平成12年(行ケ)120【アルカリ蓄電池用ニッケル電極活物質】<山下>

*物の発明において、当業者が物を容易に製造できない場合は「製造方法」の開示が必要である
*H17(行ケ)10205同旨
*H17(行ケ)10280同旨

⇒引用例の製造方法と区別できる程度に記載がない

⇒実施可能要件×

(判旨抜粋)
物の発明であっても,そこに開示されたその物の目的,構成及び効果の開示だけでは,当業者がその物を容易に製造することができないという場合には,その物を製造する方法まで開示していなければ,「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度」に「その発明の目的,構成及び効果」が明細書に記載されているとはいえない。仮に,明細書に,従来技術の下で存在しなかった物が,現に得られており,特有の作用効果を呈していることが記載されているとしても,それは,その物に新規性がある,進歩性があるというにすぎない。特許法は,新規性,進歩性に関する29条1項,2項の規定のほか,上述したとおり,旧特許法36条4項によって,当業者にとって実施容易であることをも要件としているのである。原告の主張は,要するに,当業者が実施することができなくても,新規性,進歩性があるものには特許を認めよ,ということであり,特許法による発明保護の要件の理解を誤っている…。…
本件発明に係る製造方法は,乙第1,2号証公報に記載された各技術とは同じではなく,本件明細書の記載が不十分であるため,乙第1,2号証公報に記載された各技術と区別がつかない状態になっている…。このように,本件明細書には,漠然とした操作,PH,温度範囲が示されているだけであって,本件粉末又はこれを含む水酸化ニッケル粉末を製造するために必要な,具体的な指針もない以上,当業者がこれに従って製造しようとしても,製造できるかどうかも不明のまま不相当に多くの試行錯誤をしなければならないことになるのである。このようなとき,当業者が,本件粉末を含む水酸化ニッケル粉末を容易に製造することができるとすることはできず,このような明細書の記載について,「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度」に記載されているということができない…。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/035/012035_hanrei.pdf

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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