令和2年(行ケ)10005<高部>【ガラス板用合紙】

 

*先願発明の発明該当性あり!

 

「抽象的であり,あるいは当業者の有する技術常識を参酌してもなお技術内容の開示が不十分であるような発明は,ここでいう「発明」には該当せず,同条の定める後願を排除する効果を有しない。」

 

(判旨抜粋)

特許法29条の2…にいう先願明細書等に記載された「発明」とは,先願明細書等に記載されている事項及び記載されているに等しい事項から把握される発明をいい,記載されているに等しい事項とは,出願時における技術常識を参酌することにより,記載されている事項から導き出せるものをいうものと解される。したがって,特に先願明細書等に記載がなくても,先願発明を理解するに当たって,当業者の有する技術常識を参酌して先願の発明を認定することができる一方,抽象的であり,あるいは当業者の有する技術常識を参酌してもなお技術内容の開示が不十分であるような発明は,ここでいう「発明」には該当せず,同条の定める後願を排除する効果を有しない。また,創作された技術内容がその技術分野における通常の知識・経験を持つ者であれば何人でもこれを反覆実施してその目的とする技術効果をあげることができる程度に構成されていないものは,「発明」としては未完成であり,特許法29条の2にいう「発明」に該当しないものというべきである。

…これを本件についてみると,…ガラス合紙の,シリコーンのポリジメチルシロキサンである有機ケイ素化合物の含有量を3ppm以下,好ましくは1ppm以下で,0.05ppm以上とした先願発明は,ガラス合紙からガラス板に転写された有機ケイ素化合物に起因する配線の不良等を大幅に低減でき,特にポリジメチルシロキサンがガラス板に転写され,より配線や電極の不良等が発生し易くなることを抑制できるものであって,先願発明の目的とする効果を奏するものであること,そのようなガラス合紙は,ポリジメチルシロキサンを含有する消泡剤を使用しないで製造したパルプを原料として用い,ガラス合紙の製造工程において,パルプの洗浄,紙のシャワー洗浄,水槽を用いる洗浄や,これらを2種以上行う方法により製造できること,以上のことが理解できる。そうすると,先願発明は,創作された技術内容がその技術分野における通常の知識・経験を持つ者であれば何人でもこれを反覆実施してその目的とする技術効果をあげることができる程度に構成されたものというべきである。よって,先願発明は,特許法29条の2にいう「発明」に該当し,未完成とはいえないから,同条により,これと同一の後願を排除する効果を有する。                                        https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/833/089833_hanrei.pdf

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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