平成22年(ネ)10032、平成22年(ネ)10041【ソリッドゴルフボール】<損害論>102条1項
認容額9億2152万円
寄与度50%
販売不可事情40%
102条1項但書
高品質、高性能,品質均一と高評価
ZnPCTPの費用は,全体の1.0~4.1%
芯球に特定の化学物質⇒製品全体の利益に直結しない。
<寄与率> <推定覆滅事情>102条1項但書:原告が原告製品を販売することができないとする事情
被告のゴルフボール製品は,高品質で高性能である上,品質が均一であるとして評価が高く,世界ではもちろん,日本のツアーにおいても使用率が非常に高い。
原告の製品カタログにおいては,ゴルフボールの技術として「コアテクノロジー」,「カバーテクノロジー」,「ディンプルテクノロジー」が並列的に記載されている。また,原告の製品カタログにおいては,「飛びのメカニズム」として,ボール初速のほか,スピン,打ち出し角,ディンプルが並列して記載されている。
被告のゴルフボール製品において,ペンタクロロチオフェノールの亜鉛塩(ZnPCTP)にかかる費用は,製品全体の費用の1.0%ないし4.1%程度である。⇒ゴルフボールの芯球部分において特定の化学物質を利用することを特徴とする本件特許は,必ずしも製品(ゴルフボール)全体の利益に直結するとはいえない。
ゴルフボールは特許の塊ともいわれ,原告のゴルフボールにおいても,本件特許以外に多くの特許が用いられている。⇒ゴルフボールにおいては,コア(芯球)のみでなく,カバー,ディンプルも重要であって,その性能としても,飛び性能のみならずスピン,打ち出し角,ディンプル等に関するものも重要である。
⇒本件特許の寄与率を50%と認定する。原告が「販売することができないとする事情」に相当する数量に応じた控除後の割合としては,原判決における40%を前提としつつ,本件特許の寄与率50%をも考慮して,上記控除後の割合を20%と認める。
(判旨抜粋)<寄与率、102条1項但書の事情>
a 一審被告の親会社であるアクシネット・カンパニーは,2005年(平成17年)ころ,米国内のゴルフボール市場において,数量で約49.6%,金額では約60%のシェアを有していた。他方,一審原告は,同時期において,日本国内では4割ほどのシェアを有していたが,米国内のシェアでは,数量で約5.6%,金額で約4.8%であった。
b 一審被告のゴルフボール製品は,高品質で高性能である上,品質が均一であるとして評価が高く,世界ではもちろん,日本のツアーにおいても使用率が非常に高い。
また,平成15年ころ,ゴルフ関係の雑誌において,一審被告のゴルフボールが,欧米でも広く使われており,勝率が高いこと等につき大きく宣伝されていた。
c ゴルフボールは,小さなゴム球であるが,最先端の科学技術がぎっしり詰まった特許の塊といわれている。
d 本件特許に係る発明は,更に飛び性能の向上したソリッドゴルフボールを提供することを目的とするもので,ゴルフボールの芯球部分につき,特定の化学物質を含有するゴム組成物で形成したことを特徴とする。
e 一審原告又は親会社である株式会社ブリヂストンが保有するゴルフボール関連の特許のうち,平成15年1月から平成18年2月までの間に権利が存続していたものは,合計233件であった。
f 2005年(平成17年)2月ころに米国で販売された一審原告の製品「PRECEPT LADY」には,米国特許に対応する日本の特許(本件特許を含む。)が少なくとも6件使用され,同じく「PRECEPT MC LADY」には,7件の一審原告の米国特許が実施されていた。
g 一審原告の製品カタログにおいては,ゴルフボールの技術として「コアテクノロジー」,「カバーテクノロジー」,「ディンプルテクノロジー」が並列的に記載されている。
また,同カタログにおいては,「飛びのメカニズム」として,ボール初速のほか,スピン,打ち出し角,ディンプルが並列して記載されている。
h 一審被告のゴルフボール製品において,ペンタクロロチオフェノールの亜鉛塩(ZnPCTP)にかかる費用は,製品全体の費用の1.0%ないし4.1%程度である。
(ウ) ゴルフボールの芯球部分において特定の化学物質を利用することを特徴とする本件特許は,必ずしも製品(ゴルフボール)全体の利益に直結するとはいえないため,特許法102条1項ただし書の適用において,本件特許の寄与率を考慮することとする。
そして,前記(ア),(イ)のとおり,我が国のゴルフボール市場においては,平成15年ないし平成19年において,一審原告が1位,一審被告が3位のシェアを有しており,一審被告を除いた市場を仮定すると,一審原告のシェアは約40%強である。一方,米国では,2005年(平成17年)ころ,アクシネット・カンパニーがゴルフボール市場のシェアにおいて1位であり,日本でも,宣伝等によりその知名度は非常に高い。
また,前記のとおり,ゴルフボールは特許の塊ともいわれ,一審原告のゴルフボールにおいても,本件特許以外に多くの特許が用いられており,本件特許は,ゴルフボールの芯球部分を特定の化学物質を含有するゴム組成物で形成したことを特徴とし,飛び性能の更なる向上を目的とするものである。
そして,ゴルフボールにおいては,コア(芯球)のみでなく,カバー,ディンプルも重要であって,その性能としても,飛び性能のみならずスピン,打ち出し角,ディンプル等に関するものも重要である。
以上の諸事情を総合的に考慮して,本件特許の寄与率を50%と認定することとし,本件において,一審原告が「販売することができないとする事情」に相当する数量に応じた控除後の割合としては,原判決における40%を前提としつつ,本件特許の寄与率50%をも考慮して,上記控除後の割合を20%と認めるのが相当である。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/056/082056_hanrei.pdf
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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