東京地判令和元年(ワ)31214【塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルム】<田中>

<進歩性>(※充足論、サポート要件の別投稿も超重要!!)

 

*パラメータに着目することの容易性否定!!

*本件発明の課題が知られていた証拠なし!!

⇒進歩性〇

 

「…様々な物性の中からあえて『低温結晶化開始温度』に着目する動機付けがあるとはいえず…。」

 

【請求項1】(ABDが「物性値」。その他が「組成値」。⇒主引例は「組成値」が全て一致し、「物性値」が不明である。)

A TD方向(ラップフィルムの幅方向)の引裂強度が2~6cNであり,かつ,

B MD方向(ラップフィルムの流れ方向)の引張弾性率が250~600MPaである

C 塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムであって,

D 温度変調型示差走査熱量計にて測定される低温結晶化開始温度が40~60℃であり,

E 塩化ビニリデン繰り返し単位を72~93%含有するポリ塩化ビニリデン系樹脂に対して,

F エポキシ化植物油を0.5~3重量%,クエン酸エステル及び二塩基酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を3~8重量%含有し,かつ,

G 厚みが6~18μmである,

H 塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルム。

 

(判旨抜粋)

…被告は,本件発明の組成値を満たす「塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルム」は,当然に本件発明の物性値(構成要件A,B,D)も満たす旨を主張する。しかし,…本件発明におい て上記のような関係は認められないから,引用発明1-2が,本件発明の組成値を満たす「塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルム」に当たるからといって,当然に本件発明の物性値も満たすものと認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。…新規性を欠くとはいえない。…

主引例である引用例1-2(乙12)には,ラップフィルムの性能としての「密着性」や「カット性」についての記載はあるものの,これらと関係する物性としての「引裂強度」や「引張弾性率」についての記載はなく,それらの数値範囲の設定が課題であるとの示唆もないから,引用例1-2に接した当業者において,様々な物性の中からあえて「引裂強度」及び「引張弾性率」に着目して,引用例2を適用する動機付けがあるとはいい難く,上記相違点を容易 に想到し得たとはいえない。…

被告は,仮に本件発明と引用発明1-2との間に本件発明の 構成要件Dの物性値(低温結晶化開始温度が40~60℃)に係る相違点があるとしても,上記物性値に係る数値範囲に臨界的意義はないから,本件発明の進歩性を基礎付けるものとはいえない旨を主張する。しかし,本件明細書によれば,本件発明は,従前のラップフィルム の「低温結晶化開始温度」が60℃を上回っていたところを,フィルムの延伸環境・延伸倍率・延伸速度,緩和環境・緩和比率,原反の保管環境等の調整によって「40~60℃」に制御する(40℃を下回ることはない。)ことにより,裂けトラブルを抑制するという課題を解決しようとするものであり,その効果も実施例及び比較例を通じて実証されている…。そうすると,本件発明の構成要件Dの物性値に係る数値範囲に臨界的意義がないということはできない。そして,引用例1-2及び引用例2には,「低温結晶化開始温度」についての記載はなく,その数値範囲の設定が課題であるとの示唆もないから,引用例1-2(及び引用例2)に接した当業者において,様々な物性の中からあえて「低温結晶化開始温度」に着目する動機付けがあるとはいえず,上記相違点を容易に想到し得たとはいえない。被告の上記主張は採用できない。…引用発明1-2に基づき,進歩性を欠くともいえない。

https://www.courts.go.jp/…/hanrei_jp/369/090369_hanrei.pdf

https://45978612-36b0-4db6-8b39-869f08e528db.filesusr.com…

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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