東京地判平成28年(ワ)25436【アミノ酸生産菌の構築方法】<損害論>

<102条2項の推定覆滅~50%覆滅>
競合品(シェアで按分)

<推定覆滅事由>
競合品の販売(シェアに応じた減額)
⇒原告以外の業者によるインドネシアからの輸入量を裏付ける証拠はない。もっとも、被告ら販売分に係る本件MSGに向けられた需要の少なくとも50%程度は,原告以外によって輸入販売されたグルタミン酸ナトリウムに向かった可能性がある。

<寄与率>  発酵法によるグルタミン酸の製造に当たり,発酵段階と精製段階があり,さらに発酵段階において菌株内で複数の反応があり,本件発明がそのうちの特定の段階ないし反応に係るものであるとしても,それをもって本件MSGの製造への上記各特許発明の寄与の程度が低いとは認められない。

(判旨抜粋)
推定覆滅事由
(ア) 競合品の販売(シェアに応じた減額)について
a 証拠(乙101,117)及び弁論の全趣旨によれば,被告各製法使用期間中のグルタミン酸ナトリウムの各国から日本への輸入量は,別紙16被告各製法使用期間中のグルタミン酸ナトリウムの輸入状況の①欄から⑩欄までに記載のとおりであり,そのうち,①タイと②ブラジルからの輸入については,その全量が原告が輸入して日本国内で販売したものであり,③インドネシアからの輸入については,被告ら販売分(③A)のほか,原告が輸入したものがあったことが認められる。なお,平成29年分の算定に当たっては,平成23年から平成28年までの資料(乙117)と同様の資料として,乙第101号証の添付資料6ではなく,添付資料7に記載の数量を採用した。
b 本件MSGはグルタミン酸ナトリウムであり,前記aのとおり,被告各製法使用期間中に輸入されていた前記aのグルタミン酸ナトリウムは,いずれも被告ら販売分に係る本件MSGと同等なものとして日本の市場において競合関係にある製品に当たると認められる。
このように,被告ら販売分と原告による輸入販売分以外に,上記の競合品が存在していたことは,前記オの被告らの限界利益の合計額の一部について,特許法102条2項の推定を覆滅すべき事情として考慮すべきである。
c 上記事情による覆滅割合を以下検討する。
前記aの③インドネシアからの輸入分のうち,被告ら販売分(③A)以外の数量(③B)について,被告はその半分は原告以外によるものと推定されると主張するが,原告以外の業者によるインドネシアからの輸入量を裏付ける証拠はない。
原告が,当該数量(③B)のほとんどは原告によるものであったと主張していることを考慮して,これについて原告による輸入であったと仮定した上で,原告による輸入販売分(⑪)を算定し,全体の輸入量(⑩)から被告ら販売分を控除した数量(③A)に占める,原告による輸入販売分(⑪)の割合を算定すると,被告各製法使用期間中の各年における当該割合は,同別紙記載のとおり,それぞれ●(省略)●%から●(省略)●%までとなり,各年の平均は44.7%と算定される。
原告は,被告が提出する財務省の貿易統計の資料(乙117の資料3~10)について,当該資料に含まれていない輸入量として,グルタミン酸として輸入されて,国内でグルタミン酸ナトリウムに加工されるものがあり,それはほとんどが原告による輸入であったとも主張するが,それを裏付ける具体的な資料を提出しておらず,証拠(乙101の添付資料7)によれば,このようなグルタミン酸の輸入量は,グルタミン酸ナトリウムの輸入量に比較して少ないものであったことがうかがわれる。
そうすると,原告の主張を考慮しても,被告各製法使用期間中に,被告ら販売分が販売されていなかったとしても,被告ら販売分に係る本件MSGに向けられた需要の少なくとも50%程度は,原告以外によって輸入販売されたグルタミン酸ナトリウムに向かった可能性があると認めるのが相当であり,これによる50%の推定覆滅を認めるのが相当である。
(イ) 本件各特許権の損害に対する寄与の程度について
被告は,本件各特許に係る発明は,複雑かつ多様な工程を備えたグルタミン酸の製造方法のうちごく一部に寄与しているにすぎず,それぞれの本件MSGの製造への寄与の程度は低いとして,特許法102条2項による損害の算定に当たっては,本件各特許の寄与率を考慮すべきであり,あるいは,寄与率に応じた推定の覆滅が認められるべきであると主張する。
しかしながら,被告各製法使用期間において実施が認められる,本件発明1-1(本件訂正発明1-1),本件発明1-2(本件訂正発明1-2)及び本件発明1-4(本件訂正発明1-3)並びに本件発明2-5(本件訂正発明2-5)は,いずれも,特定の特徴を有する菌株を使用することによるグルタミン酸(アミノ酸)の製造方法の発明であるから,当該菌株を使用して製造された本件MSGの販売等によって上記の各特許発明の実施が認められる場合には,当該各特許発明は,いずれも販売された本件MSGの全体について実施されているものというべきである。
そして,発酵法によるグルタミン酸の製造に当たり,発酵段階と精製段階があり,さらに発酵段階において菌株内で複数の反応があって,上記の各特許発明がそのうちの特定の段階ないし反応に係るものであるとしても,それをもって本件MSGの製造への上記各特許発明の寄与の程度が低いとは認められず,その他,本件証拠上,上記各特許発明の寄与度を理由として,本件各特許権に基づく請求について特許法102条2項の推定を覆滅すべき事情があるとは認められないから,被告の上記主張は採用できない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/053/090053_hanrei.pdf

 

 

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執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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