平成29年(行ケ)10113【…発泡性組成物】<鶴岡>

①実施例の誤記を認定して実施可能要件〇

*出願後の追試により実施可能要件を否定できなかった事例

*極端な場合に課題解決できないと追試結果を提出した
⇒アルコールの含有濃度には自ずと制約が存するから前提において誤り。

②数値範囲の上限がクレームアップされていないが、事実上の上限値を想定できたから、サポート要件〇

(判旨抜粋①実施可能要件)
…組成物の発明にあっては,当業者が本件明細書の記載並びに親出願の出願日当時の技術常識に基づいて,その組成物を生産でき,かつ,使用できるように,方法の発明にあっては,その方法を使用できるように,それぞれ具体的に記載されていると認められる。…表の上部に「調整した溶液を泡が生成されたか否かについて評価し,もしそうであったならば生成した泡を下記のように既述した」と記載されていることを考慮しても,実施例33~36については,「泡の評価/記述/特性」欄の記載及びその組成に照らし,泡が生成したと考えるのが合理的であるから,当業者は「泡の生成」欄の「無」は誤記である可能性が高いと理解すると認めるのが相当である。したがって,実施例33~36の記載に関する原告の主張は採用し難い。…
原告は,原告が実施した実験において,エタノールの濃度が99.5v/v%,界面活性剤としてbis-PEG-12ジメチコーンのみを0.01重量%含有する組成物では泡が形成されなかったと主張する。しかし、実施可能要件適合性は,出願時の技術常識を前提として,明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて判断すべきであるから,当該実験結果が本件特許の親出願時の技術常識であったと認められるのであればともかく,単に出願後に行われたにすぎない実験結果に基づいて要件適合性の有無の立証をすることはできないというべきである。仮にこの点を措くとしても,…本件発明は,アルコール,bis-PEG-[10-20]ジメチコーン又はbis-PEG-[10-20]ジメチコーンの混合物,水のほかに,第二の界面活性剤や泡安定剤を含有し得るものであるから,アルコールの含有濃度には自ずと制約が存するにもかかわらず,そのような制約を考慮しない原告の主張は,その前提において 誤りである。

(判旨抜粋②サポート要件)
…原告は,…低級アルコールの濃度が99.99重量%又はそれに近い値である場合に,安定な泡の形成が可能な発泡性組成物を提供するという課題を解決することはできないと主張する。しかし,…本件発明1は,アルコール,bis-PEG-[10-20]ジメチコーン又はbis-PEG-[10-20]ジメチコーンの混合物及び水のほかに,第二の界面活性剤や泡安定剤を含有し得るものである。そうすると, 本件発明1においては, …アルコールの濃度に事実上の上限値が想定されているというべきである。…
原告の主張は,…発明の詳細な説明…を考慮していない誤った前提に基づく…。

https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/083/088083_hanrei.pdf

 

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執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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