東京地判平成30年(ワ)17586,平成31年(ワ)7191,令和2年(ワ)7989,令和3年(ワ)8097<柴田>
【医薬】(東和薬品v.興和)

先行する差止請求事件(平成29年(ネ)10090<高部>)は特許権者勝訴(先使用不成立)

⇒損害賠償請求事件(本件)はサポート要件違反

*発明の課題を具体的数値で再設定した

⇒結晶セルロース無しで課題達成認識不可

(控訴審は進歩性×)

(判旨抜粋)
…本件各発明の課題は、ラクトン体の生成率を抑制した医薬品を提供することであり、その課題の解決とは、本件各発明が医薬品を提供する発明であることを前提として、水分含量を「2.9質量%以下」という一定値以下にすることによりラクトン体の生成率(40℃75%RH2か月後)が0.23%と0.35%の間のいずれかの値以下に抑制されたことをいう…。
…処方例1に基づき製造された口腔内崩壊型錠剤については、固形製剤の水分含量を2.9質量%以下にすることによって、ラクトン体の生成を相当量に抑制することができ、本件各発明の課題が解決されたことが記載されているといえる。
他方、本件明細書には、本件各発明の実施例としては、上記の実施例の記載があるだけであって、表2の処方例1に基づき製造された口腔内崩壊型錠剤以外の構成を有する本件各発明の医薬品について、本件各発明の固形製剤の水分含量を2.9質量%以下にした場合のラクトン体の生成率を示した実施例の記載はない。
…処方例1に基づき製造された口腔内崩壊型錠剤に含有する結晶セルロースがピタバスタチンカルシムの安定性に寄与した可能性がある…。これに加えて、本件明細書には、本件各発明の固形製剤の水分含量を2.9質量%以下にすることによって、ラクトン体の生成が抑制される具体的な作用機序についての記載はない…。そして、表2の処方例1に基づき製造された口腔内崩壊型錠剤以外の構成について、固形製剤の水分含量を2.9質量%以下にすることによって、ラクトン体の生成率がどのようになるか示した実施例の記載もなく、また、処方例1に基づき製造された口腔内崩壊型錠剤の結晶セルロースを除いた構成によってラクトン体の生成率を抑制した医薬品を提供することができるとの技術常識もない。
これらを併せて考えれば、本件明細書の記載から、当業者が、本件各発明の固形製剤の水分含量を2.9質量%以下にすることにより、結晶セルロースを除いた構成によってラクトン体の生成率(40℃75%RH2か月後)が0.23%と0.35%の間のいずれかの値以下に抑制された医薬品を提供することができると認識することはできず、本件各発明の課題を解決することができると認識することはできないというべきである。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/417/091417_hanrei.pdf

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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