令和3年(行ケ)10093「PCSK9に対する抗原結合タンパク質」2次判決(アムジエン v. リジェネロン)<菅野>
=令和3年(行ケ)10094

1次判決と異なり、機能的に表現されたリーチスルークレームにつき、前訴確定判決と異なり、効果のクレームアップでサポート要件を充たすという考え方が否定された。
1次判決は、平成29年(行ケ)10225(サノフィ)

【請求項1】 PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ,PCSK9との結合に関して,配列番号67のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖と,配列番号12のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む抗体と競合する,単離されたモノクローナル抗体

(判旨抜粋)
…そもそも本件発明の課題は、…LDLRタンパク質と結合することにより、対象中のLDLRタンパク質の量を減少させ、LDLの量を増加させるPCSK9とLDLRタンパク質との結合を中和する抗体又はこれを含む医薬組成物を提供することであり、このような課題の解決との関係では、参照抗体と競合すること自体に独自の意味を見出すことはできないから、このような観点からも…本件発明の技術的意義は、21B12抗体と競合する抗体であれば、21B12抗体と同様のメカニズムにより、結合中和抗体としての機能的特性を有することを特定した点にあるというべきである。…
被告は、…21B12抗体(参照抗体)と競合するが、PCSK9とLDLRタンパク質との結合を中和できない抗体が仮に存在したとしても、そのような抗体は、本件発明1の技術的範囲から文言上除外されているなどとして、本件発明がサポート要件に反する理由とはならない旨主張する。しかし、既に説示したとおり、21B12抗体と競合する抗体であれば、21B12抗体と同様のメカニズムにより、PCSK9とLDLRタンパク質との結合中和抗体としての機能的特性を有することを特定した点に本件発明の技術的意義があるというべきであって、21B12抗体と競合する抗体に結合中和性がないものが含まれるとすると、その技術的意義の前提が崩れることは明らかである(本件のような事例において、結合中和性のないものを文言上除けば足りると解すれば、抗体がPCSK9と結合する位置について、例えば、PCSK9の大部分などといった極めて広範な指定を行うことも許されることになり、特許請求の範囲を正当な根拠なく広範なものとすることを認めることになるから、相当でない。)。…
本件発明に係る別件審決取消訴訟においては…サノフィによるサポート要件違反に関する主張は退けられている。しかし、これは、当時の主張や立証の状況に鑑み、21B12抗体と競合する抗体は、21B12抗体とほぼ同一のPCSK9上の位置に結合し21B12抗体と同様の機能を有するものであることを当然の前提としたことによるものと理解することも可能である。これに対し、本訴においては、【A】博士や【B】博士の各供述書、【F】教授の鑑定書等…による構造解析、「EGFaミミック抗体」に係る関係書証…等の新証拠に基づく新主張により、上記前提に疑義が生じたにもかかわらず、この前提を支える判断材料が見当たらないのであるから、別件判決の結論と本件判断が異なることには相応の理由があるというべきである。

https://www.nakapat.gr.jp/ja/legal_updates_jp/%e3%80%90%e7%89%b9%e8%a8%b1%e2%98%85%e2%98%85%e3%80%91%e6%a9%9f%e8%83%bd%e7%9a%84%e3%81%ab%e8%a1%a8%e7%8f%be%e3%81%95%e3%82%8c%e3%81%9f%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%81%e3%82%b9%e3%83%ab%e3%83%bc%e3%82%af/

 

 

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執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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