平成27年(行ケ)10206【エアバッグ用基布】<髙部>

<審決>
既存の製品であって機能に応じた最適化がなされているから、変更のためには相応の動機が必要
⇒進歩性〇

<本判決>
公然実施品の数値を本件発明に寄せる動機づけあるが、どの程度動かせばよいか不明
⇒進歩性〇

(判旨抜粋)
相違点1B:動的通気度。本件発明1においては「1300mm/s以下」,引用発明は「1498mm/s」である点
相違点1C:構成糸の引抜抵抗。本件発明3においては「146~200N/cm/cm」,引用発明1は「53N/cm/cm」

<審決(結論:進歩性〇。維持された。)>
課題が周知であるとしても、甲1発明は「既存の製品」であって機能に応じた最適化がなされているから、変更のためには、相応の動機が必要と解される。甲1発明において、動的通気度に影響を与える、沸水収縮率、構成糸の単糸繊度、構成糸の引抜抵抗、カバーファクターを、本件発明1が特定する範囲内で変更し、動的通気度を「1300mm/s以下」という具体的範囲にするまでの動機があるとは言えず、これが可能であることを示す証拠もない。

<本判決>
(イ) カバーファクターを大きくすることについて
…当業者は,本件優先日当時,引用発明1において,エアバッグの膨張展開時における縫合境界部の目ズレを小さくし,負荷後動的通気度を小さくするために,そのカバーファクターを2131より大きくすることを試みるものということができる。しかし,本件証拠上,カバーファクターの増加の程度と負荷後動的通気度の減少の程度との関係は,不明であり,この点に関する技術常識が本件優先日当時に存在したことも,うかがわれない。したがって,引用発明1における1498mm/sの負荷後動的通気度を…1300mm/s以下にするために,引用発明1におけるカバーファクター2131をどの程度まで上げればよいのか,不明である。本件発明1において「展開性能と生産性の両立性の観点から」より好ましいとして…,カバーファクターの数値範囲とされる2100~2500の上限値までよりも上げる必要がある場合も考えられる。また,カバーファクターは,構成糸の経緯平均の総繊度と経緯平均の織密度によって算出されるものであるから…,カバーファクターの変動は,構成糸の総繊度にも影響を及ぼすものといえる。…
(ウ) 構成糸の引抜抵抗を大きくすることについて
…当業者は,本件優先日当時,引用発明1において,エアバッグの膨張展開時における縫合境界部の目ズレを小さくし,負荷後動的通気度を小さくするために,構成糸の引抜抵抗を大きくすることにつき,動機付けがあったものということができる。しかし,本件証拠上,引用発明1における1498mm/sの負荷後動的通気度を…1300mm/s以下にするために,引用発明1における構成糸の引抜抵抗の経緯の平均値53N/cm/ cmをどの程度まで上げればよいのか,本件発明1において「構成糸への局所的な応力集中が起こらなくなり,エアバッグ破壊を引き起こすこともない」として…,上記平均値の上限値とされる200N/cm/cmまで上げれば足りるのかも,不明であり,上記上限値よりも上げる必要がある場合も考えられる。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/260/086260_hanrei.pdf

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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