東京地判平成30年(ワ)1130【印刷された再帰反射シート】<損害論>102条2項の推定覆滅~2割覆滅

原告製品が低価格であることで推定覆滅するが,原告の販売数量が大きくなる可能性もあるから,大幅な推定覆滅は相当でない。
製品の価格や性能等を捨象して,競合品であると解するのは相当ではない。

<推定覆滅事由>
本件発明の一部のみを捉えて技術的特徴を措定する被告らの主張は,前提を欠く。
被告旧製品と被告新製品の耐候性の実験結果も,実験条件や環境の適否については必ずしも明らかでないから,実質的な差異はないとはいえない。
被告旧製品のカタログやウェブサイトには,本件発明の技術的特徴である耐水性・耐候性・色相に関する性能の良さを強調する記載が多数存在する。

被告らが3Mグループとしてのブランド力を有するとしても,これが被告旧製品の販売にどの程度の貢献をしたかを裏付ける証拠なし。
被告旧製品から被告新製品に切り替えた前後で売上高が大きく変化していないとしても,顧客において被告旧製品と被告新製品との相違点を認識しているか否かが定かでない以上,従前の被告旧製品の顧客吸引力がその後の被告新製品の販売に影響を与えた可能性が否定できない。

競合品といえるためには,市場において侵害品と競合関係に立つ製品であることを要する。製品の価格や性能等を捨象して,同様の用途に用いられる再帰反射シートであることをもって競合品であると解するのは相当ではない。

原告製品の販売単価が低価格であることにより推定覆滅するが,原告の販売数量が被告製品の販売数量よりも大きくなる可能性もあるから,大幅な推定覆滅は相当でない。

(判旨抜粋<覆滅事情>)
被告らが特許法102条1項ただし書の推定覆滅事由として主張する点について検討するに,次のとおり,2割の推定覆滅を認めるのが相当である。
⒜ 被告らは,本件発明において従来発明と相違する特徴とされる印刷層の印刷領域の面積の限定は,顧客吸引には全く寄与しておらず,被告旧製品と被告新製品の耐候性にも実質的な差異はないのであり,被告旧製品のカ5 タログでも,印刷層の面積の大小はセールスポイントとされていないし,原告も本件発明の実施品を日本国内で販売していないのであり,本件発明は,被告旧製品の販売に寄与しているとはいえない旨を主張する。
しかし,前記1⑼で説示したとおり,本件発明の従来技術とは異なる技術的特徴は,再帰反射シートの印刷層について,「印刷領域が独立した領域10 をなして繰り返しのパターンで設置されており,連続層を形成せず」,「独立印刷領域の面積が0.15㎟~30㎟」,かつ,「白色の有機顔料…着色剤を含有させる」との構成を組み合わせることにより,印刷層周辺の密着性を向上させ,耐水性・耐候性を向上させるとともに,色相の改善を図ることにあるのであるから,その一部のみを独立して捉えて技術的特徴を措定する被告らの上記主張は,その前提を欠くものである。また,被告旧製品と被告新製品の耐候性の実験結果(乙45~49)についても,その実験条件や環境の適否については必ずしも明らかでないから,これをもって直ちに被告旧製品と被告新製品の耐候性に実質的な差異はないとはいえない。そして,証拠(甲3,4,9,10,23,67~70)及び弁論の全趣旨によれば,被告旧製品のカタログやウェブサイトには,本件発明の技術的特徴である耐水性・耐候性・色相に関する性能の良さを強調する記載が多数存在することも認められる。
したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由と認めるのは相当ではないというべきである。
⒝ 次に,被告は,本件発明は,被告旧製品の顧客への販売に貢献しておらず,むしろ,3Mブランドに裏付けられた被告らの信用,実績及び知名度等こそが,被告旧製品の販売に極めて大きな貢献をしているというべきであり,現に被告旧製品から被告新製品に切り替えた前後でも売上高は大きく変化していないと主張する。
しかし,仮に被告らが3Mグループとしてのブランド力を有するとして5 も,これが被告旧製品の販売にどの程度の貢献をしたかを裏付ける的確な証拠は提出されていない。また,仮に被告旧製品から被告新製品に切り替えた前後で売上高が大きく変化していないとしても,顧客において被告旧製品と被告新製品との相違点を認識しているか否かが定かでない以上,従前の被告旧製品の顧客吸引力がその後の被告新製品の販売に影響を与えた可能性が否定できないから,これをもって直ちに本件発明が顧客への販売に貢献していないということはできない。
したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由であると認めるのは相当ではない。
⒞ また,被告らは,主要国道および高速道路等における道路標識に用いられる被告製品を含む長尺ロール製品については,再帰反射シートのパイオニア的存在である被告らの売上シェアが極めて大きく,原告は被告旧製品の販売数量分の実施能力を有していないのであり,実際に,被告らの販売する被告製品並びにその他の製品(Diamondグレード及びEngineeringグレードの再帰反射シート)の売上比がそれぞれ●(省略)20 ●であり,原告製品の売上比が10%であるから,仮に被告製品⑴が販売できなくなったとすれば,そのうちの●(省略)●(=10/(10+●(省略)●))のみが原告製品に向かうことになると主張する。
しかし,そもそも,競合品といえるためには,市場において侵害品と競合関係に立つ製品であることを要するものと解される。被告らは,被告ら25 が販売するDiamondグレード及びEngineeringグレードの再帰反射シートが競合品であることを前提としているが,弁論の全趣旨によれば,前者の価格は被告旧製品の●(省略)●以上であり,後者の性能は被告旧製品と同等ではないこともうかがわれるから,これらの製品の価格や性能等を捨象して,同様の用途に用いられる再帰反射シートであることをもって競合品であると解するのは相当ではない。そうすると,被告5 らが主張するDiamondグレード及びEngineeringグレードの再帰反射シートが市場において被告旧製品と競合関係に立つものと認めることはできず,それゆえに被告旧製品の需要がDiamondグレード及びEngineeringグレードの再帰反射シートと原告製品の売上シェアに応じて按分されるとはいえないというべきである。
したがって,被告らの上記主張をもって推定覆滅事由であると認めるのは相当ではない。
⒟ さらに,被告らは,仮に被告旧製品の需要が全て原告製品に向かったとしても,原告の逸失利益は,被告旧製品の販売数量に原告製品の限界利益率を乗じた額にとどまるところ,原告製品の販売単価は被告旧製品の●(省15 略)●程度の価格帯であり,原価等の控除すべき費用も被告旧製品と同じく●(省略)●程度であるはずであり,原告製品の限界利益率は被告製品のそれの●(省略)●程度にすぎないことが推認されるから,特許法102条2項によって推定される損害額は,原告の逸失利益を大幅に超えることとなると主張する。
この点,弁論の全趣旨によれば,原告製品の販売単価は,被告旧製品の●(省略)●程度の価格帯であることが認められるところ,仮に被告旧製品が販売されなかったとしても,原告において,被告旧製品の限界利益と同額の限界利益を得ることができたとは認め難く,この点については,一
定割合の推定覆滅を認めるのが相当であるが,他方で,原告製品の販売単25 価が低価格であることにより,その販売数量が,被告製品の販売数量よりも大きくなる可能性もあるのであるから,大幅な推定覆滅を認めるのが相当であるともいえない。
⒠ 以上の事情を総合考慮すると,被告らが主張する推定覆滅事由のうち,原告製品と被告旧製品の販売単価の差異についてのみ,推定覆滅事由として考慮するのが相当であり,その覆滅割合は2割と認めるのが相当である

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/776/090776_hanrei.pdf

 

 

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執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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