属する」か否かの問題として採用したものと理解される一方、「独立の美的鑑賞の対象となる」か否かを分離可能性の判断基準とするものと理解された。また、原判決は、分離可能性を問題とせず、制作目的が「専ら美的鑑賞目的のため」か否かを問題とする別個の判断基準も判示した。

これに対し、判決要旨1は、量産実用品に係る著作物性の有無の判断基準について、制作目的が「専ら美的鑑賞目的のため」か否かを問題とする判断基準を採用することなく、分離可能性説のみを著作権法2条1項1号後段所定の「美術・・・の範囲に属する」か否かの問題として採用したものと理解される。さらに、「独立の美的鑑賞の対象となる」か否かではなく、「観念上、機能に由来する構成とは別個に、……把握することができる」か否かを分離可能性の判断基準とするものと理解される。

かかる判決要旨1の特徴は、「法廷意見は、量産実用品を対象にして、その形状等について意匠登録をすることができるものが別途美術の範囲に属する著作物にも当たるか否かについて、……判断した」旨、「法廷意見は、また、我が国の知的財産法制が、どのようなものを対象にして、どのようにその権利を保護することを立法上選択したかという観点から、量産実用品について、著作権法と意匠法それぞれの保護対象物、保護の目的、保護のための要件・手続、権利の内容とその存続期間等を考慮して、それらの適用範囲を画する基準を示したものである」旨及び「法廷意見は、……「美的鑑賞」という語を用いていない。その趣旨は、……「美的鑑賞」の語からはあたかも高度な創作性や芸術性が必要であるかのような誤解が生じかねず、また、そもそも美的な芸術としての鑑賞に値するか否かを裁判所が判断するのは不適当と思われるからである」旨の裁判官尾島明の補足意見により、よりよく理解されよう。

2.判決要旨2について

判決要旨2は、判決要旨1における量産実用品に係る著作物性の有無の判断基準を原告製品にあてはめて、原告製品の著作物性を否定したものである。この点、裁判官尾島明の補足意見の通り、「法廷意見のいう……要件も、抽象度が高いものであるが、法廷意見が本件椅子についてその当てはめの判断を行っているように、その要件の具体的適用については、今後様々な事例の積み重ねに期待することとなろう」。

判決の抜粋

1.量産実用品に係る著作物性の有無の判断基準

「量産実用品については、その形状等が思想又は感情を創作的に表現したものであるということができれば、直ちに美術の範囲に属するものとして著作物に当たるとの解釈を採ることは相当ではない。」「すなわち、……我が国の意匠法及び著作権法における権利の発生要件、内容及び存続期間等に鑑みれば、上記解釈を採り、量産実用品の形状等について、意匠法に加えて著作権法により保護されることを広く認めた場合には、あえて費用等を投じて意匠登録を受けなくとも、同法によって、より長期間、広範に保護が受けられることとなる可能性があり、意匠法の存在意義を損なうおそれがある。また、量産実用品の形状等について広く著作権法の保護が及ぶとすると、著作者人格権により権利関係が複雑化して量産実用品の利用が妨げられたり、意匠権の存続期間満了後も長期間にわたって量産実用品の形状等を自由に利用することができなくなったりすることにもなりかねず、産業の発達に寄与するという意匠法の上記目的が阻害されるおそれもある。」

「もっとも、量産実用品の形状等は、通常、実用目的に必要な機能(以下、単に「機能」という。)との関係で一定の制約を受けて決定されるものであり、機能に由来する構成と別個にこれを把握することができないものであるけれども、その中には、例えば、表面に単なる模様や表面加工の域を超える装飾が付加されているもののように、当該付加部分の形状等が、機能と関連せず、観念上、機能に由来する構成とは別個の絵画や彫刻として把握できるものがある。このようなものは、量産実用品に「美術の著作物」(著作権法10条1項4号)が単純に付加されたものということができ、当該付加部分に同法の保護が及ぶことは当然である。

また、量産実用品の中には、例えば、全体として彫刻等とも看取できるもののように、その全体又は部分における形状等が、当該実用品としての機能と関連してはいるものの、観念上、機能に由来する構成とは別個の彫刻等として把握できるものがある。このような形状等は、機能に由来する構成とは別個に思想又は感情の創作的な表現を把握できるという点において、「美術の著作物」が単純に付加された上述の場合と同様であるということができるから、著作権法の保護を及ぼすのが相当である。上記のような形状等は、機能との関係で一定の制約を受けるのが通常である量産実用品の形状等としては例外的なものであるということができるのであって、これに著作権法の保護を及ぼしても、上記でみたような弊害が生ずるおそれは小さい。

以上によれば、量産実用品の全体又は部分における形状等が、観念上、機能に由 来する構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができる ものである場合には、当該量産実用品の全体又は部分は、著作権法2条1項1号に いう著作物のうち、美術の範囲に属するものに当たるというべきである。」

2.原告製品に係る著作物性の有無

「これを本件についてみると、前記事実関係によれば、本件椅子は、量産実用品であって、上告人らは、大要、約66度の略L字型を成して床面から立ち上がっている2本の脚を有し、当該2本の脚の間に座面板及び足置板が床面と平行に固定されるようになっている点において創作性が認められるから、本件椅子が著作物に当たると主張する。しかしながら、上記の点は、子供用の椅子としての機能に由来する構成である脚、座面板及び足置板の配置による形状が美感を起こさせるものであることを基礎付ける事情にすぎない。そして、本件椅子の全体又は部分における形状等は、子供用の椅子としての機能に由来する構成としてしかこれを把握することができず、当該構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができるものではない。よって、本件椅子は、著作物に当たるとはいえない。」

【Keywords】商品の形態の著作物性、応用美術の著作物性、TRIPP TRAPP、トリップトラップ、Choice Kids

※本稿の内容は、一般的な情報を提供するものであり、法律上の助言を含みません

文責:弁護士・弁理士 飯田 圭(第二東京弁護士会)
本件に関するお問い合わせ先:k_iida☆nakapat.gr.jp (☆を@に読み替えてください)

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