東京地判平成29年(ワ)7207【真空洗浄装置】<損害論>102条2項の推定覆滅~5割覆滅

<推定覆滅事由>
本件発明は真空洗浄装置の乾燥工程に関する。真空洗浄装置の主目的はワーク洗浄。被告製品全体において、本件特許の寄与する割合はその一部にとどまる。
顧客は,所望のワークを洗浄し得るかという点に大きな関心を有する。本件発明による急速乾燥の効果が顧客誘引力に与える程度は,洗浄能力に比べると小さい。

(「浸漬なし」のタイプで共通するから、)原告製品の被告製品に対する代替性は、競合他社に比べて高い。

(判旨抜粋)
特許法102条2項は推定規定であるから,侵害者の側で,侵害者が得た利益の一部又は全部について,特許権者が受けた損害との相当因果関係が欠けることを主張立証した場合には,その限度で前記の推定は覆滅される。そして,以下に検討するとおり,当該推定は,5割の限度で覆滅されるというべきであるから,被告製品の製造販売自体について,原告らに生じた損害は,3億2111万5130円であると認めることができる。
ア 本件特許権2は,真空洗浄装置の乾燥工程に関するものである。真空洗浄装置は,本件明細書等の段落【0023】~【0031】にも記載があるとおり,準備工程,搬入工程,洗浄工程,乾燥工程,搬出工程などを経て一連の作業が行われる。このうち,乾燥工程も重要な役割を担うものの,真空洗浄装置の主たる目的はワークを洗浄することにあるので,被告製品全体において本件特許の寄与する割合はその一部にとどまるということができる。
また,顧客が真空洗浄機を購入するに当たっても,所望のワークを洗浄し得るかという点に大きな関心を有すると考えられ,本件発明2による急速乾燥の効果が顧客誘引力に与える程度は,洗浄能力に比べると小さいというべきである。
イ 証拠(甲36・添付資料)によれば,平成27年3月期における真空洗浄装置の市場占有率は,不二越52.5%,原告25.0%,アクア化学株式会社7.5%,株式会社クリンビー4.5%,被告4.5%であったと認められる。
他方で,例えば,市場シェアが首位の不二越は「浸漬あり(洗浄室内の洗浄湯に製品を浸して洗う)」のタイプの製品に強いのに対し,原告及び被告は,いずれも「浸漬なし(蒸気やシャワーなどを利用して洗う)」のタイプの製品の開発・販売にも注力していたものと認められる。
実際のところ,被告製品は「浸漬なし」のタイプに属し,容量の大きい15 L型真空弁及び水冷バッフルを用いることにより急速な乾燥を可能にするものであると認められ,被告製品の製品案内(甲37)にも「製品を急速乾燥する。従来の乾燥時間の10分を1~2分へ大幅に短縮」などの記載があり,洗浄性能等を強調する他社の製品案内(甲38~甲43)と比較すると,原告製品(甲44)と同様,急速乾燥をメリットとして顧客にアピールる製品であったと認められる。
そうすると,本件特許権2の侵害行為がなければ,被告製品の顧客の一定の割合が原告ではなく,競合他社から真空洗浄装置を購入したとしても,被告製品が「浸漬なし」のタイプに属し,急速乾燥の実現を特徴としていることに照らすと,原告製品の被告製品に対する代替性は競合他社に比べて高いというべきである。
ウ 被告は,本件発明2の進歩性の程度が低いと主張する(なお,この点に関する被告の主張が,損害論としてのものであるから,これが時機に遅れた攻撃防御方法であり,却下されるべきであるとする原告らの主張は理由がない。)。
しかし,本件発明2は,洗浄室・乾燥室を真空ポンプで真空引きして減5 圧するという従来の方法では乾燥工程に長時間を要するとの課題を解決するため,「前記真空ポンプによって前記洗浄室とは独立して減圧され,当該減圧の状態が保持される凝縮室と,」との構成(構成要件2D)や,
「洗浄室を…凝縮室と連通させてワークを乾燥させる」との構成(同2G)等を採用し,凝縮室と洗浄室との連通による凝縮作用により急速な乾燥を10 実現するものであるが,同発明の技術思想や特徴的な構成が特許2の出願当時に公知であったと認めるに足りる証拠はない。
そうすると,本件においては,被告製品を販売することができなかった事情として,本件発明2の進歩性の程度を考慮することは相当でない。
エ 以上の事情を総合考慮すれば,特許法102条2項による前記の損害の推定は,5割の限度で覆滅されるというべきである。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/438/090438_hanrei.pdf

 

 

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執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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