令和3年(行ケ)10150【船舶】<東海林>=R3(行ケ)10151 ⇒除くクレームで進歩性〇

①「本件明細書等には、浸水防止部屋としてタンクの機能を兼ねるもののみが記載されていると解すべき理由はない」
+「除くクレーム」で発明の作用効果が変わらない。
⇒新たな技術的事項の導入に当たらない

②「浸水防止部屋」として機能するタンクを、タンク機能を有しない「浸水防止部屋」に置き換えると、新たにタンクを収める配置スペースが必要となる上、タンクとして利用できた配置位置をタンクとして利用できなくなる。
⇒阻害要因あり
⇒除くクレームで進歩性〇

(判旨抜粋)
①…「浸水防止部屋」は、タンクの機能を備えることが 許容されるから、「浸水防止部屋」には、タンクの機能を兼ねるものと、 タンクの機能を兼ねないものがあるものと認められる。本件明細書等には、浸水防止部屋としてタンクの機能を兼ねるもののみが記載されていると解すべき理由はないから、本件明細書等には、タンクの機能を兼ねる「浸水防止部屋」とともに、タンクの機能を兼ねない「浸水防止部屋」が記載されていると認められる。そして、タンクの機能を兼ねる「浸水防止部屋」を備える発明と、タンクの機能を兼ねない「浸水防止部屋」を備える発明は、いずれも本件明細書等に記載された発明であったから、…特許請求の範囲の請求項1の「浸水防止部屋」がタンクの機能を兼ねない「浸水防止部屋(ただし、タンクを除く。)」に訂正されて、タンクの機能を兼ねる「浸水防止部屋」を備える発明が除かれても、新たな技術的事項を導入しないことは明らかである。なお、本件訂正により、本件訂正後の発明が、側壁における隔壁の近傍が損傷を受けても、浸水防止部屋が浸水するだけで、複数の部屋に跨って浸水することはなく、船損傷時における複数の部屋への浸水を防止することができると共に、複数の部屋の大型化を抑制して設計の自由度を拡大することができるという本件発明の効果を奏することなく、新たな効果を奏する発明となると解すべき理由はない。そのため、本件訂正によって発明の作用効果が変わることによって新たな技術的事項が導入されたと解する余地もない。

②…甲6発明の「船尾トリミングタンク(バラスト水タンク)」は、もともとタンクの機能を備えるものであり、側壁に面しており、当該側壁が損傷し浸水しても、それが設けられた「部屋」に浸水しないような水密の構造となっている部屋であるから、「浸水防止部屋」にも当たり、タンクの機能を兼ねる水密防止部屋であるものと認められる。しかし、タンクを兼ねる「浸水防止部屋」を、タンクと、タンクを兼ねない「浸水防止部屋」として別々に構成することを示唆する証拠はなく、また、もともとタンクとしての機能を発揮するように設計されたものであって「浸水防止部屋」としての機能も有すると解されるようなタンクの配置位置に、タンクとしての機能を有しない「浸水防止部屋」を配置しつつ、その配置位置とは異なる箇所に別個のタンクを配置することを示唆する証拠もないから、甲6発明において「船尾トリミングタンク(バラスト水タンク)」を、タンクと、タンクでない「浸水防止部屋」として別々に構成することや、「船尾トリミングタンク(バラスト水タンク)」を、「浸水防止部屋」としての空所に置き換えることについて動機付けがあるとは認められない。
また、タンクと、タンクの機能を有しない「浸水防止部屋」を別々に構成することとし、もともとタンクとしての機能を発揮するように設計されたものであって「浸水防止部屋」としての機能も有すると解されるようなタンクを、タンクの機能を有しない「浸水防止部屋」に置き換えるとすると、新たにタンクを収める配置スペースが必要となる上に、タンクとして利用できた配置位置をタンクとして利用できなくなり、設計の自由度を損なうこととなるから、そのようなことをするについては阻害要因があるといえる。そうすると、甲6発明において、「船尾トリミングタンク(バラスト水タ ンク)」を「浸水防止部屋」としての空所に置き換え、後方の部屋に「船尾トリミングタンク(バラスト水タンク)」を配置することを当業者が容易に想到し得るとは認められない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/422/091422_hanrei.pdf

 

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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