令和3年(ネ)10007【含硫化合物と微量金属元素を含む輸液製剤】<本多>(原審・東地H30(ワ)29802<田中>)

 

複数の「室」というクレーム文言解釈~「連通可能」という限定がある物の発明は非充足、限定がない方法の発明は充足とした

⇒何れも非充足とした一審判決を逆転!!

 

 

【本判決の要旨、若干の考察】

 

1.特許請求の範囲(請求項1、請求項10)

 

(請求項1)

 

1A 外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において,

 

1B その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され,

 

1C 他の室に鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されており,

 

1D 微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋である

 

1E ことを特徴とする輸液製剤。

 

(請求項10)

 

10A 複室輸液製剤において,

 

10B 含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室と

 

10C 別室に鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納し,

 

10D 微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋である

 

10E ことを特徴とする輸液製剤の保存安定化方法。

 

 

2.原審・東京地判平成30年(ワ)第29802号のクレーム文言解釈(判旨抜粋)

 

被告製品及び被告方法は構成要件1C及び10Cの「室に・・・微量金属元素収容容器が収納」されている構成を備えるか…について判断する。…

 

輸液中には,通常,銅等の微量金属元素が含まれていないことから,患者は,輸液の投与が長期になるときにはいわゆる微量金属元素欠乏症を発症することとなる。しかるところ,これを予防するために必要な微量金属元素を輸液と混合した状態で保存すると,化学反応によって品質劣化の原因になり,これを防ぐべく含硫アミノ酸を含むアミノ酸輸液を一室に充填し,微量金属元素収容容器を同室に収容すると,当該アミノ酸輸液と微量金属元素とを隔離していても,微量金属元素を含む溶液が不安定となるという技術的課題が生じていた。

本件各発明は,このような技術的な課題に対して,連通可能な隔壁手段で区画されている複室の一室に含硫アミノ酸を含有する溶液を充填し,これとは他の室に,微量金属元素を収容した容器を収納するという構成を採用することにより,上記技術的な課題を解決し,微量金属元素が安定に存在していることを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供するという効果を奏するようにしたものであるというべきである。

そうである以上,本件各発明の課題解決の点における特徴的な技術的構成は,微量金属元素収容容器を,含硫アミノ酸を含有する溶液と同じ室ではなく,同室と連通可能な他の室に収納するという構成を採用したところにあるものというべきである。そして,これは,連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器であることを前提として,その複数の各「室」については,それぞれ異なる輸液を充填して保存するための構造となっており,上記の微量金属元素収容容器を収納する「室」は,含硫アミノ酸を含有する溶液とは異なる輸液の充填・保存のための構造となっている「室」であるという技術的構成が採用されたものということができる。

すなわち,本件各発明において,構成要件1Aの「複数の室」及び構成要件10Aの「複室」は,各種輸液を充填して保存するための構造となっている各空間を意味すると解されることから,輸液容器に設けられた空間がその一室である構成要件1C及び10Cの「室」に当たるためには,当該空間が輸液を充填して保存し得る構造を備えていることを要する…。…

 

被告製品ないし被告方法について見ると,…小室Tの外側の樹脂フィルムと内側の樹脂フィルムとの間の空間は,使用時に中室及び小室Vと連通するものではなく,これに照らすと,同空間が,輸液を充填して保存し得る構造を備えているものとは認められないといわざるを得ず,同空間が「室」に当たるということはできない。

 

 

3.知財高判令和3年(ネ)第10007号のクレーム文言解釈(判旨抜粋)

 

…本件各訂正発明の課題について…

 

本件各訂正発明は,連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器が病院で使用されているところ,輸液中には通常微量金属元素が含まれていないことから投与が長期になると微量金属元素欠乏症を発症するが,微量金属元素は輸液と混合した状態で保存すると品質劣化が問題となるため,依然として輸液の投与直前に混合されているという現状に鑑み,外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器を用い,用時に細菌汚染の可能性なく微量金属元素を混入することができ,かつ,保存安定性にも優れた輸液製剤の創製研究が開始されたものの,含硫アミノ酸を含むアミノ酸輸液を一室に充填して微量金属元素収容容器を同室に収容すると,当該アミノ酸輸液と 微量金属元素が隔離してあっても微量金属元素を含む溶液が不安定であるという問題が生じることを知見し,その上で,微量金属元素が安定に存在していることを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供することを目的とするものである。…

 

本件訂正発明1及び2は,微量金属元素が安定に存在していることを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供することを課題とするものであるが,より具体的には,外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器を用いて,あらかじめ微量金属元素を用時に混入可能な形で保存してある輸液製剤であって,含硫化合物を含む溶液を一室に充填した場合であっても微量金属元素が安定に存在している輸液製剤を提供することを課題とするものと解される。同様に,本件訂正発明10及び11の課題は,そのような輸液製剤の保存安定化方法を提供することを課題とするものである。…

 

…「室」について…

 

…被控訴人製品に係る輸液容器について,その構成の中で基礎となる一連の部材によって構成される空間は,大室及び中室を直接構成するとともに小室T及び小室Vの外側を構成する一連の部材によって構成される空間であるといえる。…本件明細書の段落【0024】 は,「微量金属元素収容容器を収納している室」には,溶液が充填されていてもよいし,充填されていなくてもよい旨を明記しており,同【0033】は,「本態様の輸液製剤では,図1に示す輸液容器の第1室4に,溶液が充填されていてもよいし,充填されていなくてもよい」と明記しているところであるから,本件各訂正発明においては,輸液が充填される空間であるか否かという点は,「室」であるか否かを決定する不可欠の要素ではない…。…

 

構成要件1A…においては,「複数の室を有する輸液容器」の前に,「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている」との特定が付加されている。…被控訴人製品は,「室」が「連通可能」という要件を充足しないから,構成要件1A…を充足しない…。…

 

構成要件1A…と異なり,構成要件10A…については,「室」が「連通可能」であることは要件とされていない。したがって,…被控訴人方法は,構成要件10A…を充足する…。

 

 

4.若干の検討

 

一審判決は、「構成要件1C及び10Cの『室に・・・微量金属元素収容容器が収納』されている構成を備えるか…について判断する。」とした上で、本件発明の「室」は、「連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器であることを前提として,」それぞれ異なる輸液を充填して保存するための構造であり、「含硫アミノ酸を含むアミノ酸輸液を一室に充填し,微量金属元素収容容器を同室に収容すると,当該アミノ酸輸液と微量金属元素とを隔離していても,微量金属元素を含む溶液が不安定となるという技術的課題」を解決したと解釈し、「被告製品ないし被告方法について見ると,…小室Tの外側の樹脂フィルムと内側の樹脂フィルムとの間の空間は,使用時に中室及び小室Vと連通するものではなく,これに照らすと,同空間が,輸液を充填して保存し得る構造を備えているものとは認められないといわざるを得ず,同空間が『室』に当たるということはできない。」として、非充足と判断した。

 

他方、控訴審判決は、一審判決と異なり、複数の室が連通可能であるという前提を置かず、本件発明の課題について「微量金属元素が安定に存在していることを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供することを課題とする」と認定した上で、構成要件1A(物の発明)は,「複数の室を有する輸液容器」の前に「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている」との特定が付加されているから「連通可能」でない被告製品は非充足であるが、構成要件10A(方法発明)は,「室」が「連通可能」であることが要件とされていないから、「連通可能」でない被告方法も充足すると判断した。

 

以上のように、一審判決と控訴審判決との結論の相違は、構成要件10A(方法発明)は,「室」が「連通可能」であることが要件とされていないにもかかわらず、一審判決は、「連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器であることを前提として」いると解釈し、クレーム文言に無い「連通可能」という限定を加えた限定解釈をしたものである。他方、控訴審判決は、請求項1(物の発明)は「連通可能」という発明特定事項を有するが、請求項10(方法発明)はこれを有しないことを指摘し、限定解釈をしなかった。(従属関係ではないが、)複数の請求項で「連通可能」という発明特定事項を有する請求項と有しない請求項があるとき、これを有しない請求項は当該限定がないとして、前者は非充足、後者は充足という結論となった。典型的な「クレームディファレンシエーション」の事案ではないが、従属項であるか独立項であるかにかかわらず、発明特定事項を入れた請求項と入れなかった請求項とで結論が分かれることは当然に有り得るところ、それが顕在化した事案であると理解可能である。(もちろん、請求項1がなく、請求項10のみが争われても同じ結果であったかもしれないが、このように複数の請求項同士で発明特定事項を変えることで、例えば、限定された従属項はより具体的な「課題」に対応するという関係を構築することで、限定解釈の紛れを低減することが可能であろう。)[i]

 

なお、控訴審判決は、発明の課題について、「微量金属元素が安定に存在していることを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供することを課題とするものであるが,」と一旦認定した上で、さらに、「より具体的には,外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器を用いて,あらかじめ微量金属元素を用時に混入可能な形で保存してある輸液製剤であって,含硫化合物を含む溶液を一室に充填した場合であっても微量金属元素が安定に存在している輸液製剤を提供することを課題とする」と、課題を「より具体的に」認定した。下掲・平成29年(ネ)10092「電力電子装置を冷却する装置」事件判決のように、一審判決と控訴審判決とで発明の課題の解釈が異なったことで結論が変わった(逆転した)のではないかと考察したが、控訴審判決のロジックを検討した限り、発明の課題をより具体的に認定したことと、請求項10の方法発明がクレーム文言にない「連通可能」という限定解釈をされないという結論とは、直接関係ないと思われる。

 

 

【関連裁判例の紹介(控訴審で逆転勝訴した近時16年間の裁判例網羅)】

 

≪①非充足⇒充足(特許権者逆転勝訴)≫

 

(1)★平成21年(ネ)10006「中空ゴルフクラブヘッド」事件<飯村>

 

「(1)置換可能性について…目的,作用効果(ないし課題解決原理)を共通にするものである

 

(2) 置換容易性

 

(3)非本質的な部分か否かについて

 

本件発明の目的,作用効果は…金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接合強度を高めることにある。」⇒均等侵害〇

 

原審・東京地判平成19年(ワ)28614<阿部>

 

「本件発明は・・・金属製の外殻部材の接合部と繊維強化プラスチック製の外殻部材の接合部とを接着するだけでは十分な接合強度が得られないため,接着に加え・・・縫合材を用いることにより,両者の外殻部材を結合して接合強度を高めたものである。 ・・・縫合材により,金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを結合したことが課題を解決するための特徴的な構成であって,このような縫合材は,本件発明の本質的部分というべきである。」⇒均等侵害×(第1要件×)

(2)★★★平成29年(ネ)10092「電力電子装置を冷却する装置」事件<高部>

 

「冷却流体通路が,熱放散ブリッジを冷却するための構成・・・熱放散ブリッジの底面により形成される壁は,冷却効率の観点から,冷却流体通路の全長にわたっている必要がある。一方,・・・後部軸受けの冷却は,冷却流体通路を通る空気によってではなく,・・・必ずしも,冷却通路全体にわたる必要はない。」

 

⇒イ号製品の「後部軸受けブリッジ側通路」は長手方向全長でないが、逆転文言充足

 

※「熱放散ブリッジ」を冷却することに発明の課題を限定したことで、発明が広がった!!

 

原審・東京地判平成28年(ワ)13239<柴田>

 

「特許請求の範囲の記載において,本件発明1には,流体の通り道として複数の部分が存在することが定められ,・・・『冷却流体通路(17)』は,上記の各長手方向壁が対向する空間をいうことが定められているといえる。」⇒非充足

(3)平成22年(ネ)10031「流し台のシンク」事件<飯村>

 

「構成要件C1・・・は,従来技術においては・・・上側段部と中側段部のそれぞれに・・・専用の調理プレートを各別に用意しなければならないという課題があったのに対して,同課題を解決するため,後方側の壁面について,上側段部の前後の間隔と中側段部の前後の間隔とをほぼ同一の長さに形成して,それら上側段部と中側段部とに,選択的に同一のプレートを掛け渡すことができることを 図ったものである。」⇒充足

 

⇒イ号製品の「傾斜面」は途中まで奥方に延びた先に垂直面を含むが、逆転文言充足

 

※課題を、専用の調理プレートを用意不要と認定した結果、発明が広がった!!

 

原審・東京地判平成21年(ワ)5610<清水>

 

※「内部空間を広くすることができ」ること(段落【0018】)は、本件発明の課題である。

 

「『・・・』【0018】)との記載から, ・・・構成要件C1の『下方に向かうにつれて,奥方に向かって延びる傾斜面』とは,上側段部と中側段部との間において,下方に向かうにつれて奥方に延びることにより,奥方に向けて一定の広がりを有する『内部空間』を形成するような,ある程度の面積と傾斜角度を有する傾斜面を意味する」⇒非充足

(4)平成17年(ネ)10119「リガンド分子の安定複合体構造の探索方法」事件<塚原>

 

※本件発明の課題を、原審と別異に認定した。⇒「ダミー原子」が多数であってもOK。

 

「本件特許発明は・・・生体高分子の水素結合性領域において安定して結合するリガンド分子を探索するために,その水素結合等に注目し,生体高分子中の水素結合性官能基の水素結合の相手となり得るヘテロ原子の位置に設定したダミー原子の間の距離と,リガンド分子中の水素結合性ヘテロ原子の間の距離を比較するのと同時に,リガンド分子の活性配座を推定することに,その発明としての中核的な技術思想があるのであり,ダミー原子自体は,必須のものではあるものの,その個数は,本件特許発明の上記技術思想と直接には関係しない・・・。」⇒逆転文言充足

 

原審・大阪地判平成17年(ワ)1394、平成17年(ワ)3681<山田>

 

「本件特許発明における『ダミー原子』とは,生体高分子中の各水素結合可能原子の各水素結合性領域につき1個ずつ設定されるものである。」⇒非充足

 

(理由)①明細書中で一点を示すものとして使用されている。②原告執筆の論文でも、1点のダミー原子しか設定されていない。③ダミー原子が多いと計算の高速化という、本件発明の目的が実現されない。④多数のダミー原子を含むならば記載要件違反。

(5)★平成30年(ネ)10016「液体を微粒子に噴射するノズル」事件<大鷹>

 

「請求項4・・・『微粒子』の粒子径を特定の数値範囲のものに限定する記載はない。・・・明細書・・・全体として読めば・・・『10μm以下』の粒子径の微粒子を噴射できることに格別の作用効果があることを述べたものではない。・・・『微粒子』とは,小さな粒子径の粒子を意味するものであって,粒子径の数値範囲に限定はな・・・い。」⇒逆転文言充足

 

※明細書に記載された数値で発明の課題を解決したものではない。⇒数値限定なし!!

 

原審・大阪地判平成27年(ワ)12965<高松>

 

「本件明細書においては,まず,従来技術において,粒子径を10μm以下の微粒子に噴射できるノズルは,極めて詰まりやすいという欠点があることを指摘した上で,本件発明はその詰まりやすいという課題を解決することを目的とするものであることを説明し,さらに,課題解決手段の項で・・・粒子径を10μm以下の微粒子の液滴を噴射することに『成功』することを説明している。・・・本件発明の『液体を微粒子に噴射する』とは,高速流動空気によって押しつけられた液体の薄膜流が平滑面ないし傾斜面から離れるときに10μm以下の液滴の微粒子になることをいう」~明細書の数値に限定⇒非充足

(6)平成23年(ネ)10002「(切り)餅」事件<飯村> ⇒逆転文言充足

 

≪争点≫「切餅の載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に…溝部を設け」というクレームが、餅体の”側周表面”のみならず”平坦上面”にも「溝部」があるイ号製品(右図)を含むか否か。

 

①「載置底面又は平坦上面ではなく、この小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に」のように句読点が無い。②「発明の詳細な説明欄・・・載置底面又は平坦上面に切り込み部等を形成すると、上記作用効果が生じないなどとの説明がされた部分はない」③「側周表面のみに」とする手続補正は却下されたため出願人が同手続補正を撤回した。

 

原審・東京地判平成21年(ワ)7718<大鷹>⇒非充足

 

①「かかる態様を排除しない意図であれば『載置底面又は平坦上面ではない…側周表面』というクレーム表現が適切であった」、②「『焼いた後の焼き餅の美感も損なわず実用化でき』るという作用効果・・・載置底面又は平坦上面に溝部を設ける態様を排除している」③手続補正撤回とともに出願人が提出した、限定されない旨の意見書は結論に影響なし

(7)平成26年(ネ)10082「4H型単結晶炭化珪素の製造方法」事件<高部>

 

特許請求の範囲も、本件明細書も、坩堝に充填する出発原料を限定する記載はない。

 

「坩堝に充填する材料が炭化珪素固体に限られないことを明記する」文献(甲14、40の5)

 

「坩堝に充填する出発原料の点では,種結晶を用いた昇華再結晶法とレーリー法との間に基本的な相違はないとする」「半導体炭化珪素技術に関する書籍」(甲3、25)

 

「実施例・・・のみに限定して解釈すべきであるとはいえない。・・・『昇華再結晶法』は・・・出発原料として珪素と炭素を用い・・・て結晶状態の炭化珪素を形成し,この炭化珪素を昇華させることで種結晶上に単結晶炭化珪素を形成する態様も含まれる」⇒逆転文言充足

 

原審・東京地判平成23年(ワ)23651<高野> ⇒非充足

 

「本件発明は,高品質の単結晶炭化珪素を得るために導入された炭化珪素原料粉末を原料とし種結晶を用いて昇華再結晶を行う改良型のレーリー法においても解決できなかった課題を解決するために,炭化珪素からなる原材料を加熱昇華させ,単結晶炭化珪素からなる種結晶上に供給し,この種結晶上に単結晶炭化珪素を成長する方法・・・を採用した・・・。・・・『昇華再結晶法』は・・・生成物と同じ物質からなる多結晶固体原料(注:炭化珪素固体)を昇華させてから結晶させて単結晶の生成物を得ることを意味する」

(8)平成26年(ネ)10082「4H型単結晶炭化珪素の製造方法」事件<高部>

 

特許請求の範囲も、本件明細書も、坩堝に充填する出発原料を限定する記載はない。

 

「坩堝に充填する材料が炭化珪素固体に限られないことを明記する」文献(甲14、40の5)

 

「坩堝に充填する出発原料の点では,種結晶を用いた昇華再結晶法とレーリー法との間に基本的な相違はないとする」「半導体炭化珪素技術に関する書籍」(甲3、25)

 

「実施例・・・のみに限定して解釈すべきであるとはいえない。・・・『昇華再結晶法』は・・・出発原料として珪素と炭素を用い・・・て結晶状態の炭化珪素を形成し,この炭化珪素を昇華させることで種結晶上に単結晶炭化珪素を形成する態様も含まれる」⇒逆転文言充足

 

原審・東京地判平成23年(ワ)23651<高野> ⇒非充足

 

「本件発明は,高品質の単結晶炭化珪素を得るために導入された炭化珪素原料粉末を原料とし種結晶を用いて昇華再結晶を行う改良型のレーリー法においても解決できなかった課題を解決するために,炭化珪素からなる原材料を加熱昇華させ,単結晶炭化珪素からなる種結晶上に供給し,この種結晶上に単結晶炭化珪素を成長する方法・・・を採用した・・・。・・・『昇華再結晶法』は・・・生成物と同じ物質からなる多結晶固体原料(注:炭化珪素固体)を昇華させてから結晶させて単結晶の生成物を得ることを意味する」

(9)平成22年(ネ)10089「食品の包み込み成形方法及びその装置」事件<滝澤>

 

「押し込み部材が一定の深さで外皮材に進入することにより,外皮材を『椀状』に形成し,その後押し込み部材を上昇させながら,形成された椀状の部分の中に内材を配置することを想定して上記作用効果が記載されているとはいえるものの,そのような配置以外の方法を除外しているわけではなく,特許請求の範囲の記載においては,配置の仕方について特段の限定はされていない。・・・押し込み部材が一定程度の深さまで外皮材に進入し,外皮材を『椀状』に形成し(構成要件1D),押し込み部材から内材を供給して外皮材に内材が配置されるものであれば・・・充足する」⇒逆転充足(別の構成要件均等)

 

原審・東京地判平成21年(ワ)1201<阿部>

 

「本件発明1における『押し込み部材』とは・・・『外皮材が必要以上に下方へ伸びてしまう,こと』及び『押し込み部材の上昇に伴い外皮材が収縮するのを防ぐ』必要がある程度に,深く外皮材に進入し,外皮材の縁部周辺を伸ばしながら外皮材を椀状に形成することを想定しているといえ,同部材によって,外皮材を成形品の高さと同程度の深さに『椀』形の形状に形成し,同部材によって形成された椀状の部分の中に内材が吐出されるものを意味する」~イ号製品の「ノズル部材」は「押し込み部材」に該当しない⇒非充足

(10)平成17年(ネ)10119「レンジフードのフィルタ装置」事件<塚原>

 

無効理由があるが、充足を理由に、不競法の虚偽事実告知流布の過失が否定された

 

≪注意≫虚偽事実告知流布は、”無効・充足”で必ず過失が否定される訳ではない!!

 

「構成要件⑦が『相似形状の平面方形状に形成されており』と規定し『相似形状』の語句が『平面方形状』の語句を限定していることにかんがみて,単に方形状であれば『相似形状』の要件を満たすと解することはできない。しかしながら,数学的な厳密さをもって『相似形状』と解すれば,本件発明を実施することさえ困難となるから,結局,縦横の辺の長さの比がおおむね等しければ,相似形状といえる」⇒逆転文言充足(虚偽事実告知流布の過失否定)

 

原審・大阪地判平成17年(ワ)1394、平成17年(ワ)3681<山田>

 

「通常の用語法においては、正方形と長方形や、縦横の長さの比が著しく異なる長方形同士を『相似形』の形状とは呼ばない・・・。・・・『フィルタは、金属製フィルタ又はフィルタ要素の平面形状に対応する相似形状を有していてもよい。例えば、フィルタは、方形状の金属製フィルタ又はフィルタ要素に対応して平面方形状であってもよく』(【0018】)との記載・・・を参酌しても、『相似形状』が、通常の用語法と異なる趣旨で使われていると解することはできない。」⇒非充足

(11)平成19年(ネ)10025「印鑑基材」事件<塚原>

 

「『芯材』は・・・特許請求の範囲の記載による限り『筒体内に注入された透明な合成樹脂からなる』ことを要素としているものの,その形状については特に定められていない。・・・筒体の内周面及びシート体の内側に『芯材』が存在していなければならないが,それ以外の定めはない。・・・本件明細書の記載によれば『芯材』とは,透明な合成樹脂からなり,液状で筒体内のシート体内側に注入され,その後に固化処理により硬化するものを意味する・・・が,原判決が判示するような・・・真ん中ないし中央に位置しなければならないという限定を示すべき記載は・・・見当たらない。・・・『芯』とは『かなめ』としての意味をも有しているところ,本件の合成樹脂は・・・『かなめ』としての機能を果たすものであるから,辞書的意義を考慮に入れても,原判決の判断は妥当ではない。」⇒逆転文言充足

 

原審・大阪地判平成17年(ワ)3668<山田>

 

「国語的には,『芯』は,『心』とも書き,辞書的には『物のまん中。1)物の中央の(固い)部分。2)かなめ。根本。本性。3)形を保ち整えるために衿・帯などに入れる布。4)華道で,中心となる役枝の称。』を意味するものと一般的に解される。本件発明・・・は印鑑基材の発明であるから,・・・「芯」は,2),3),4)ではなく,1)の意味と解される。」⇒非充足

(12)平成20年(ネ)10065「電話番号情報の自動作成装置」事件<飯村>

 

他のクレーム文言、出願時の技術水準(ISDN)から、実施例限定解釈した原審を逆転!!

 

「構成要件Bにおける『接続信号』は・・・可聴信号及び非可聴信号の両者を含む上位概念と理解すべきであることに照らすならば,構成要件Cにおける『応答メッセージ』も,可聴なものに限られると解すべき根拠はなく,・・・出願時において,既にISDN技術が存すること,ISDNの網から応答される情報を取得し,同情報に基づいて電話番号の有効性を判別することが知られていたことからすれば,本件明細書に接した当業者としては,本件発明においては,ISDN技術を除外して,上記の技術思想が開示されていると認識することはない・・・。」 ~音声メッセージに限定されない!!⇒逆転文言充足

 

原審・東京地判平成19年(ワ)32525<大鷹>⇒非充足

 

「本件明細書において,『メッセージ』の語は,交換機から応答される音声アナウンス(音声の伝言)として使用されている。・・・『応答メッセージ』の語は使用されておらず,また,『音声メッセージ』以外の接続信号に基づいて,3種類の電話番号の判別・仕分けを行うことができることについての記載も示唆もない。」~音声メッセージに限定される

(13)★平成29年(ネ)10027「金融商品取引管理方法」事件<森>

 

※原審とイ号方法の認定が異なる!! ⇒逆転文言充足

 

「顧客は,画面2において,複数の注文同士の『値幅』を認識し,新規指定レートと利食いレートとの差から『利幅』を認識し,必要に応じて変更を加えた上で,『戻る』ボタンや『キャンセル』ボタンをクリックして注文しないことを選択できるにもかかわらず,『注文』ボタンをクリックして・・・注文をすることができるのであるから,顧客が『値幅を示す情報』及び『利幅を示す情報』を売買注文申込情報として入力し・・・ている・・・。」

 

原審・東京地判平成27年(ワ)4461<東海林>

 

「被告サービス1では・・・所定の価格で買(売)った後に他の価格で売る(買う)場合の『利幅』情報を売買注文申込情報として入力する欄がなく,それゆえ,『利幅』を売買注文申込情報として受信して受け付けていない。」⇒非充足

(14)平成24年(ネ)10023「レーザーによつて材料を加工する装置」事件<飯村>

 

※クレーム文言解釈は、原審と同じ。イ号製品として「グリーンレーザー」が認定された!!

 

「①被告製品においては,グリーンレーザーが使用されているところ,グリーンレーザーにおいても,流速が十分でなく,水がフォーカス円錐先端範囲内に長時間滞留している場合には,時間の経過により熱レンズが発生し,ノズル壁が損傷することがあり,②被告製品においてノズル壁の損傷を防ぐための対応がされることが必要であること等からすると,被告製品の液体貯留室内のフォーカス円錐先端範囲においては,レーザービームの一部がノズル壁を損傷しないところまで,熱レンズの形成が抑圧される程度に,流速が十分に高いものといえるから,被告製品は・・・充足する」⇒逆転文言充足

 

原審・東京地判平成20年(ワ)12409<大鷹>

 

「『せき止め空間のない』とは,・・・ノズル壁の損傷に至る原因となる熱レンズの形成を抑圧する程度に液体の流速を十分に高・・・いことをいう・・・。・・・『液体の流速が,十分に高く』とは,『フォーカス円錐先端範囲(56)において,レーザービームの一部がノズル壁を損傷しないところまで,熱レンズの形成が抑圧される』程度に流速が高いことを意味する」~損傷がない結果と「せき止め空間のない」構成との因果関係否定 ⇒非充足

 

 

≪②充足⇒非充足(特許権者逆転敗訴)≫

 

(1)平成28年(ネ)10031「オキサリプラチン溶液組成物」事件<鶴岡>

 

「本件発明は・・・乙1発明等に比して・・・不純物が少ないオキサリプラチン溶液組成物を提供することをその目的とし,その解決手段として,所定量の『シュウ酸・・・』を『緩衝剤』として包含する構成を採用した・・・。・・・本件発明の『緩衝剤』は,乙1発明・・・に比して少ない量の不純物しか生成されないように作用する・・・。・・・オキサリプラチンの分解により・・・自然に生成される解離シュウ酸は,乙1発明中にも当然に存在する・・・。」

 

「実施例においても,『緩衝剤』・・・は外部から加えられたもの・・・。・・・乙1発明と同様の・・・実施例18⒝と比較し・・・有意に少ない量の不純物しか生成されていない・・・。」

 

⇒「緩衝剤」は、オキサリプラチンの分解により自然に生成される解離シュウ酸を含まない

 

原審・東京地判平成27年(ワ)12416<長谷川>

 

クレームの限定なし。/解離シュウ酸も緩衝剤として機能する。/実施例は一考慮要素。

 

⇒「緩衝剤」は、オキサリプラチンの分解により自然に生成される解離シュウ酸を含む。

 

※解離シュウ酸を含むなら新規性×の主張~再現実験の正確性が否定された。

(2)★平成21年(ネ)10033「熱伝導性シリコーンゴム組成物によりなる放熱シート」事件<中野>

 

【請求項1】「熱伝導性無機フィラーが・・・組成物全量に対して40vol%~80vol%」

 

「実施例においても,熱伝導性無機フィラー全量をカップリング処理してシリコーンゴムに充填することが示されており,全量未処理のものと比較することにより,その効果を確認している。・・・当業者は,・・・全量をカップリング処理するものと理解する・・・。」

 

⇒全量処理された熱伝導性無機フィラーが「80vol%以下」であれば,高い熱伝導性という課題を達成できる。(カップリング剤込みの量ではないという)原告主張で、表面処理を施した熱伝導性無機フィラーが1%,未処理が39~79%でも充足し,作用効果を奏しないものが含まれる。⇒数値は、カップリング剤込みの量である。⇒非充足

 

原審・大阪地判平成18年(ワ)11429<田中>

 

「数値限定の意義について『40vol%に満たないと高い熱伝導率を得ることが困難であり』と記載されていることからすると,40vol%以上でなければならないものは,あくまで熱伝導率に影響を与える熱伝導性無機フィラーそのものの量であって,本件カップリング剤込みの量ではない・・・。」⇒イ号製品(GR-n)は、文言充足

(3)平成18年(ネ)10075「フルオロエーテル組成物…の分解抑制法」事件<中野>

 

【構成要件D】該容器の壁内壁を空軌道を有するルイス酸の当該空軌道に電子を供給するルイス酸抑制剤で被覆する工程

 

【イ号方法d】該容器の壁内壁を…エポキシフェノリックレジンのラッカーで被覆する工程

 

⇒明細書の記載から、「ルイス酸抑制剤」の目的は「中和」による抑制であると認定し、他の因果関係によりルイス酸抑制の効果を得られると仮定しても非充足と判断した。

 

平成20年(行ケ)10276″実施可能要件×”~『ルイス酸』の概念が不明確である以上,その『ルイス酸』の空軌道に電子を供与する『ルイス酸抑制剤』なる概念も不明確…。

 

原審・東京地判平成17年(ワ)10524<設樂>

 

「エポキシフェノリックレジンは、ルイス酸の空軌道と相互作用し、それにより当該ルイス酸の潜在的な反応部位を遮断して当該ルイス酸と接触するセボフルラン等のフルオロエーテル化合物がルイス酸によって分解することを抑制する化合物であるから、本件特許発明の・・・『ルイス酸抑制剤』に当たる」⇒充足(実施可能要件違反なし)

(4)★平成17年(ネ)10047「椅子式エアーマッサージ機」事件<塚原>

 

控訴審は文言非充足⇒減縮補正したクレームに均等論〇(東京の高裁では唯一)

 

⇒大阪地裁・大阪高裁では多数。東京地裁平成29年(ワ)18184「骨切術用開大器」<佐藤>

 

「本件明細書には,脚部の片側のみに袋体が配設され,両脚部を一体として挟持することや,そのための具体的な構成についての何ら示唆はなく,実施例及びその図面においても,左右の脚部それぞれの両側に脚用袋体が配設されている構成のみが記載ないし図示されている。・・・空気袋によって脚部を確実に挟持する・・・目的を達成するには,左右それぞれの足を両側から袋体で挟持する構成とする方が適しており,空気で膨脹した袋体で両脚を一体的に挟持するのはいかにも不安定であることなども考え併せると『使用者の脚部』との用語は『左右それぞれの脚部』を意味する」⇒文言非充足

 

原審・東京地判平成13年(ワ)3485<飯村>

 

※クレーム文言は「左右の脚部の各々の両側について脚用袋体が配置される構成」に限定なし。実施例の記載等によっても限定されない。⇒文言充足

(5)★★★令和2年(ネ)10044「流体供給装置…」事件<鶴岡>

 

発明の課題~「プリペイドカードが見えないため,給油終了後にプリペイドカードを挿入してあるのを忘れてしまい,プリペイドカードを置いたまま給油所から退場してしまうおそれ」他2つ

 

(①”自白”の成否)「…自白が成立しているかどうかは,当事者の答弁の全体を踏まえて検討すべき…。…原審答弁書において,構成要件1Cの充足を『認める』としたものの,…実質的には,被告給油装置において行われている処理は,本件発明1の構成要件1Cにおいて行われている処理とは異なることを主張するものと理解すべきものである…。」

 

(②文言非充足論)「…『媒体預かり』と『後引落し』との組合せによる決済を想定できる記憶媒体でなければ,本件3課題が生じることはなく,したがって,本件発明の構成によって課題を解決するという効果が発揮されたことにならないから,上記の組合せによる決済を想定できない記憶媒体は,本件発明の『記憶媒体』には当たらない。」⇒非充足

 

原審・東京地判平成29年(ワ)29228<柴田>

 

*構成要件1Cは、自白成立

 

*他の構成要件均等論〇

 

*プログラム発明は間接侵害〇

(6)★★★平成29年(ネ)10033「改修引戸装置」事件<鶴岡>

 

発明の課題~「有効開口面積を減少することがない」~「ほぼ同じ高さ」=段差は含まない

 

「『ほぼ同じ高さ』とは・・・寸法誤差,設計誤差等により両者が完全には『同じ高さ』とならない場合もあり得ることから,そのような場合をも含めることを含意した表現であると理解される。・・・『段差』と評価される程度に至っている場合には・・・含まれない・・・。本件発明は・・・『リフォーム』に関する・・・,リフォームに際して・・・『段差』と評価されるものを敢えて設けたにもかかわらず,『ほぼ同じ高さ』に含まれると解することは,当業者の一般的な理解とは異なるからである。そして、証拠(乙・・・)によれば,バリアフリー住宅の基準として,設計寸法で3mm以下の・・・段差形状は『段差なし』と評価されている」⇒非充足

 

原審・東京地判平成26年(ワ)7643<東海林>

 

発明の課題~「有効開口面積が減少する…程度が従来技術と比べて相当程度少ない」

 

「・・・『ほぼ同じ高さ』とするのは,広い開口面積を確保するという効果を得るための構成である・・・。そして,上記課題及び効果からすると,・・・従来技術・・・の高さの差異よりも・・・相当程度小さいものであれば,『ほぼ同じ高さ』であると認められる」

 

 

 

 

 

【特許★】特許権侵害差止請求控訴事件(複数の「室」というクレーム文言解釈~「連通可能」という限定がある物の発明は非充足、限定がない方法の発明は充足とした。何れも非充足とした一審判決を逆転した事例。特許権者勝訴。 – NAKAMURA & PARTNERS (nakapat.gr.jp)

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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