令和2年(行ケ)10150【エクオール含有大豆胚軸発酵物】<森>

 

(1)新規性〇

本件明細書【表3】と引用文献の試験例では、発酵原料及び発酵条件が異なる。

⇒乾燥重量1g当たりのオルニチンの量も変化する

H31(ネ)10015‹大鷹›は、限定解釈⇒非充足

 

(2)進歩性〇

主引用発明に副引用発明を適用して容易想到とする考慮要素は、引用発明に周知技術を適用して容易に発明できたを判断する場合にも妥当する

 

(3)分割要件〇

【(訂正後)請求項1】発酵物の乾燥重量1g当たり,8㎎以上のオルニチン及び1㎎ 以上の…製造方法

~当初明細書中「8~15m」の下限値のみをクレームアップ

 

 

(判旨抜粋)

<委任省令要件違反>

…原告は,本件明細書の【発明が解決しようとする課題】段落【0010】においてオルニチンに係る記載がないことを指摘するが,…特許法施行規則24条の2は,「発明の詳細な説明の記載」に係る規定であるから,本件明細書全体の記載から理解できれば足り,必ずしも,発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が「発明が解決しようとする課題」の項目に記載されている必要はない。

 

<分割要件>

…当初明細書の段落【0050】には,「エクオール含有大豆胚軸発酵物に含まれるオルニチンの含有量として具体的には,エクオール含有大豆胚軸発酵物の乾燥重量1g当たりオルニチンが5~20mg,好ましくは8~15mg,更に好ましくは9~12mg程度が例示される。」との記載があり,発酵物の乾燥重量1g当たり8~15mgのオルニチンが含まれることが好ましい旨の記載があるところ,上記③の構成は,当初明細書に例示された「8~15mg」のうちの下限値により特定したものということができる。

 

<新規性>

…原告の主張は,本件明細書の【表3】においてアルギニンからオルニチンへと100%(変換率約159%)を優に超える変換がなされていることを前提とするものであるところ,…発酵原料及び発酵条件が異なる。そして,発酵原料や培地中の固形成分の含有量により発酵物の乾燥重量が大きく変化し得るので,発酵原料が変わると乾燥重量1g当たりのオルニチンの量も変化するから,発酵原料として大豆胚軸溶液を用いた場合と豆乳を用いた場合で発酵物の乾燥重量1g当たりのオルニチンの産生量は大きく変化し得る。また培養条件が異なるとアルギニンからオルニチンへの変換率も異なり得る。そうすると,甲1の試験例におけるオルニチンの産生量を推定するに当たって,本件明細書の【表3】を前提とすることが相当であるということはできない。…甲1の試験例では培地とするBHIブロスの組成が特定されていない以上,甲1発明においては,発酵物の乾燥重量1g当たり8mg以上のオルニチンが産生されるとは限らない…。そうすると,甲1発明は「発酵物の乾燥重量1g当たり8mg以上のオルニチンを産生するもの」であるということはできない。

 

<進歩性>

…主引用発明に副引用発明を適用することにより本願発明を容易に発明をすることができたかどうかを判断する場合には,①主引用発明又は副引用発明の内容中の示唆,技術分野の関連性,課題や作用・機能の共通性等を総合的に考慮して,主引用発明に副引用発明を適用して本願発明に至る動機付けがあるかどうかを判断するとともに,②適用を阻害する要因の有無,予測できない顕著な効果の有無等を併せ考慮して判断するのが相当であるところ(知的財産高等裁判所平成30年4月13日判決〔平成28年(行ケ)第10182号・第10184号事件〕参照),これは,引用発明に周知技術を適用して本願発明を容易に発明することができたかどうかを判断する場合にも妥当する。

 

090780_hanrei.pdf (courts.go.jp)

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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