大阪地判平成28年(ワ)4815【油冷式スクリュ圧縮機】

<損害論>102条2項の推定覆滅~9割覆滅

約13.8億円認容

 

原告の宣伝広告物において,本件発明の作用効果について、直接的な記載も示唆もない。

原告自身も、本件発明を不実施。

原告・被告の業務形態が大幅に異なる。

 

<推定覆滅事由>

原告作成に係る原告各製品の宣伝広告物には,本件発明の作用効果に関する直接的な記載は見られず,また,これを示唆する具体的記載もない。原告自身も本件発明を不実施。

原告・被告の業務形態が大幅に異なることは,本件の侵害品であるNewTonシステムへの需要と原告各製品への需要とが質的に異なる面があることをうかがわせる。

⇒被告製品が組み込まれた被告製プラントの販売がなかった場合に,需要の全てが原告各製品やこれを組み込んだスクリュ圧縮機,更にはこれを使用したプラントに向かったであろうと見ることに合理性はなく,むしろ,そのような需要はごく限られる。(★9割覆滅は、高額であることと関連がある。売上げが高いことは、特許以外の付加価値を推認させる。)

 

⇒控訴審で逆転(進歩性×)

知財高裁令和3年5月19日令和2年(ネ)10019号判決(控訴審)において本件発明は進歩性なしとして、被告敗訴部分取消し⇒請求棄却という結果となった。

 

(判旨抜粋)

“ウ 推定の覆滅について

(ア) 基礎となる事情

a NewTonシステム及び被告製品2-2及び2-3等について

(a) NewTonシステムの特徴及び販売促進活動

NewTonシステムは,平成19年にNewTon3000が商品化され,平成20年以降,被告製プラントに使用される形で販売されており(甲8の3,乙45),基本的に,冷凍・冷蔵プラントとは別個独立のものとしては販売されていない。被告製品2-2及び2-3のみならず,被告製品2は,いずれもNewTonシステム専用の圧縮機であり(甲3),NewTonシステムを使用した被告製プラントを購入する際には,必然的に購入することになるところ,これらも,NewTonシステムと同様に,基本的に別個独立のものとして販売されていない。また,NewTon3000は,IPMモーターを搭載することなどにより,従来式に比べて20%の省エネを実現するとされ,発売開始当初は年間200台,10年後には年間800台の販売を目標にしていた(乙45,116)。

被告は,その後もNewTonシステムの開発を継続し,平成24年にはチルド専用のNewTonC,フリーザー専用のNewTonF等のシリーズ展開が行われ,平成28年までに累計●(省略)●台以上を販売した。さらに,被告は,平成28年7月,省エネ性を保ちつつ,冷媒充填量の削減,メンテナンス性の向上及び小型・軽量化を達成したフリーザー専用の機種として,F-300,F-600等の販売を開始した(甲8の3,乙45)。

NewTonシステムは,被告自ら開発したIPMモーターを搭載することなどによって,より高度な経済性と省エネルギー性を実現する点,令和2年に全廃されるフロン冷媒対策として,自然冷媒であるアンモニアで二酸化炭素を冷却するという間接冷却方式を採用するとともに,アンモニアを機械室に閉じ込める構造によりその安全な利用を可能とし,さらに,漏洩センサー等を装備するなどしてアンモニアが漏洩しても素早い対応が取れるようにしている点,コンパクトなユニット設計を採用することで導入を容易としている点,遠方監視システム及び保全診断システムなど24時間365日のサポート体制を設けている点等に特徴があるとされ,これらの点が強調された形で販売促進活動が行われていた(甲8の3,乙38,45)。

なお,NewTonシステムや被告製品2-2及び2-3の宣伝広告物には,本件明細書記載の本件発明の作用効果に直接言及し,又はこれを具体的にうかがわせる記載は見られない(甲3,8の3,乙38,66の1)。

(b) NewTonシステムを導入した業者によるNewTonシステムについての評価

被告は,その作成に係る「Customer’s Point of View」と題する記事において,NewTonシステムを導入した顧客の導入の動機,導入後の成果等を紹介しているところ,これには,以下のような記載がある。

・ 脱フロンに加え,省エネ性及びシステムの完成度を特に評価しつつ,運用管理面での改善も決め手として,NewTonシステムを導入した。その結果,脱フロン対策と電気使用量平均15~18%の削減,メンテナンス契約によるより安心で人手のかからない運用管理体制等を実現した(乙67)。

・ NewTonシステムが脱フロンで高効率に生産を担うことができる点や被告の施工及びメンテナンスに対応する総合力を評価して,NewTonシステムを導入した。その結果,効率を追求した生産ラインを構築して生産能力を向上させ,環境及び省エネ対応も充実することができた。また,パッケージ方式による工期の短縮化と,全自動運転により安全で人手のかからない運用管理体制を実現した(乙68)。

・ 従来機と比較した場合の省エネ性,冷却スピード及び連続運転時間を評価して,NewTonシステムを導入した。その結果,約40%の年間電力使用量の削減と品質の高い冷凍パン生地の安定的な製造,フロン全廃への対応による環境負荷の低減,全自動運転による保全の手間の軽減を実現することができた。

なお,この顧客においては,設備更新に当たり数社から提案を受け,徹底的に調査・検討したとのことである(乙69)。

・ アンモニア直接冷却式と比較した場合の省エネ性及び安全性を評価して,NewTonシステムを導入した。その結果,同規模施設と比較して,電力使用量平均約38%の削減,二酸化炭素排出量の削減,省施工・工期短縮,安全性の向上(アンモニア漏洩リスクの軽減,遠隔監視システム等)を実現することができた(乙0)。

(c) 環境省のウェブサイトの「省エネ型自然冷媒機器導入企業担当者インタビュー集」には,NewTonシステムを導入したと見られる顧客に関する記事が掲載されているところ,これには,以下のような記載がある。

・ 会社の重点テーマの一つである「フロン冷凍機全廃計画」を進める一環として,冷凍機器につき自然冷媒を使用した機器へと更新を進めている(乙60)。

・ 冷蔵倉庫に高効率自然冷媒冷凍機「NewTon」を導入した。自然冷媒冷凍機を導入した理由は,補助金による初期導入コストを削減できること,省エネにより電気代が削減できると判断したことによる。冷凍機の選定に当たっては,自然冷媒冷凍機を前提として複数社からの提案を受けたが,補助金を利用することによって現実的に採算が合うようなレベルで導入可能な機種として,被告からの提案を選定した。その結果,機械導入後間もないことなどから明確な省エネ効果は見えない面はあるものの,電力使用のピークがかなり下がったことは導入の効果の一つである(乙61)。

・ フロンに関する規制への対応として,省エネ型自然冷媒機器を導入した。その効果として,自然冷媒を選択したことよるリスク回避のほか,電気代の削減は大きな効果であると考えている。導入コストはこれまでの設備より10~15%程度高いが,地球温暖化を考えると,この程度の差は仕方ないと考えている(乙62)。

・ 省エネ型自然冷媒機器を導入したことによる効果のうち,省エネ効果としては,平均して15~20%の電気使用量の削減を達成した。しかし,全社方針としては省エネよりも脱フロン化の方が優先順位が高いところ,これも一定程度の削減を実現できている(乙63)。

(d) 「日本冷蔵倉庫協会セミナー」における「自然冷媒機器導入の取組み」と題する報告資料には,NewTonシリーズの冷凍機2機種合計10台とその他の機器を導入した結果,電力使用量の約50%の削減及び二酸化炭素排出量年間2073トンの削減を実現することができた旨の記載がある(乙118)。

(e) 上記(b)~(d)記載の記事等において,各顧客は,いずれも,NewTonシステム導入の理由としても,また,その成果としても,本件発明の作用効果に直接言及しておらず,また,その寄与を示唆する具体的記載もない。

(f) NewTonシステムに関連する被告の受賞歴

・ アンモニアと炭酸ガスを冷媒としたノンフロン化に取り組むとともに,高効率の省エネ型冷凍装置を開発した功績により,平成20年度地球温暖化防止活動環境大臣表彰を受賞した(乙64)。

・ アンモニアや二酸化炭素等の自然冷媒を使用する冷凍システムを採用し,代替フロンを一切使用せず,また,独自開発したモーターに永久磁石を使用することにより電気使用量を従来機種より約3割削減したとして,大型冷凍機「NewTon3000」により,日経優秀製品・サービス賞2008を受賞した(乙65)。

・ 高効率な自然冷媒冷凍機NewTon Fシステムとフリーザー各機種を組み合わせたMAYEKAWAフリーザーパックにより,コスト削減などで食品業界の発展を支えた製品を表彰する平成27年度「日食優秀食品機械資材・素材賞」を受賞した(乙66)。

なお,上記各受賞に当たり,その理由として,本件発明の作用効果に直接言及するものはなく,また,これを具体的に示唆するものもない(乙64~66)。

(g) NewTonシステムに関する記事

「共創するイノベーション-顧客との共創と営業との共創-」と題する取材レポート(マーケティングジャーナルVol.35 No4(2016)。乙45)は,被告のNewTonシステムを事例として取り上げているところ,同稿では,その特徴として,圧倒的な省エネ性能,環境対応能力,標準品生産とすることによる工事の工期短縮の実現,高い信頼性と安全性,24時間の遠方監視ネットワークによる「予知保全」を実現するサービス等を挙げ,更に,継続的な性能向上等により製品の競争優位性を保っているとされている。また,ランニングコストが20~40%安いとはいえ,製品価格が代替フロンを用いた他社製品の3~4倍となっているにもかかわらず普及が拡大している理由として,製造した製品を他の冷凍倉庫用装置と組み合わせてパッケージ化し,施工とメンテナンスまでを全て手掛けるというビジネスモデルにより,プラント受注の中で製品価格差をある程度吸収してトータルコストを抑えるとともに,需要者に安心感と信頼感を与えることを挙げている。

他方,同稿において,本件発明の作用効果に関する直接的な言及はなく,また,これを具体的に示唆する記載もない。

(h) 製造原価割合

証拠(甲6)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品2-2及び2-3が組み込まれたNewTonシステムのうち,被告主張の侵害部分(圧縮機本体,油分離器及び配管部分)だけでなく,油冷却器,フィルター,駆動モーター及び制御装置も,油冷式スクリュ圧縮機として必要な構成部分である。他方,証拠(乙109)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品2-2及び2-3が組み込まれたNewTonシステムのうち,油戻しは,油冷式スクリュ圧縮機として必要な構成部分ではない。

そして,証拠(乙75,84,109,110)及び弁論の全趣旨によれば,上記油冷式スクリュ圧縮機として必要な構成部分の製造原価がNewTonシステムの製造原価に占める割合は●(省略)●%であることが認められる。

b 原告各製品について

(a) 原告各製品の特徴

原告各製品のうち,圧縮機ユニットと呼ばれるものはスクリュ圧縮機に,コンデンシングユニットと呼ばれるものはスクリュ圧縮機に凝縮器を備えたものに,それぞれ相当することが認められるところ(甲13),弁論の全趣旨によれば,原告各製品はいずれも本件発明を実施していない。

原告各製品のうち,SHNシリーズはガス漏れ,オイル漏れに対する信頼性を向上させた製品であり,オゾン層を破壊せず,温暖化係数も小さい,地球環境にやさしい冷凍機として宣伝されている(甲13)。

また,iZシリーズについては,「二段半密閉アンモニア冷凍機」と題する記事(神戸製鋼技術/Vol.63 No.2(Sep. 2013)。甲13の5)において,優れた省エネ性能,冷凍能力の増強,静音という特徴を有した冷凍機であり,省エネ性能の向上は,顧客におけるランニングコストの削減及び二酸化炭素排出量の削減に寄与し,冷凍能力の増強は,顧客のイニシャルコスト削減につながるとともに,冷却対象物の品質向上にも寄与するとされる。さらに,半密閉アンモニア冷凍機は,地球温暖化防止や環境保全の流れにマッチし,平成25年9月時点で,累計出荷台数が200台を超えたとされている。その宣伝広告物においては,高い省エネ性,半密閉化によるアンモニア漏れの心配の解消とメンテナンス性の向上,従来機と比較における冷凍能力増強,運転状態の常時モニタリングによる緊急時への対応能力が強調されていた(甲13)。

他方,原告作成に係る原告各製品の宣伝広告物には,本件発明の作用効果に関する直接的な記載は見られず,また,これを示唆する具体的記載もない(甲13)。

(b) 原告各製品の取扱業者による販売促進活動

「コンプレッサの販売とシステム提案」により「工場の省エネ化をトータルでプロデュース」するという業者が,その取扱製品として原告各製品のうちiZシリーズを紹介しているところ,そこでは,「平成15年度日本機械工業連合会会長賞受賞」という実績と共に,従来機との比較で冷凍能力の40%向上,運転状態の常時モニタリングによる緊急時への対応能力,省エネ性能等を強調している(甲15の2)。

(c) 原告各製品の受賞歴

原告各製品のうちiZシリーズは,優れた省エネ機器に与えられる平成15年度日本機械工業連合会会長賞を受賞する(甲15の2)とともに,平成16年には日本冷凍空調協会の技術賞を受賞した(甲15)。

c NewTonシステム及び原告各製品の販売実績

証拠(甲13の4,乙73)及び弁論の全趣旨によれば,アンモニア/二酸化炭素冷媒・冷凍設備の冷凍機用途の油冷式スクリュ圧縮機市場は,事実上被告と原告の二社寡占状態であること,平成20年~平成28年における,被告製品2-2及び2-3の組み込まれたNewTonシステムを被告が販売した実績と,原告各製品を原告が販売した実績の推移が以下のグラフのとおりであることがそれぞれ認められる。

●(省略)●

他方,証拠(甲18,19,乙73,85,93,110)及び弁論の全趣旨によれば,同時期に,被告製品2-1の組み込まれたNewTonシステムを被告が販売した実績は,多くとも合計●(省略)●である。

(イ) 検討

a 前記認定のとおり,被告は,基本的には,油冷式スクリュ圧縮機である被告製品2-2及び2-3を独立して販売しておらず,また,これらを組み込んだNewTonシステムについても同様であり,被告製品2-2及び2-3を組み込んだNewTonシステムを使用した被告製プラントを販売している。他方,原告は,スクリュ圧縮機又はこれに凝縮器を付加した原告各製品を販売しているにとどまり,プラントという単位でみると,「セットメーカ」などといわれる別の業者が需要者に対して提案するパッケージに組み込まれて販売されるという関係にある。このように両者の業務形態が大幅に異なることは,本件の侵害品であるNewTonシステムへの需要と原告各製品への需要とが質的に異なる面があることをうかがわせる。このため,仮に被告製品2-2ないし2-3を組み込んだNewTonシステムが販売されなかったとしても,原告各製品のいずれかが被告製品2-2又は2-3に直接代替されることは考え難い。他方,そのような場合に,被告製品2-2及び2-3の譲渡数量に対応する需要の全部又は一部が原告各製品の組み込まれたシステムを使用したプラントに向かうことはあり得ることから,その場合は,結果的に,上記需要が原告各製品に向かったことになる。もっとも,原告は,プラントを構成する圧縮機を販売するにとどまり,プラント全体の構成及び価格の決定や需要者に対する販売促進活動において及ぼし得る影響力には限りがあると思われる。

以下では,このような観点も踏まえて,推定覆滅の有無及び程度を検討する。

b 被告製品2-2及び2-3は,本件発明の技術的範囲に属するものである以上,基本的には本件発明の作用効果を奏すると考えられるところ,被告製品2-2及び2-3において,本件発明の作用効果を奏していないという事情はうかがわれない。この点,被告は,被告製品2-2及び2-3が本件発明の作用効果を奏するものではない旨主張するが,採用できない。

もっとも,本件発明の作用効果は,スラスト軸受の負荷容量を大きくすること,バランスピストンの受圧面積を大きくすること,逆スラスト荷重状態の発生をなくすことなど,単純かつコンパクトな構造で,振動,騒音を低減させることができるというものであり,技術的にはさておき,本件発明の実施品ないしこれを組み込んだシステムの経済的価値に強いインパクトを及ぼすような性質のものとは必ずしもいえない。このことは,被告製品2-2及び2-3につき,被告がその販売促進活動において本件発明の作用効果に直接的に言及していないこと,NewTonシステムに対する外部的な評価においても,本件発明の作用効果に直接的に関わるものは見当たらず,これを示唆するものもないこと,特許権者である原告自身も,スクリュ圧縮機等である原告各製品において本件発明を実施していないことによっても裏付けられる。そうすると,本件発明の作用効果それ自体には,それほど強い顧客吸引力はないと見るのが相当である。

また,弁論の全趣旨によれば,NewTonシステムは被告製プラントの顧客吸引力の中核を成す部分であり,被告製品2-2及び2-3は,NewTonシステムを稼働させるために不可欠な部品であることが認められる。そこで,NewTonシステムの顧客吸引力を検討すると,被告は,NewTonシステムの販売促進活動において,省エネ,安全性,サポート体制等を特徴とするものであるとの点を強調している。しかも,被告が強調するNewTonシステムのこれらの特徴は,表彰の受賞理由とされ,また,その導入の動機となり,現にその実績も上がっているとされるなど,第三者からも積極的に評価されていることがうかがわれる(なお,原告は,省エネや安全性が本件発明の作用効果であるとも主張するけれども,NewTonシステムにおける省エネや安全性はIPMモーターや間接冷却方式を採用するなどしたことによるものであり,本件発明の作用効果とは無関係と見られることから,この点に関する原告の主張は採用できない。)。

c 被告製品2-2及び2-3の製造原価がNewTonシステムの製造原価に占める割合は,被告製品2-2及び2-3の技術的・商業的価値を直接的に反映したものではないが,これを推し測る一事情とはなるところ,被告製品2-2及び2-3がNewTonシステムを可動させるために不可欠な部分であるといっても,NewTonシステムの製造原価における被告製品2-2又は2-3の製造原価の割合は,●(省略)●にとどまる。

d NewTonシステムを使用した被告製プラントとそれ以外の同様のプラントの販売実績は,アンモニア/二酸化炭素冷媒・冷凍設備の冷凍機用途の油冷式スクリュ圧縮機市場が事実上被告と原告の二社寡占状態であることに鑑みると,原告及び被告の各製造に係る圧縮機の納入実績におおむね対応するものと推察されることから,NewTonシステムを使用した被告製プラントの販売実績の方が右肩上がりである●(省略)●。また,被告製プラントで使用されるNewTonシステムに組み込まれる圧縮機として被告の製造に係るもの以外のもの(おのずと,原告の製造に係る製品がその候補となる。)が組み込まれるという事態は考え難い。そうすると,被告が非侵害品を販売していたり,販売することが容易であったりすれば,仮に被告製品2-2及び2-3が組み込まれたNewTonシステムが販売されなかったとしても,需要の多くは被告の製造に係る非侵害品等を組み込んだNewTonシステムを使用したプラントに向かったであろうと考えるのが合理的である。

そして,被告は,被告製品2-2及び2-3以外にも,本件発明を侵害しないNewTonシステム専用品として,被告製品2-1を製造しており,これによって被告製品2-2及び2-3に代替することが考えられる。なお,原告は,被告製品2-1が組み込まれたNewTonシステムの販売実績が少なかったことを指摘するけれども,現に納入実績がある以上,需要者の需要を満たすものである限り,被告製品2-1による代替に需要が向かう可能性を否定することはできない。

また,被告は,本件特許権侵害行為当時,被告製品2以外にはNewTonシステム専用の油冷式スクリュ圧縮機を製造していなかったものの,弁論の全趣旨によれば,NewTonシステムにおいて,本件特許権の侵害を回避するために,例えば油ポンプを加えて加圧流路を設けることについての物理的な制約はさほどなく,また,コスト的にも問題とすべき程度に至るとは見られない。そうすると,被告製プラントを欲する需要者の要望に対し,既存機種をベースとしたカスタマイズ等の形で対応し,本件特許権侵害を回避することは比較的容易であったとうかがわれる。実際には,本件特許権の非侵害品であるNewTonシステム専用の圧縮機としては被告製品2-1しかなく,また,上記カスタマイズといった対応も取られなかったとはいえ,推定を覆滅すべき事情としては,この点も考慮するのが合理的である。この点につき,原告は,競合品として考慮できるのは現実に市場に存在した製品に限られると主張するが,上記のとおり,これを採用することはできない。

e 被告は,被告のNewTon事業の限界利益率が,原告の圧縮機事業の限界利益率を上回ることを前提に,特許法102条2項により算定された利益の額が,特許権者である原告がその実施能力に基づき得られたであろう利益の額を上回る場合は,その限度で覆滅されると主張する。

しかし,仮に被告のNewTon事業の限界利益率が原告の圧縮機事業の限界利益率を上回るとしても,それをもって原告の圧縮機事業の実施能力が被告のNewTon事業の実施能力に劣ることを意味するものではないから,被告の上記主張は,その前提を欠く。

したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。

f 以上の事情を総合的に考慮すると,本件においては,被告製品2-2及び2-3が組み込まれたNewTonシステムを使用した被告製プラントの販売がなかった場合に,これに対応する需要の全てが原告各製品やこれを組み込んだスクリュ圧縮機,更にはこれを使用したプラントに向かったであろうと見ることに合理性はなく,むしろ,そのような需要はごく限られると考えられる。そうすると,本件では,9割の限度で,特許法102条2項による推定を覆滅するのが相当である。”

 

089306_hanrei.pdf (courts.go.jp)

 

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
本件に関するお問い合わせ先:h_takaishi☆nakapat.gr.jp(☆を@に読み換えてください。)