平成28年(ネ)10093【…スキンケア用化粧料】<清水>

「…クエン酸が収れん剤として機能するものであるとしても,このことは,上記クエン酸が『pH調整剤』に該当するとの充足性判断についての結論を左右するものとはいえない。」
※結局、無効の抗弁が成立した。

(判旨抜粋)
控訴人は,乙34及び乙35の各ウェブページは,それぞれ「よっこ」及び「*Ihasa*さん」と称する匿名者による記事にすぎず,それらの正確性,信頼性に何らの裏付けもなく,また,公開日に関しては,乙34ウェブページのブログ記事も乙35ウェブページのクチコミ記事も過去の投稿内容をいつでも容易に編集することが可能なのであって…,…実際に…公衆に利用可能になっていたことは疑わしいから,乙34ウェブページは証拠として採用されるに値しないと主張する。
しかしながら,本件特許の出願前において,化粧品の全成分表示が義務付けられていたところ…,控訴人は,乙34ウェブページにおける控訴人旧製品の全成分の記載内容の正確性について争っておらず,また,本件特許の出願前の平成19年1月15日に発売された控訴人旧製品の全成分リストを,乙34ウェブページの作成者が参照することができなかったなどというような具体的な主張もしていない。さらに,乙34ウェブページと乙35ウェブページとは,異なるウェブページであり,その作成者のペンネームも異なることから,異なる者によって記載されたものであり,控訴人旧製品の全成分の記載内容については,各成分の名称も表記順序も一致していることなどを考慮すると,両ウェブページを記載した者は,いずれも控訴人旧製品の容器等に記載された全成分表示を参照したものと考えるのが自然かつ合理的であるといえる。このように,異なる複数の者が控訴人旧製品の全成分表示を参照していることなどからすると,乙34ウェブページは,その内容を書き換えられる可能性が皆無ではないとしても,平成19年1月15日の控訴人旧製品の発売日より後の平成19年1月17日(乙34)に記載されたものであると推認することができる…。…
本件発明と乙34発明とでは,本件発明のpHの値が5.0~7.5の範囲であるのに対し,乙34発明のpH値が特定されていない点で相違し,その余の点で一致する。…本件特許の出願前に,化粧品のpHを弱酸性~弱アルカリ性の範囲に設定することは技術常識であったと認められるから,pHが特定されていない化粧品である乙34発明のpHを,弱酸性~弱アルカリ性のものとすることは,当業者が適宜設定し得る事項というべきものである。そして,皮膚表面と同じ弱酸性とされることも多いという化粧品の特性に照らすと,化粧品である乙34発明のpHを,弱酸性~弱アルカリ性の範囲に含まれる「5.0~7.5」の範囲内のいずれかの値に設定することも,格別困難であるとはいえず,当業者が適宜なし得る程度のことといえる。…
控訴人は,乙34ウェブページには控訴人旧製品に係る全成分のリストが掲載されている以上,乙34ウェブページに接した当業者は乙34ウェブページに記載されているものは控訴人旧製品という具体的かつ特定の製品であると認識するから,乙34発明は,乙34ウェブページに掲載されている全ての成分を含み,そのpHは控訴人旧製品のpH(7.9~8.3)を有するものと認定されるべきであると主張する。しかしながら,乙34ウェブページには,控訴人旧製品という具体的製品のpH値は記載されておらず,また,各成分の含有量も記載されていないから,本件特許の出願当時の技術常識を考慮したとしても,乙34ウェブページの記載内容から,特定のpH値を有する美容液であることを把握することはできないというべきである。すなわち,乙34ウェブページに記載された控訴人旧製品の全成分情報からは,そこに示された各成分を含有するものの,これら各成分の含有量は明らかではなく,そのpHも明らかではない「スキンケア用化粧料」という発明が把握されるにとどまる。そして,控訴人の上記主張も,控訴人旧製品自体の成分を検査すればpHの値を知ることができるというにとどまるものと解されるのであって,技術常識を踏まえても,乙34ウェブページに掲載されている内容自体から,そのスキンケア化粧料のpHが7.9~8.3であると導くことができるとは認められない。

https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/249/087249_hanrei.pdf

 

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
本件に関するお問い合わせ先:h_takaishi☆nakapat.gr.jp(☆を@に読み換えてください。)