大阪地判平成19年(ワ)13513【X線異物検査装置】<損害論>102条2項
認容額3億7150万
寄与度20%(80%覆滅)
①メンテナンス性について重要な機能であるが,付随的な機能。
②被告がX線異物検査装置の市場で48%のトップシェアを有し,充実したサポート体制を敷いている。
本件発明は,X線異物検査装置において重要な構成要素である搬送機構及びラインセンサの支持構造そのものに係るものであり,被告製品の全体構造において欠くことのできない。
被告は,本件特許発明の作用効果であるメンテナンスの容易さについて,被告製品のパンフレットにおいて「簡単に分解して水洗いが可能」であるとして「清掃性」を強調している。⇒ベルトコンベアの清掃性に直結する本件発明は,被告製品の販売において少なからぬ寄与をしているものというべきである。ただし,被告製品の本来的な機能はX線を用いて食品に異物が混入しているかどうかを検査するというものであり,メンテナンス性については重要な機能ではあるものの,あくまで付随的な機能である。したがって,本件特許発明の寄与度についても,かかる付随的な機能であるという限度において判断される。
被告の販売力~被告がX線異物検査装置に係る市場において48%のトップシェアを有すること,被告が充実したサポート体制を敷いていることは,被告製品の販売において相応の寄与をしている。
競合他社の動向~特許権の独占力(特許法68条)は法によって付与される特別の効力であり,競合他社の無断実施によってかかる法律上の効果が減殺されるものではない。
かえって,本件においては,被告が主張するとおり,アンリツ,日新電子及びシステムスクエア等の競合他社が本件特許発明を実施しているというのであるから,X線異物検査装置において,本件特許発明の有用性は高く,かつ容易に取って代わる代替技術も存在しないものと認められる。
(判旨抜粋)
(ア) 被告製品における本件特許発明の位置づけ
本件特許発明は,X線異物検査装置において重要な構成要素である搬送機構及びラインセンサの支持構造そのものに係るものであり,被告製品の全体構造において欠くことのできないものと認められる。
また,被告は,本件特許発明の作用効果であるメンテナンスの容易さについて,被告製品のパンフレット(甲5及び15)において,「簡単に分解して水洗いが可能」であるとして「清掃性」を強調している。被告製品は主として食品を被検査物とするものであるところ,食品に係る機械については,常に衛生的に保つ必要があり,特に食品を搬送するコンベアについては,衛生状態に気を配る必要がある。被告製品の取扱説明書においても,「一日の運転が終了したら,コンベヤ各部を清掃してください」として,毎日の清掃を推奨している。そうとすれば,ベルトコンベアの清掃性に直結する本件特許発明は,被告製品の販売において少なからぬ寄与をしているものというべきである。
ただし,被告製品の本来的な機能はX線を用いて食品に異物が混入しているかどうかを検査するというものであり,メンテナンス性については重要な機能ではあるものの,あくまで付随的な機能である。
したがって,本件特許発明の寄与度についても,かかる付随的な機能であるという限度において判断されるべきものである。
(イ) 代替技術の有無
被告は,公用物件に係る構成をして,本件特許発明の代替技術に当たると主張する。たしかに,公用物件においてもメンテナンスを容易にするという技術思想は窺うことができる。しかし,公用物件における解決方法は,搬送機構であるコンベアユニットをX線検査異物装置本体の支持部材とは別の部材により支持した上,これを手前側に引き出して行うものであり,本件特許発明とは大きく異なるものである。なお,被告は,乙第6号証や乙第13号証において,コンベアユニットを手前側に引き出さないまま清掃作業を行う様子を示すが,公用物件の取扱説明書(甲9の126頁)においては,コンベアの清掃作業の手順として,コンベアユニットを引き出すことが記載されているのであるから(被告は,公用物件の発売元であるにもかかわらず,説明書とは異なるメンテナンス手順を示すのである。),公用物件におけるメンテナンスを容易にするという課題解決手段は,コンベアユニットを手前側に引き出すことにあるというべきである。そして,公用物件は,かかる構造を採るがゆえに,その分,手数を要することになるから,メンテナンス性という意味においては,本件特許発明より劣るものといわざるを得ない。
そうすると,公用物件はメンテナンスを容易にするための構成を有してはいるものの,本件特許発明にとって,容易に取って代わるような代替技術であるとは認められない。
(ウ) 被告の技術力
被告は,被告製品が本件特許発明以外の技術的要素によって販売できていると主張し,その具体例として,被告製品のコンベアの下方が開放されており,清掃が容易であることを挙げる。
しかし,かかる作用効果について,被告製品のパンフレット(甲5,15)では何ら触れられていない。また,被告は原告製品では下方が開放されていないことを指摘するが,原告製品のパンフレット(甲20の2頁,甲21の3頁)によれば,原告製品でも検査室ドアを開けることによって容易に搬送機構の下方を清掃することができるのであり,食品に係るX線異物検査装置では毎日清掃することが推奨されていることを併せ考慮すれば,被告製品においてコンベアの下方が開放されていることが大きなセールスポイントになるとは考え難い。
また,被告は,被告製品が「欠品検査精度」,「耐久性」,「取扱の簡便性」によって販売できている旨も主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。
(エ) 被告の販売力
弁論の全趣旨によれば,X線異物検査装置はコンピュータスケールや重量チェッカーなどと同じラインの前後で使用されるものであること,これら周辺機器に対する販売力がX線異物検査装置の販売機会獲得につながったこと,被告がX線異物検査装置に係る市場において48%のトップシェアを有すること,被告が充実したサポート体制を敷いていること,以上の事実が認められ,かかる事実は,被告製品の販売において相応の寄与をしていると認められる。
この点,原告は,被告がX線異物検査装置の分野で一定の地位を確保することができたのは,原告と被告が密接不可分の協力をしていたからであると主張する。しかし,被告の販売網の確立において原告が寄与したかどうかは,被告製品の販売における本件特許発明の寄与を判断するに当たっては,基本的に関係のない事柄であり,採用できない。
(オ) 競合他社の動向
被告は,X線異物検査装置の市場において,アンリツ等の競合他社が本件特許発明を実施しており,本件特許発明に抑止力がないとして独占的価値がないと主張する。
しかし,特許権の独占力(特許法68条)は法によって付与される特別の効力であり,競合他社の無断実施によってかかる法律上の効果が減殺されるものではない。
かえって,本件においては,被告が主張するとおり,アンリツ,日新電子及びシステムスクエア等の競合他社が本件特許発明を実施しているというのであるから(本件では,かかる事実につき当事者間に争いがないので,これを前提とする。),X線異物検査装置において,本件特許発明の有用性は高く,かつ容易に取って代わる代替技術も存在しないものと認められる。
(カ) 上記のとおり,本件特許発明はX線異物検査装置の本来的な機能に係るものではないものの,メンテナンス性という食品を取り扱う機器にとって重要な機能において有用性の高いものであり,かつ容易に取って代わる代替技術も認められないこと,本件特許発明は,被告製品の構造上不可欠なものであることを考慮すれば,被告製品の販売において被告の販売網が寄与したことを考慮したとしても,本件特許発明の寄与率については20%と認めるのが相当である。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/170/038170_hanrei.pdf
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
本件に関するお問い合わせ先:h_takaishi☆nakapat.gr.jp(☆を@に読み換えてください。)