ドワンゴv.米国FC2大合議判決(先行事件との対比を含む)

 

-(先行事件)知財高判平成30年(ネ)第10077号<本多裁判長>-

国外に所在するサーバから日本のユーザにプログラムを送信する行為が、日本国内の行為と評価された事例。逆転充足で特許権者逆転勝ち。

 

-(後行事件)知財高裁大合議判決令和4年(ネ)第10046号<大鷹裁判長>-

国外に所在するサーバを含む「(コメント配信)システム」を米国FC2が「生産」する行為が、日本国内の行為と評価された事例。特許権者逆転勝ち。

 

◆判決本文(後行事件)

★先行事件判決の解説記事(中村合同特許法律事務所)

先行事件までの解説動画~「プログラムの提供」の)「有体物の譲渡」への敷衍

同資料

 

【知財高裁大合議判決の要旨、若干の考察(先行事件との対比を含む)】

1.特許請求の範囲(JP6526304/大合議判決で侵害が認められた特許)

(1)請求項1

1A サーバと、これとネットワークを介して接続された複数の端末装置と、を備えるコメント配信システムであって、
1B 前記サーバは、前記サーバから送信された動画を視聴中のユーザから付与された前記動画に対する第1コメント及び第2コメントを受信し、
1C 前記端末装置に、前記動画と、コメント情報とを送信し、
1D 前記コメント情報は、前記第1コメント及び前記第2コメントと、前記第1コメント及び前記第2コメントのそれぞれが付与された時点に対応する、前記動画の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間と、を含み、
1E 前記動画及び前記コメント情報に基づいて、前記動画と、前記コメント付与時間に対応する動画再生時間において、前記動画の少なくとも一部と重なって、水平方向に移動する前記第1コメント及び前記第2コメントと、を前記端末装置の表示装置に表示させる手段と、
1F 前記第2コメントを前記1の動画上に表示させる際の表示位置が、前記第1コメントの表示位置と重なるか否かを判定する判定部と、
1G 重なると判定された場合に、前記第1コメントと前記第2コメントとが重ならない位置に表示されるよう調整する表示位置制御部と、を備えるコメント配信システムにおいて、
1H 前記サーバが、前記動画と、前記コメント情報とを前記端末装置に送信することにより、前記端末装置の表示装置には、前記動画と、前記コメント付与時間に対応する動画再生時間において、前記動画の少なくとも一部と重なって、水平方向に移動する前記第1コメント及び前記第2コメントと、が前記第1コメントと前記第2コメントとが重ならないように表示される、
1I コメント配信システム

 

(2)請求項2

2A 動画配信サーバ及びコメント配信サーバと、これらとネットワークを介して接続された複数の端末装置と、を備えるコメント配信システムであって、
2B 前記コメント配信サーバは、前記動画配信サーバから送信された動画を視聴中のユーザから付与された前記動画に対する第1コメント及び第2コメントを受信し、
2C1 前記端末装置にコメント情報を送信し、
2C2 前記動画配信サーバは、前記端末装置に前記動画を送信し、
2D 前記コメント情報は、前記第1コメント及び前記第2コメントと、前記第1コメント及び前記第2コメントのそれぞれが付与された時点に対応する、前記動画の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間と、を含み、
2E 前記動画及び前記コメント情報に基づいて、前記動画と、前記コメント付与時間に対応する動画再生時間において、前記動画の少なくとも一部と重なって、水平方向に移動する前記第1コメント及び前記第2コメントと、を前記端末装置の表示装置に表示させる手段と、
2F 前記第2コメントを前記1の動画上に表示させる際の表示位置が、前記第1コメントの表示位置と重なるか否かを判定する判定部と、
2G 重なると判定された場合に、前記第1コメントと前記第2コメントとが重ならない位置に表示されるよう調整する表示位置制御部と、を備えるコメント配信システムにおいて、
2H 前記コメント配信サーバが前記コメント情報を、前記動画配信サーバが前記動画を、それぞれ前記端末装置に送信することにより、前記端末装置の表示装置には、前記動画と、前記コメント付与時間に対応する動画再生時間において、前記動画の少なくとも一部と重なって、水平方向に移動する前記第1コメント及び前記第2コメントと、が前記第1コメントと前記第2コメントとが重ならないように表示される、
2I コメント配信システム

 

2.属地主義について

(1)原判決(東京地判令和元年(ワ)第25152号)~日本国内における「生産」否定

原審は、属地主義の原則から、特許法2条3項1号の「生産」(日本国内における「生産」)に該当するためには、特許発明の全ての構成要件を満たす物が、日本国内において新たに作り出されることが必要であるという規範を立てたうえで、被告各システムの構成要素である被告各サーバは、いずれも米国内に存在し、日本国内に存在するユーザ端末のみでは、本件特許に係る発明の全ての構成要件を充足しないから、被控訴人らが被告各システムを日本国内で「生産」したものとは認められないとした。(※原審は、被告各システムが本件特許発明の技術的範囲に属する旨を判断した上で、日本国内における「生産」を否定した。)

 

(2)本判決(知財高裁大合議判決)~日本国内における「生産」肯定(「要旨」の引用)

 インターネット等のネットワークを介して、サーバと端末が接続され、全体としてまとまった機能を発揮するシステム(ネットワーク型システム)の発明における「生産」とは、単独では当該発明の全ての構成要件を充足しない複数の要素が、ネットワークを介して接続することによって互いに有機的な関係を持ち、全体として当該発明の全ての構成要件を充足する機能を有するようになることによって、当該システムを新たに作り出す行為をいうものと解される。

被告サービス1のFLASH版においては、ユーザ端末が各ファイルを受信した時点において、サーバとユーザ端末はインターネットを利用したネットワークを介して接続されており、 ユーザ端末のブラウザにおいて動画上にコメントをオーバーレイ表示させることが可能となるから、ユーザ端末が上記各ファイルを受信した時点で、全ての構成要件を充足する機能を備えた被告システム1が新たに作り出されたものということができる。

各ファイルが米国に存在するサーバから国内のユーザ端末へ送信され、ユーザ端末がこれらを受信することは、米国と我が国にまたがって行われるものであり、また、新たに作り出される被告システム1は、米国と我が国にわたって存在するものである。

ネットワーク型システムにおいて、サーバが日本国外(国外)に設置されることは、現在、一般的に行われており、また、サーバがどの国に存在するかは、ネットワーク型システムの利用に当たって障害とならないことからすれば、サーバが国外に存在していたとしても、当該システムを構成する端末が日本国内(国内)に存在すれば、これを用いて当該システムを国内で利用することは可能であり、その利用は、特許権者が当該発明を国内で実施して得ることができる経済的利益に影響を及ぼし得るものである。そうすると、ネットワーク型システムの発明について、属地主義の原則を厳格に解釈し、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在することを理由に、一律に我が国の特許法2条3項の「実施」に該当しないと解することは、サーバを国外に設置さえすれば特許を容易に回避し得ることとなり、当該システムの発明に係る特許権について十分な保護を図ることができないこととなって、妥当ではない。

ネットワーク型システムを新たに作り出す行為が日本国内における「生産」に該当するか否かは、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考慮し、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3項1号の「生産」に該当すると解するのが相当である。

本件生産についてみると、米国に存在するサーバから国内のユーザ端末に各ファイルが送信され、国内のユーザ端末がこれらを受信することによって行われるものであって、当該送信及び受信(送受信)は一体として行われ、国内のユーザ端末が各ファイルを受信することによって被告システムが完成することからすれば、上記送受信は国内で行われたものと観念することができる。次に、被告システムは、米国に存在する被控訴人Y1のサーバと国内に存在するユーザ端末とから構成されるものであるところ、国内に存在する上記ユーザ端末は、本件発明の主要な機能である動画上に表示されるコメント同士が重ならない位置に表示されるようにするために必要とされる構成要件1Fの判定部の機能と構成要件1Gの表示位置制御部の機能を果たしている。さらに、被告システムはユーザ端末を介して国内から利用することができるものであって、コメントを利用したコミュニケーションにおける娯楽性の向上という本件発明1の効果は国内で発現しており、また、その国内における利用は、控訴人が本件発明1に係るシステムを国内で利用して得る経済的利益に影響を及ぼし得るものである。以上の事情を総合考慮すると、本件生産は、我が国の領域内で行われたものとみることができる。

被告システムは、米国FC2が被告システムに係るウェブサーバ、動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバを設置及び管理しており、これらのサーバが、HTMLファイル及びSWFファイル、動画ファイル並びにコメントファイルをユーザ端末に送信し、ユーザ端末による各ファイルの受信は、ユーザによる別途の操作を介することなく、米国FC2がサーバにアップロードしたプログラムの記述に従い自動的に行われるものであることからすれば、被告システムを「生産」した主体は被控訴人であるというべきである。

 

(3)大合議判決の被控訴人(米国FC2)の主張と、それに対する判旨部分

  …被控訴人らは、①被告各システムの「生産」に関連する被控訴人FC2の行為は、被告各システムに対応するプログラムを製作すること及びサーバに当該プログラムをアップロードすることに尽き、いずれも米国内で完結しており、その後、ユーザ端末にコメントや動画が表示されるまでは、ユーザらによるコメントや動画のアップロードを含む利用行為が存在するが、ユーザ端末の表示装置は汎用ブラウザであって、当該利用行為は、本件各発明の特徴部分とは関係がない、②被告システム1において、ユーザ端末は、被控訴人FC2がサーバにアップロードしたプログラムの記述並びに第三者が被控訴人FC2のサーバにアップロードしたコメント及び被控訴人FC2のサーバにアップロードした動画(被告システム2及び3においては第三者のサーバにアップロードした動画)の内容に従って、動画及びコメントを受動的に表示するだけものにすぎず、ユーザ端末に動画やコメントが表示されるのは、既に生産された装置(被告各システム)をユーザがユーザ端末の汎用ブラウザを用いて利用した結果にすぎず、そこに「物」を「新たに」「作り出す行為」は存在しない、③乙311記載の「一般に、通信に係るシステムはデータの送受を伴うものであるため、データの送受のタイミングで毎回、通信に係るシステムの生産、廃棄が一台目、二台目、三台目、n台目と繰り返されることまで「生産」に含める解釈は、当該システムの中でのデータの授受の各タイミングで当該システムが再生産されることになり、採用しがたい」との指摘によれば、被控訴人FC2の行為は本件発明1の「生産」に該当しないというべきである旨主張する。
しかしながら、①については、被控訴人FC2が被告システム1に対応するプログラムを製作すること及びサーバに当該プログラムをアップロードすることのみでは、前記aのとおり、本件発明1の全ての構成要件を充足する機能を備えた被告システム1が完成していないというべきである。
②については、前記aのとおり、被控訴人FC2の動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバとユーザ端末がインターネットを利用したネットワークを介して接続され、ユーザ端末が必要なファイルを受信することによって、本件発明1の全ての構成要件を充足する機能を備えた被告システム1が新たに作り出されるのであって、ユーザ端末が上記ファイルを受信しなければ、被告システム1は、その機能を果たすことができないものである。
③については、上記のとおり、被告システム1は、被控訴人FC2の動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバとユーザ端末がインターネットを利用したネットワークを介して接続され、ユーザ端末が必要なファイルを受信することによって新たに作り出されるものであり、ユーザ端末のブラウザのキャッシュに保存されたファイルが廃棄されるまでは存在するものである。また、上記ファイルを受信するごとに被告システム1が作り出されることが繰り返されるとしても、そのことを理由に「生産」に該当しないということはできない。
よって、被控訴人らの上記主張は理由がない。

 

3.(ドワンゴvs.米国FC2)先行事件との対比

(1)知財高判平成30年(ネ)第10077号<本多裁判長>(先行事件)

 先行事件において問題とされた一部の特許発明の対象は「プログラム」であり、米国FC2が米国に所有するサーバーから、日本国内に所在するユーザに向けて「プログラム」を配信していた行為が、日本国特許法にいう「提供」に該当するか」という論点に関して、本判決は、以下のとおり判示して、日本国特許法にいう(国内の)「提供」に該当すると判断した。(「表示装置」のクレームも間接侵害成立。)

『…ネットワークを通じて送信され得る発明につき特許権侵害が成立するために、 …形式的にも全て日本国の領域内で完結することが必要であるとすると、…サーバ等の一部の設備を国外に移転するなどして容易に特許権侵害の責任を免れることとなってしまうところ、…かかる潜脱的な行為を許容することは著しく正義に反する…。…

 ①当該提供が日本国の領域外で行われる部分と領域内で行われる部分とに明確かつ容易に区別できるか、

 ②当該提供の制御が日本国の領域内で行われているか、

 ③当該提供が日本国の領域内に所在する顧客等に向けられたものか、

 ④当該提供によって得られる特許発明の効果が日本国の領域内において発現しているかなどの諸事情を考慮し、

当該提供が実質的かつ全体的にみて、日本国の領域内で行われたものと評価し得るときは、日本国特許法にいう「提供」に該当すると解するのが相当である。』

『…本件配信は、日本国の領域内に所在するユーザが被控訴人ら各サービスに係るウェブサイトにアクセスすることにより開始され、完結されるものであって…

①本件配信につき日本国の領域外で行われる部分と日本国の領域内で行われる部分とを明確かつ容易に区別することは困難であるし、

②本件配信の制御は、日本国の領域内に所在するユーザによって行われるものであり、また、

③本件配信は、動画の視聴を欲する日本国の領域内に所在するユーザに向けられたものである。さらに、

④本件配信によって初めて、日本国の領域内に所在するユーザは、コメントを付すなどした…動画を視聴することができるのであって、本件配信により得られる本件発明1-9及び10の効果は、日本国の領域内において発現している。

これらの事情に照らすと、本件配信は、その一部に日本国の領域外で行われる部分があるとしても、これを実質的かつ全体的に考察すれば、日本国の領域内で行われたものと評価するのが相当である。』

 

(2)大合議判決(後行事件)と先行事件判決との対比

先行事件は、外国サーバから日本へのプログラムの提供につき、上記①②③④の要件を規範として立てて当てはめた。これら①②③④の要件は、日本のユーザからのリクエストに応じて外国サーバから日本のユーザに向けてプログラムを送信すれば常に成り立つように思われ、同判決も自然に当てはめて「プログラム」の日本国内における提供を認めた。

本知財高裁大合議判決(後行事件)は、サーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、 当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考慮するものであるから、規範自体が規範的なものに留まり、特許権者と被疑侵害者のバランスを採った規範である。

もっとも、「具体的態様」のあてはめが「米国に存在するサーバから国内のユーザ端末に各ファイルが送信され、国内のユーザ端末がこれらを受信することによって行われるものであって、当該送信及び受信(送受信)は一体として行われ、国内のユーザ端末が各ファイルを受信することによって被告システムが完成すること」という抽象的なファイルの送受信であり、国を跨るネットワークにおいて常に成り立つものである。

他方、「当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能・役割」のあてはめについては、「国内に存在する上記ユーザ端末は、本件発明の主要な機能である動画上に表示されるコメント同士が重ならない位置に表示されるようにするために必要とされる構成要件1Fの判定部の機能と構成要件1Gの表示位置制御部の機能を果たしている。」と判示しており、本件発明の課題解決に係る重要部分が日本国内にあるユーザ端末により実現されているという事実を摘示しており、本件発明の技術的意義、本質的部分の主張が重要となる(このような議論は、例えば、サポート要件を議論するときに、本件発明の課題により結論が左右されることと通ずるものがある。)。何れにしても、この判断基準では、一般にネットワーク関連発明では、サーバ所在地で特許発明の機能・役割が発揮されるものではなく、端末所在地で特許発明の機能・役割が発揮されるから、サーバの所在地が国外であり端末が国内である場合には成り立ちやすいものである。(※逆に、サーバの所在地が国内であり、端末が国外である場合には成り立ち難いが、そのような場合に日本国内における実施が無いと判決されるのであろうか。更に言えば、その場合に外国の裁判所において、当該外国の特許権を侵害したとして判決されることに違和感はないのか、という考察も必要であろう。)

次に、「当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所」についても、外国サーバから日本のユーザに向けてプログラムを送信すれば常に成り立つように思われる。

続いて最後に「その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等」についても、外国サーバから日本のユーザに向けてプログラムを送信すれば上記「効果」は日本で現れることになるから、日本の特許権者、特に日本で競合事業を実施している者であれば常に成り立つように思われる。

そうすると、本知財高裁大合議判決(後行事件)が示した規範に含まれる4要素のうち、結論に影響を大きく及ぼす要素は、「当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能・役割」である。これは、外国にサーバがあるときに常に成り立つわけではなく、サーバが当該における重要な機能・役割を果たす場合もあり、その場合は国内実施は否定されるかもしれない。逆に、サーバが国内、端末が国外の場合であっても、サーバが当該発明における重要な機能・役割を果たす場合には国内実施が肯定されるかもしれない。そうすると、サーバに限らず一部国外という状況を想定した特許出願戦略としては、発明の課題解決原理がサーバにあるクレーム、端末装置にあるクレーム、その他、色々な場合を想定する工夫の余地がある。(もっとも、上述したとおり、一般に、ネットワーク関連発明では、サーバ所在地で特許発明の機能・役割が発揮されるものではなく、端末所在地で特許発明の機能・役割が発揮されるから、サーバの所在地が国外であり端末が国内である場合には成り立ちやすいものである。)

 

4.若干の考察

(1)大合議判決(後行事件)の規範及び当てはめの妥当性

  後行事件においては、特許発明に係るシステムの「生産」主体が被控訴人(米国FC2)であることについて、『被控訴人FC2が、上記ウェブサーバ、動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバを設置及び管理しており、これらのサーバが、HTMLファイル及びSWFファイル、動画ファイル並びにコメントファイルをユーザ端末に送信し、ユーザ端末による各ファイルの受信は、ユーザによる別途の操作を介することなく、被控訴人FC2がサーバにアップロードしたプログラムの記述に従い、自動的に行われるものであることからすれば、被告システム1を「生産」した主体は、被控訴人FC2であるというべきである。…ユーザの各行為は、被控訴人FC2の管理するウェブページの閲覧を通じて行われるものにとどまり、ユーザ自身が被告システム1を「生産」する行為を主体的に行っていると評価することはできない。』と判示した。

  このように、本件特許発明に係るシステムの「生産」主体が被控訴人(米国FC2)であること自体に違和感はないが、このように「生産」主体を決定する文脈では「被控訴人FC2が、上記ウェブサーバ、動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバを設置及び管理しており、これらのサーバが、HTMLファイル及びSWFファイル、動画ファイル並びにコメントファイルをユーザ端末に送信し、ユーザ端末による各ファイルの受信は、ユーザによる別途の操作を介することなく、被控訴人FC2がサーバにアップロードしたプログラムの記述に従い、自動的に行われる」として、サーバの重要性を強調している。

   これに対し、本件特許発明に係るシステムの「生産」場所の評価を決定する文脈では、「国内に存在する上記ユーザ端末は、本件発明の主要な機能である動画上に表示されるコメント同士が重ならない位置に表示されるようにするために必要とされる構成要件1Fの判定部の機能と構成要件1Gの表示位置制御部の機能を果たしている。」と判示してユーザ端末の機能・役割の重要性を強調し、また、被控訴人の反論に対する判示として、「被控訴人FC2が被告システム1に対応するプログラムを製作すること及びサーバに当該プログラムをアップロードすることのみでは、前記aのとおり、本件発明1の全ての構成要件を充足する機能を備えた被告システム1が完成していないというべきである。…被控訴人FC2の動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバとユーザ端末がインターネットを利用したネットワークを介して接続され、ユーザ端末が必要なファイルを受信することによって、本件発明1の全ての構成要件を充足する機能を備えた被告システム1が新たに作り出されるのであって、ユーザ端末が上記ファイルを受信しなければ、被告システム1は、その機能を果たすことができないものである」と判示して、要するに、本件特許発明に係るシステムはサーバのみで完成せず、「ユーザ端末が必要なファイルを受信すること」により完成=新たに作り出されると判示しており、ユーザ端末の機能・役割の重要性を強調している。

このように、後行事件大合議判決(本判決)は、本件特許発明に係るシステムの「生産」につい、主体論ではサーバの重要性を強調しており、生産場所の評価を決定する文脈ではユーザ端末の機能・役割の重要性を強調しているものであり、矛盾とまでは言えないとしても、ねじれがある。

(ドワンゴ先行事件判決がユーザの行為を米国FC2の行為と見做す規範的行為論は否定したこと、また、著作権の事案であるが最高裁(一小)令和41024日判決(令和3()1112が生徒の演奏を音楽教室の演奏と見做す規範的行為論を否定したことに鑑み、本件事案でも、大合議判決は、ユーザの行為を米国FC2の行為と見做すという論理構成ではない。)

 

(2)(ドワンゴ先行事件判決~「プログラムの提供」の)「有体物の譲渡」への敷衍

これまでも、「外国サーバ問題」について日本国内で商標が使用されたと評価できるかが不使用取消請求事案(商標法50条)で多く判決されており、日本人向け、日本語、日本円決済の場合は日本国内で商標が使用されたと評価されてきた。

本判決(ドワンゴ後行事件)は、ドワンゴ先行事件と合わせて、特許についても同様の価値判断を導入した点において画期的と考える。

ドワンゴ先行事件・後行事件はネットワークの発明であり、「ネットワーク型システムの発明に係る特許権を適切に保護する観点から」(本判決/ドワンゴ後行事件)、「数多くの有用なネットワーク関連発明が存在する現代のデジタル社会において、かかる潜脱的な行為を許容することは著しく正義に反する」(ドワンゴ先行事件)と留保されていることからしても、有体物についても同様の議論が妥当するかは別問題である。

他方、特許法2条3項1号は、特許発明の実施行為として「物(プログラム等を含む。以下同じ。)の発明にあつては、その物の生産、使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為」と定義しており、日本の特許法のもとでは、プログラムは物であり、プログラムの提供は物の譲渡であるから、プログラムの提供と有体物の譲渡とをある程度パラレルに考える余地はあり、ドワンゴ先行事件が有体物の譲渡事案に影響を及ぼす可能性がある。

実際に、有体物の譲渡が問題となった裁判例を見ても、東京地判平成28年(ワ)25436「L-グルタミン酸の製造方法」事件<矢野裁判長>が、譲渡地は国外(インドネシア)であったが、仕向地が日本であったことから「譲渡の申出」を認めて、特許権者勝訴とした。このグルタミン酸判決とドワンゴ先行事件を足掛かりに、各ドワンゴ事件判決の、有体物の譲渡への敷衍の限界が議論されるであろう。

また、諸外国においても「外国サーバ問題」について多数の判決がなされている。国際調和の観点からも各国の裁判結果は影響を与え合うため、常にウォッチを欠かせない。

 

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
本件に関するお問い合わせ先:h_takaishi☆nakapat.gr.jp(☆を@に読み換えてください。)