東京地判令和2年(ワ)19924<佐藤>、19932<佐藤>、19918<田中>、19919<國分>【イソブチルGABAまたはその誘導体を含有する鎮痛剤】

 

被告医薬品の用途は出願経過で排除した用途である。

⇒「用途」非充足!!

 

「患者の訴える痛みがいかなる種類の疼痛に当たるかの判断が困難な場合があるとしても…充足性…を左右しない」

 

*実施可能要件×

*サポート要件も×

*訂正要件も×(効果を奏するように実施可能である開示が無いと、用途発明の訂正要件×)=R2(行ケ)10135

 

 

(判旨抜粋<①充足論>)

構成要件3Bは「炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みの処置における」というものであり,…構成要件4Bは「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みの処置における」というものである。…本件訂正の際に原告が特許庁に提出した上申書…において,「訂正発明3及び4において,鎮痛剤の処置対象である痛みを,審決の予告において実施可能要件及びサポート要件を満たすと判断された『炎症を原因とする痛み(炎症性疼痛)』及び『手術を原因とする痛み(術後疼痛)』に限定した。」…などと説明しているところ,…構成要件3Bの「炎症を原因とする痛み」,「手術を原因とする痛み」及び構成要件4Bの「炎症性疼痛」,「術後疼痛」は,いずれも,侵害受容性疼痛に分類される炎症性疼痛や術後疼痛を意味し,神経障害性疼痛や線維筋痛症は含まれない…。…被告医薬品は「効能・効果を神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛とする」ものであり,「炎症を原因とする痛み」,「手術を原因とする痛み」,「炎症性疼痛」又は「術後疼痛」を処置対象とするものではないから,構成要件3B及び4Bを充足しない。…

原告は,炎症や手術による組織損傷から神経細胞の感作という神経の機能異常を生じ,痛覚過敏や接触異痛を生ずることなどを理由に,神経障害性疼痛を効能,効果とする被告医薬品は,炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みを用途とするものであると主張するが,侵害受容性疼痛において神経細胞の感作が生じることがあるとしても,そのことから,「神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛」を効能・効果とする被告医薬品の用途が炎症を原因とする痛み又は手術を原因とする痛み等であるということはできない。…

原告は,痛みは患者の主観的心理状態であるから,混合性疼痛において,侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛とは,同一の患者において生ずる一つの痛みであり,両者を区別できないなどと主張するが,実際の臨床の場において患者の訴える痛みがいかなる種類の疼痛に当たるかの判断が困難な場合があるとしても,そのことは,構成要件充足性に関する上記結論を左右しない。

 

(判旨抜粋<②実施可能要件、サポート要件>)

医薬の用途発明においては,一般に,物質名,化学構造等が示されることのみによっては,当該用途の有用性を予測することは困難であり,当該医薬を当該用途に使用することができないから,医薬の用途発明において実施可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明にその医薬の有用性を当業者が理解できるような薬理試験結果を記載する必要があるが,前記判示のとおり,本件明細書等には,本件化合物が神経障害性疼痛又は心因性疼痛による痛覚過敏又は接触異痛の痛みの治療に有効であると当業者が理解し得るような薬理試験結果の記載は存在しない。…

侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛等で出現する痛覚過敏と,脊髄のNMDA受容体の活性化による中枢性感作との間に関連性があるといい得るとしても,本件特許出願当時,本件明細書等に記載された侵害受容性疼痛(炎症性疼痛,術後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み,痛風,火傷痛等)や神経障害性疼痛(三叉神経痛,急性疱疹性神経痛,糖尿病性神経障害,カウザルギー等)により出現する痛覚過敏がすべて末梢や中枢の神経細胞の感作という神経の機能異常により生じるとの技術常識が存在したとは認め難く,まして,これらの記載から,当業者が,薬理試験結果の記載もなく,本件化合物が神経障害性疼痛の治療に有効であると認識し得たということはできない。

 

(判旨抜粋<③(用途発明の)訂正要件>)

本件発明1に係る訂正は,対象となる痛みを,「痛覚過敏又は接触異痛の痛み」と限定している。ところが,本件明細書等には,侵害受容性疼痛に関する試験結果の記載しかない。本件化合物が神経障害性疼痛である「神経障害による痛覚過敏又は接触異痛の痛み」や心因性疼痛に含まれる「線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛み」に効果があることについては,本件明細書等に記載されていないし,本件明細書等の記載から自明な事項であるともいえない。この点は,本件特許出願時の技術常識を踏まえても,同じである…。本件発明2に係る訂正は,鎮痛剤の処置対象となる痛みを「神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛み」と限定している。しかし,上記…と同様の理由により,本件発明2に係る訂正は,本件明細書等に記載されていない新規事項を追加するものであるから,訂正要件を充足しない…。…

本件発明3及び4に「神経障害による痛み」や「線維筋痛症」を含むとする原告の主張内容を前提とすれば,本件発明3及び4に係る訂正は,明細書に記載のない新たな事項を追加するものであって,訂正要件に違反する…。

 

091005_hanrei.pdf (courts.go.jp)

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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