令和3年(行ケ)10066<東海林>【エルデカルシトールを含有する前腕部骨折抑制剤】
=令和4年(ネ)第10065号

*用途の新規性否定
「前腕部の骨の病態及びこれに起因する骨折リスクについて,他の部位の骨の病態及び骨折リスクと異なると認識するものではなく」
≒東京地判令和2年(ワ)13326,13331<柴田>

(判旨抜粋)
…技術常識によれば,当業者は,甲1発明の「骨粗鬆症治療薬」につき,椎体,前腕部,大腿部及び上腕部を含む全身の骨について骨量の減少及び骨の微細構造の劣化による骨強度の低下が生じている患者に対し,各部位における骨折リスクを減少させるために投与される薬剤であると認識するものといえる。また,…技術常識によれば,当業者は,エルデカルシトールの効果は海綿骨及び皮質骨のいずれに対しても及ぶと期待するものであり,海綿骨及び皮質骨からなる前腕部の骨に対してもその効果が及ぶと認識するものといえる。さらに,前記の技術常識によれば,当業者は,骨粗鬆症においては身体のいずれの部位も外力によって骨折が生じるものであり,また,前腕部における骨折リスクは,骨強度が低下することによって増加する点において,骨粗鬆症において骨折しやすい他の部位における骨折リスクと共通するものであると認識するものといえる。以上の事情を考慮すると,当業者は,骨粗鬆症患者における前腕部の骨の病態及びこれに起因する骨折リスクについて,他の部位の骨の病態及び骨折リスクと異なると認識するものではなく,また,甲1発明の「骨粗鬆症治療薬」としてのエルデカルシトールを投与する目的及びその効果についても,前腕部と他の部位とで異なると認識するものではないというべきである。…
エルデカルシトールの用途が「非外傷性である前腕部骨折を抑制するため」と特定されることにより,当業者が,エルデカルシトールについて未知の作用・効果が発現するとか,骨粗鬆症治療薬として投与されたエルデカルシトールによって処置される病態とは異なる病態を処置し得るなどと認識するものではないというべきである。そうすると,本件各訂正発明については,公知の物であるエルデカルシトールの未知の属性を発見し,その属性により,エルデカルシトールが新たな用途への使用に適することを見出した用途発明であると認めることはできないから,相違点1に係る用途は甲1発明の「骨粗鬆症治療薬」の用途と区別されるものではない。…したがって,相違点1は実質的な相違点ではない。

https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/620/091620_hanrei.pdf

 

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執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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