控訴審・令和2年(ネ)10029【セルロース粉末】<大鷹>

サポート要件〇(一審と逆!!)

明細書で引用されたBATTISTA論文を覆すために、一審では1個文献を出したが、控訴審で更に2個提出し、原判決を逆転した。

BATTISTA論文の11年後の公知文献が決め手となった!!

=R1(行ケ)10160<大鷹>

<原審>東京地判平成29年(ワ)第24598号<柴田>

【請求項1】・・・平均重合度が,該セルロース粉末を塩酸2.5N,15分間煮沸して加水分解させた後,粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5~300高いことを特徴とするセルロース粉末。

(判旨抜粋)
本件明細書には,実施例2ないし7及び比較例1ないし11のセルロース粉末について,それぞれの原料パルプ(市販SPパルプ,市販KPパルプ等)のレベルオフ重合度が記載されている…。…本件出願当時,酸加水分解時に,非結晶部分は酸で分解されやすいが,結晶部分は分解されず残り,残った部分の化学構造と結晶構造は,原料セルロースのままであって,分解されずに残った部分の結晶領域の長さが「レベルオフ重合度」に対応することは技術常識であったことを踏まえると,本件明細書の上記実施例及び比較例記載のセルロース粉末のレベルオフ重合度は,原料パルプのレベルオフ重合度とおおむね等しいものと理解できる。…加えて,本件明細書の表4には,実施例2ないし7及び比較例1ないし11のセルロース粉末の平均重合度の記載があることからすると,本件明細書に接した当業者は,上記セルロース粉末が差分要件を満たすかどうかを把握できるものと解される。また,本件明細書の表4には,「平均重合度」,「粒子の平均L/D(長径短径比)」,「平均粒子径」,「見掛け比容積」,「見掛けタッピング比容積」,「安息角」及び「平均重合度とレベルオフ重合度との差分」(差分要件)のいずれもが本件発明1の数値範囲内にある実施例2ないし7のセルロース粉末の円柱状成形体とそのいずれかが本件発明1の数値範囲外である比較例1ないし11とのセルロース粉末の円柱状成形体について,平均降伏圧[MPa],錠剤の水蒸気吸着速度Ka,硬度[N]及び崩壊時間[秒]が示されている。そして,実施例2ないし7のセルロース粉末は,いずれも,安息角が55°以下,錠剤硬度が170N以上,崩壊時間が130秒以下であり,ここで,安息角は,55°を超えると,流動性が著しく悪くなり…,錠剤硬度は成形性を示す実用的な物性値であり,170N以上が好ましく…,崩壊時間は崩壊性を示す実用的な物性値であり,130秒以下が好ましい…のであるから,実施例2ないし7のセルロース粉末は,成形性,流動性及び崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末であるということができる。したがって,当業者は…実施例2ないし7のセルロース粉末は,本件発明1の課題を解決できると認識できる…。…
…本件明細書…の記載から,セルロース粉末がレベルオフ重合度まで加水分解されてしまうと,乾燥前のセルロース粒子のL/Dが低下しやすく,その後の乾燥工程でセルロース粒子が凝集して,得られるセルロース粉末のL/Dが小さくなり,L/Dが小さくなると,成形性が低下することを理解できる。そして,本件発明1の差分要件は,レベルオフ重合度まで重合度が低下しないように加水分解することを,セルロース粉末の平均重合度とレベルオフ重合度の差分(差分要件)で表し,その下限を「5」としたことを理解できるから,当業者は,本件発明1の差分要件の数値範囲の全体にわたり,本件発明1の課題を解決できると認識できるものと認められる。…

https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/773/090773_hanrei.pdf

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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