令和3年(行ケ)10096【光源】<本多>

引用文献中の複数の段落から一まとまりの技術思想を抽出可能、データがない数値限定を設計事項として、進歩性を否定した事案。

「本願明細書に…10重量%を超える場合の実験結果についての記載は全くみられない…特段の臨界的意義はない」

(判旨抜粋)
…引用文献の段落[0012]、[0013]及び[0015]には、緑色発光半導体ナノ結晶及び赤色発光半導体ナノ結晶のそれぞれの発光ピークのFWHM(半値全幅)が約45nm以下であること又は45nm以下であってもよいことが開示されているところ、引用文献の前後の文脈に照らすと、これらの開示は、引用文献が開示する発明一般に当てはまるものと解される。…引用発明において「緑色発光半導体ナノ結晶と赤色発光半導体ナノ結晶の発光ピークのFWHM(半値全幅)は約45nm以下であり」との構成を採用すると…との構成が採用できなくなるとの記載又は示唆はみられない。そうすると、…一まとまりの技術的思想に基づく単一の発明中に両者の構成を併存させることは十分に可能であるから、前者の構成を含むものとして引用発明を認定した本件審決に誤りはない。
…低コスト化が多くの技術分野に共通する技術的課題であることは、引用文献を始めとする刊行物等に明示の記載や示唆がなくても自明のこととして認められる事柄である…。

…(相違点)「光変換層」について、本件発明は、「散乱剤を含み」、「前記散乱剤は、前記光変換層の全体重量に対して10重量%以下で含まれて」いるのに対し、引用発明は、「散乱剤」の有無は不明である点。…
…「散乱剤が光変換層の全体重量に対して10重量%以下で含まれている」との構成について
…本願明細書には、単に、「10重量%以下で含まれてもよい。」…、「10重量%以下含まれることが好ましく、1重量%以上5重量%以下含まれることがより好ましい。」…、「10重量%以下であることが好ましい。」…などの記載があるのみである。しかも、…実施例として記載されている同含有割合の最大値は、6重量%…にすぎず、本願明細書には、同含有割合が10重量%を超える場合の実験結果についての記載は全くみられない…。以上によると、光変換層の全体重量に対する散乱剤の含有割合を10重量%以下とすることには、特段の臨界的意義はないものといわざるを得ない。加えて、…、光変換層内の散乱剤、赤色量子ドット材料及び緑色量子ドット材料の含量比を調節することにより、白色光の色座標を調節することは可能であり、また、本願明細書の段落【0137】によると、散乱剤の含量を調節することにより、白色光の輝度等を調節することも可能であると認められ、周知文献1の段落【0116】に「ある好ましい実施形態において、散乱体の濃度範囲は0.1から10重量%である。」との記載があることも併せ考慮すると、光変換層の全体重量に対する散乱剤の含有割合は、当業者において、光変換層により得られる白色光をどのようなものにするかに応じ適宜設計することのできたものである。

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執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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