東京地判平成31年(ワ)7038,9618<國分>
【グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材】

本件特許出願日前から、①品名/品番が同じ、②製造工程に大きな変更はなく,製品の規格にも変更なし、③出願日前サンプルに発明の数値範囲内のものが含まれていた。
⇒公然実施成立(新規性×)

(判旨抜粋)
…(ウ)日本黒鉛らが本件特許出願前から本件各発明の技術的範囲に属する日本黒鉛各製品を製造販売していたか
…菱面晶系黒鉛層の増加に影響を及ぼすと考えられる要素のほとんどは,黒鉛製品の製造工程及び製造された製品が満たす べき規格に関わるといえるが,具体的に,どのような条件の下,どのような操作をすることにより,単に菱面晶系黒鉛層が増加するだけでなく,六方晶系黒鉛層との総和における菱面晶系黒鉛層の割合であるRate(3R)がどの程度変動するかは,本件訴訟に現れた全証拠によっても確定することができない。…日本黒鉛工業は,本件特許出願前から日本黒鉛各製品を製造しており,本件特許出願前から現在に至るまで,その製造工程及び出荷の基準となる規格値に大きな変更はない。…原告が日本黒鉛製品結果をもって日本黒鉛らに対して提訴したのは平成31年3月であり,平成26年9月9日の本件特許出願からそれほど長い年月が経過しているものとはいえない。
以上によれば,日本黒鉛らは,本件特許出願前から現在に至るまで,日本黒鉛各製品の各名称を付した黒鉛製品を製造販売しており,この間,菱面晶系黒鉛層の増減に影響を与えると考えられるこれらの製品の製造工程及び規格値に変更はないことから,この間に製造販売された日本黒鉛各製品は,同じ製造工程を経て,同じ規格を満たすものであると認められる。そして,他にこれらの製品に対してRate(3R)の増減に影響を及ぼす事情が存したとは認められず,…現時点において,日本黒鉛製品1ないし3は本件各発明の,日本黒鉛製品4及び5は本件発明1の各技術的範囲に属する。これらの事情に照らせば,日本黒鉛らは,本件特許出願前から,このような日本黒鉛各製品を製造販売していたと認めるのが相当であり,…本件特許出願前の平成20年に採取した日本黒鉛製品4及び5のRate(3R)が31%以上であることも,この結論を裏付ける…。
なお,日本黒鉛製品2に係るサンプル結果③は,乙A18結果と相違しているが,日本黒鉛製品2は土状黒鉛であり,菱面晶系黒鉛層(3R)の(101)面及び六方晶系黒鉛層(2H)の(101)面の各ピークが出現するとされる回折線の角度43ないし44°付近のピークが必ずしも明瞭ではなく,…PDXLは,ピークが不明瞭な場合,自動解析機能によっては不合理な解に収束したり,解が発散したりすることがあり,同じく土状黒鉛である日本黒鉛製品1に係るサンプル結果③及び乙A18結果を見てもばらつきがあることからすると,日本黒鉛製品2に係るサンプル結果③と乙A18結果が相違することは,日本黒鉛らが本件特許出願前から本件各発明の技術的範囲に属する日本黒鉛製品2を製造販売していたという上記認定を左右するとはいえない。…
原告は,第三者において,被告ら,日本黒鉛ら及び中越黒鉛から本件各発明を実施した製品を取得したとしても,本件各発明の構成ないし組成を知り得なかったと主張する。しかし,…本件特許出願当時,当業者は,物質の結晶構造を解明するためにX線回折法による測定をし,これにより得られた回折プロファイルを解析することによって,ピークの面積(積分強度)を算出していた。このような分析を外部の専門機関に依頼するのに,費用や労力,時間がかかることは,本件各発明が公然と実施されていたことの認定判断の妨げになるものとは認められない。…
原告は,本件特許出願前に販売された製品と近時に販売された製品の品名・品番が同一であるからといって,製品として同一であるとはいえないと主張する。しかし,品名・品番を基準として,製品の品質が管理されることが多いことは,当裁判所に顕著な事実である。そして,このような事情に加えて,…被告ら,日本黒鉛ら及び中越黒鉛において,本件特許出願の前後を通じて,製品の製造工程に大きな変更はなく,製品の規格にも変更がなかったこと,本件特許出願前の製品のサンプルにRate(3R)が31%以上又は40%以上のものが含まれていることなどを考慮すると,…被告ら,日本黒鉛ら及び中越黒鉛は,本件特許出願前から,本件発明1又は本件各発明の各技術的範囲に属する製品を製造販売していたものと認めるのが相当である。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/726/090726_hanrei.pdf

 

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執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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