知財高判大合議平成31年(ネ)10003【美容器】
<損害論>推定覆滅事情~102条1項但書5割
価格差~原告製品24000円,被告製品3000~5000円
原/被告製品双方に当てはまる事情
⇒覆滅事情でない
原告製品は微弱電流を発生する
⇒被告製品が顧客誘引力が劣る
⇒覆滅事情でない
<推定覆滅事情>102条1項但書:原告が原告製品を販売することができないとする事情
価格差~原告製品は2万4000円,被告製品は3000円~5000円。被告製品を購入した者は,被告製品が存在しなかった場合に,原告製品を購入するとは必ずしもいえない。
大手通販業者や百貨店において商品を購入する者がディスカウントストアや雑貨店において商品を購入しないというような経験則があるとは認め難い。価格の差を離れて,原告製品と被告製品の上記販売態様の差異が,需要者の購入動機に影響を与えているとは認められず,販売態様の差異は,販売できない事情として認めることはできない。
競合品~市場において,原告製品と競合関係に立つ製品が販売されていたと認めるに足りないから,この点を,販売できない事情と認めることはできない。
被告の主張する「軸受けの部分は外見上認識することができない」という事情は,被告製品及び原告製品のいずれにも当てはまるものであるから,同事情の存在によって,被告製品がなかった場合に,被告製品に対する需要が原告製品に向かわなくなるということはできず,したがって,これらの事情を販売できない事情と認めることはできない。
原告製品は微弱電流を発生する機構を有しており,被告製品はそのような機構を有していないが,このことは,被告製品が原告製品に比べ顧客誘引力が劣ることを意味するから,被告製品が存在しなかった場合に,その需要が原告製品に向かうことを妨げる事情とはいい難い。
<寄与率>
本件発明2が美容器の一部に特徴のある発明であるという事情は,既に原告製品の単位数量当たりの利益の額の算定に当たって考慮しているから,重ねて考慮する必要はない。
(判旨抜粋)
102条1項但書の事情
(ア) 一審被告は,原告製品と被告製品の価格の差異や販売店舗の差異を,販売できない事情として主張する。
a 本件においては,前記(2)ウ,(3)アのとおり,原告製品は,大手通販業者や百貨店において,2万3800円又はこれに近い価格で販売されているのに対し,被告製品はディスカウントストアや雑貨店において,3000円ないし5000円程度の価格で販売されているが,このように,原告製品は,比較的高額な美容器であるのに対し,被告製品は,原告製品の価格の8分の1ないし5分の1程度の廉価で販売されていることからすると,被告製品を購入した者は,被告製品が存在しなかった場合には,原告製品を購入するとは必ずしもいえないというべきである。したがって,上記の販売価格の差異は,販売できない事情と認めることができる。
そして,原告製品及び被告製品の上記の価格差は小さいとはいえないことからすると,同事情の存在による販売できない事情に相当する数量は小さくはないものと認められる。
一方で,上記両製品は美容器であるところ,美容器という商品の性質からすると,その需要者の中には,価格を重視せず,安価な商品がある場合は同商品を購入するが,安価な商品がない場合は,高価な商品を購入するという者も少なからず存在するものと推認できるというべきである。また,前記(3)アのとおり,原告製品は,ローラの表面にプラチナムコートが施され,ソーラーパネルが搭載されて,微弱電流を発生させるものであるから,これらの装備のない被告製品に比べてその品質は高いということができ,したがって,原告製品は,その販売価格が約2万4000円であるとしても,3000円ないし5000円程度の販売価格の被告製品の需要者の一定数を取り込むことは可能であるというべきである。以上からすると,原告製品及び被告製品の上記価格差の存在による販売できない事情に相当する数量がかなりの数量になるとは認められない。
b このように,原告製品と被告製品との価格の差異は,需要者の購入動機に影響を与えているといえるが,大手通販業者や百貨店において商品を購入する者がディスカウントストアや雑貨店において商品を購入しないというような経験則があるとは認め難いから,価格の差を離れて,原告製品と被告製品の上記販売態様の差異が,需要者の購入動機に影響を与えているとは認められず,販売態様の差異は,販売できない事情として認めることはできないというべきである。
(イ) 一審被告は,競合品が多数存在することを,販売できない事情として主張する。
平成31年4月の時点で,原告製品と被告製品の同種の製品として,少なくとも29種類の製品が販売されていることが認められる(乙176,弁論の全趣旨)が,本件証拠上,本件侵害期間(平成27年12月4日ないし平成29年5月8日)に市場において,原告製品と競合関係に立つ製品が販売されていたと認めるに足りないから,この点を,販売できない事情と認めることはできない。
(ウ) 一審被告は,本件発明2は軸受けについての発明であるところ,被告製品における軸受けの製造費用は全体の製造費用の僅かな部分を占めるにすぎず,軸受けは付属品に類するものであることを販売できない事情として主張する。
しかし,本件発明2が美容器の一部に特徴のある発明であるという事情は,既に原告製品の単位数量当たりの利益の額の算定に当たって考慮しているのであるから,重ねて,これを販売できない事情として考慮する必要はないというべきである。
(エ) 一審被告は,軸受けの部分は外見上認識することができず,代替技術が存することなどを販売できない事情として主張する。
しかし,一審被告の主張する上記の事情は,被告製品及び原告製品のいずれにも当てはまるものであるから,同事情の存在によって,被告製品がなかった場合に,被告製品に対する需要が原告製品に向かわなくなるということはできず,したがって,これらの事情を販売できない事情と認めることはできない。
(オ) 一審被告は,原告製品は,微弱電流を発生する機構を有しているが,被告製品はそのような機構を有していないことを販売できない事情として主張する。
確かに,前記(3)アのとおり,原告製品は,微弱電流を発生する機構を有しており,一方で,被告製品はそのような機構を有していないが,このことは,被告製品は,原告製品に比べ顧客誘引力が劣ることを意味するから,被告製品が存在しなかった場合に,その需要が原告製品に向かうことを妨げる事情とはいい難い。したがって,上記の点は,販売できない事情と認めることはできない。
(カ) 一審被告は,一審被告の営業努力を,販売できない事情として主張するが,本件証拠上,一審被告に,販売できない事情と認めるに足りる程度の営業努力があったとは認められない。
ウ 以上によれば,本件においては,前記イ(ア)aで判示した事情を考慮すると,この販売できない事情に相当する数量は,全体の約5割であると認めるのが相当である。
寄与率
前記(3)及び(5)のとおり,原告製品の単位数量当たりの利益の額の算定に当たっては,本件発明2が原告製品の販売による利益に貢献している程度を考慮して,原告製品の限界利益の全額から6割を控除し,また,被告製品の販売数量に上記の原告製品の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た一審原告の受けた損害額から,特許法102条1項ただし書により5割を控除するのが相当である。仮に,一審被告の主張が,これらの控除とは別に,本件発明2が被告製品の販売に寄与した割合を考慮して損害額を減額すべきであるとの趣旨であるとしても,これを認める規定はなく,また,これを認める根拠はないから,そのような寄与度の考慮による減額を認めることはできない。
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執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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