平成22年(ネ)10091【飛灰中の…重金属固定化処理剤】
<損害論>102条1項、102条3項
認容額18億円
販売不可事情一部期間⇒詳細不明(102条3項:第1期⇒原告製品販売前、102条1項:第2期・第3期⇒原告製品販売開始後)
102条1項但書
競業他者
被告の営業努力(特定時期に届出を行った)
(102条3項:第1期⇒原告製品販売前、102条1項:第2期・第3期⇒原告製品販売開始後)102条1項但書:原告が原告製品を販売することができないとする事情
競業他者の存在~平成15年度ないし平成18年度における競合他社の存在を推認させる。⇒市場占有率に応じて按分。
被告の営業努力等(特定時期に届出を行ったこと)が,その後の飛灰用重金属固定化処理剤におけるピペラジン系の製品の市場形成に関していかなる意味を持ったのか、証拠上不明。
原告製品の平均販売単価の高低が入札価格に直ちに反映するという前提自体が必ずしも正しいとはいえない。
(判旨抜粋)
(6) 第2期及び第3期における特許法102条1項ただし書(販売することができないとする事情)の適用について
ア 前提となる市場規模について
(ア) 1審被告は,当審において,被告製品の販売がなければ販売可能であった原告製品の数量の算定に当たり,非ピペラジン系を含む全ての飛灰用重金属固定化処理剤の市場(乙60,61,64,94,108)を前提とすべきである旨を主張する。
(イ) しかしながら,非ピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤は,ピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤とは異なる化学物質を有効成分とする製品であるから,そもそも,代替品に当たるものということはできない。
加えて,1審被告が主張するように,一部の廃棄物処理事業体による入札仕様書の記載のみから,被告製品の代替品として非ピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤が販売された可能性があるものと断定することは困難であり,このことは,多くの入札仕様書(甲68,乙96)がいずれもピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤のみを入札対象商品に掲げていること(甲67の1)によっても裏付けられる。
よって,1審被告の上記主張は,採用できない。
イ 競合他社の存在について
(ア) ピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤の市場規模及び市場占有率について
① 1審被告は,ピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤については,1審原告及び1審被告以外にも,これを製造,販売する競合他社が存在することから,被告製品が市場に存在しなかったと仮定した場合であっても,1審原告において,被告製品の販売数量の全てを販売することは不可能であり,ピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤の市場から,被告製品を除いた市場を想定し,被告製品の販売数量のうち,当該市場における競合他社の市場占有率に相当する数量は,1審原告において「販売することができないとする事情」に相当する数量に当たる旨主張する。
② そこで検討すると,旧化審法及び平成16年4月1日施行の化審法は,いずれもその第1条で,人の健康を損なうおそれがある化学物質による環境の汚染を防止するため,新規の化学物資の製造等に必要な規制を行うことを目的としている旨を規定しているところ,ジカリウム=ピペラジン-1,4-ビス(カルボジチオアート)及びカリウム=ピペラジン-1-カルボジチオアートは,旧化審法2条4項の規定に基づく指定化学物質として指定されている(平成16年1月9日付け厚生労働省,経済産業省,環境省告示第1号。乙55)。したがって,上記各化学物質は,同日より前においては旧化審法3条の新規化学物質に該当し,それ以後においては,指定化学物質に該当する。そして,上記各化学物質は,いずれも,化審法2条5項の規定に基づく第二種監視化学物質に該当する。
旧化審法23条1項及び化審法23条1項は,いずれも,指定化学物質又は第二種監視化学物質を製造又は輸入する者は,毎年度,当該指定化学物質の製造数量及び輸入数量を経済産業大臣に届け出なけらばならない旨を規定しており,旧化審法45条2号は,これに違反した者について10万円以下の罰金に処する旨を,化審法45条2号も,これに違反した者について30万円以下の罰金に処する旨を,それぞれ規定しており,旧化審法23条2項及び化審法23条2項は,経済産業大臣が,毎年度,上記届出に係る製造数量及び輸入数量を公表する旨を規定している。
以上のように,経済産業大臣が旧化審法23条2項又は化審法23条2項に基づいて公表する上記各化学物質の製造数量及び輸入数量の合計値は,その正確性が刑罰によって担保されている以上,我が国におけるこれらの化学物質の市場規模(販売数量)を正確に反映しているものというべきである。
③ 次に,前記各化学物質を使用したピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤全体の市場規模(販売数量)については,直接これを明らかにする資料がないところ,1審被告は,ピペラジン系の重金属固定化処理剤の市場における1審原告及び1審被告以外の競合他社の存在について特段具体的な証拠を提出していない。他方,1審原告従業員の陳述書(甲67の1)には,平成18年4月以降,市場におけるピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤が原告製品及び被告製品のみであった旨が記載されている。
そこで検討すると,経済産業省告示により公表されている上記各化学物質の製造数量及び輸入数量の合計は,それぞれ,平成15年度が5619トン(甲35の1),平成16年度が7773トン(甲4の1),平成17年度が7586トン(甲4の2),平成18年度が10434トン(甲35の2),平成19年度が7482トン(乙54の1・2),平成20年度が7893トン(乙54の1・2),平成21年度が7023トン(甲50)であることが認められる。なお,平成22年度については,上記数量を確認し得る資料がないため,正確な数値を把握することはできないが,計算上,直近の平成21年度の同数量をもって代替させることとする。そして,原告製品及び被告製品においては,上記化学物質が平均値で38%含まれる水溶液として製造,販売されていることから,当該化学物質全体の届出数量を0.38で除することによって,仮に上記公表数値のみに立脚した場合のピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤の市場規模(販売数量)の暫定値が得られることになる。
以上の方法により,第2期及び第3期の年度ごとのピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤の市場規模(販売数量)の暫定値を算出すると,別表3のC欄記載のとおりとなる。
そして,前記(5)イ(ア)で認定した被告製品の販売数量(別表3のB欄記載の数量)及びA鑑定書第4表及び甲64から認められる原告製品の販売数量(別表3のA欄記載の数量)を前提に,第2期及び第3期における年度ごとの市場における原告製品及び被告製品の市場占有率を仮に算出すると,別表3のD欄記載のとおりとなり,原告製品及び被告製品は,平成19年度において暫定値による市場を全て占有しているほか,平成20年度ないし平成22年度においても,● ●●●%ないし●●●●%という高い市場占有率を示すことになる。他方,原告製品及び被告製品の平成18年度における暫定値による市場占有率は,●●●●%にとどまる。
④ 以上のとおり,経済産業大臣により公表された前記各化学物質の製造数量及び輸入数量とピペラジン系の重金属固定化処理剤の市場規模(販売数量)とは,必ずしも一致するとは限らないものの,当該市場が原告製品及び被告製品のみにより占有されているとする1審原告従業員の前記陳述書は,平成19年度については原告製品及び被告製品が前記暫定値による市場を全て占有しているという裏付けがあるほか,平成20年度については,原告製品及び被告製品が上記暫定値によっても平成21年度及び平成22年度と近接した高い市場占有率を示しているばかりか,平成21年度及び平成22年度については,多くの廃棄物処理事業体の入札仕様書において入札対象商品として原告製品又は被告製品のみが挙げられている(甲68)という裏付けがある。したがって,上記陳述書は,平成19年度ないし平成22年度に関する限り,その記載を信用できる。したがって,原告製品が上記暫定値によっても客観的に高い市場占有率を示しているこれらの年度については,市場におけるピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤が原告製品及び被告製品のみであったものと認めるのが相当である。
他方,平成18年度についてみると,上記陳述書の裏付けとなる各廃棄物処理事業体の入札仕様書がいずれも平成18年度とは隔たった平成21年度及び平成22年度のものであるばかりか,原告製品及び被告製品の暫定値による市場占有率が75.2%にとどまっており,原告製品及び被告製品が市場を全て占有していたとの上記陳述書の記載には十分な裏付けがないというほかない。むしろ,前記②に説示のとおり,上記公表に係る製造数量及び輸入数量の届出の正確性は,刑罰によって担保されているところ,上記の平成18年度の暫定値による市場占有率●●●●%という数値は,前記③に認定の平成19年度以降の暫定値による市場占有率(●●●●%~●●●%)との比較で有意な差異を示しており,かつ,前記各化合物が飛灰用重金属固定化処理剤以外の用途に大量に使用されていると認めるに足りる証拠がない以上,この差異の存在は,平成18年度における競合他社の存在を推認させるに十分であるというべきである。
また,平成15年度ないし平成17年度についてみると,この期間は,OEM3社が競合他社として市場に存在した時期である。
以上によれば,平成15年度ないし平成18年度においては,他に拠るべき的確な証拠が見当たらない以上,1審原告が販売することができないとする事情の考慮に当たり,ピペラジン系の重金属固定化処理剤の市場規模をおおむね正確に反映した経済産業大臣への上記各化学物質の製造数量及び輸入数量の届出数量が当該市場規模に相当するものと考えるほかない。
⑤ したがって,平成15年度ないし平成18年度における被告製品の販売数量のうち,被告製品の販売がなければ競合他社の製品(競合品)が販売されていたものと考えられる数量を除いた,1審原告における原告製品の販売可能数量は,被告製品の販売数量(別表4のA欄の平成15年度ないし平成18年度の部分)に,上記で算出した被告製品を除くピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤の市場における原告製品の市場占有率(別表4のB欄の平成15年度ないし平成18年度の部分)を乗じて得られる数量とするのが相当である(別表4のF欄の平成15年度ないし平成18年度の部分)。
他方,平成19年度ないし平成22年度においては,前記のとおり,市場におけるピペラジン系の飛灰用重金属固定化処理剤が原告製品及び被告製品のみであったものと認められるから,競合他社の存在という1審原告が原告製品を販売することができないとする事情の存在を認めることができない。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/109/082109_hanrei.pdf
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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