令和1年(行ケ)10159【X線透視撮影装置】<菅野>

 

新たに課題として取り上げたことに意義があるとの評価も十分に可能…

 

こうした課題があることを前提として,引用発明との相違点の構成にする動機づけがあるとはいえ…ない。

 

「本願発明は,その操作者の便宜に着目して,操作者の観点から画像の調整を容易にするための問題点を新たに課題として取り上げたことに意義があるとの評価も十分に可能である。…

引用文献1には,「操作用液晶ディスプレイ装置21」を見て操作する「操作者」の視認方向が「診断用画像モニタ装置17」を見る「術者」の「被検者」の視認方向と一致しないという課題(課題B2)について記載も示唆もなく,…こうした課題があることを前提として,引用発明との相違点の構成にする動機づけがあるとはいえず…。」

 

 

=H22(行ケ)10075【換気扇フィルター】<飯村>

 

 

(判旨抜粋【X線透視撮影装置】)

…被告は,…当業者であれば…手術中に被検者の患部を表示する画像表示装置において,「操作者」が異なる方向から被検者に対向する場合,各々の被検者を見る向き(視認方向)に一致させるという周知の課題…を参照し,異なる方向から被検者に対向する操作者が見る操作用液晶ディスプレイ21の画像の向きを,操作者が被検者を見る向き(視認方向)に一致させるという課題を当然に把握し,引用発明に技術事項2を適用する動機づけがある旨主張する。しかし,…原告が主張するように,術者と操作者との力関係や役割の違いに照らせば,操作者は,従前は,このような課題を具体的に意識することもなく,術者の指示に基づきその所望する方向に画像を調整することに注力していたものであるのに対して,本願発明は,その操作者の便宜に着目して,操作者の観点から画像の調整を容易にするための問題点を新たに課題として取り上げたことに意義があるとの評価も十分に可能である。…

本願発明と引用発明との相違点は,本願発明は「前記X線画像のうち,前記表示部に表示されるX線画像のみを回転させる画像回転機構を備え」ているのに対し,引用発明は,そのような特定がない点に尽きるが(本願発明における画像回転機構自体については目新しいものとはいえない。),引用文献1には,「操作用液晶ディスプレイ装置21」を見て操作する「操作者」の視認方向が「診断用画像モニタ装置17」を見る「術者」の「被検者」の視認方向と一致しないという課題(課題B2)について記載も示唆もなく,被告が提出した文献からは,手術中に被検者の患部を表示する画像表示装置において,異なる方向から被検者に対向する操作者が見る操作用液晶ディスプレイ21の画像の向きを,操作者が被検者を見る向き(視認方向)に一致させるという課題があると認めるに足りないから,こうした課題があることを前提として,引用発明との相違点の構成にする動機づけがあるとはいえず,また,本件審決の技術事項2の認定に誤りがあり,引用文献2に記載された事項(技術事項2’)から引用発明との相違点の構成に想到するともいえないから,結局のところ,本願発明は,引用発明及び引用文献2に記載された技術事項2’に基づいて当業者であれば容易に想到し得たものとはいえず,これと異なる本件審決の判断は,その余の点につき判断するまでもな く,誤りである。

 

 

(判旨抜粋【換気扇フィルター】)

…発明が容易に想到できたか否かは総合的な判断であるから,当該発明が容易であったとするためには,「課題解決のために特定の構成を採用することが容易であった」ことのみでは十分ではなく,「解決課題の設定が容易であった」ことも必要となる場合がある。すなわち,たとえ「課題解決のために特定の構成を採用することが容易であった」としても,「解決課題の設定・着眼がユニークであった場合」(例えば,一般には着想しない課題を設定した場合等)には,当然には,当該発明が容易想到であるということはできない。ところで,「解決課題の設定が容易であったこと」についての判断は,着想それ自体の容易性が対象とされるため,事後的・主観的な判断が入りやすいことから,そのような判断を防止するためにも,証拠に基づいた論理的な説明が不可欠となる。また,その前提として,当該発明が目的とした解決課題を正確に把握することは,当該発明の容易想到性の結論を導く上で,とりわけ重要であることはいうまでもない。…

…甲18,19及び32等の例によっても,「金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とが接着剤で接着されている換気扇フィルターにおいて,通常の状態では強固に接着されているが,使用後は容易に両者を分別し得ることを容易化すること」との解決課題を設けることが示されていない以上,当業者において,発明Aに,甲2記載の発明を適用することによって,本件発明1における発明Aとの異なる構成に想到することが容易であったとすることもできない。すなわち,発明Aから,本件発明1の特徴点(「(通常の状態では強固に接着させるが,水に浸漬すれば接着力が低下し,容易に金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを分別し得る)皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤を用いること」)に到達することの示唆が,甲2の記載に存在するとはいえないから,結局,発明Aに甲2記載の発明を適用することが,容易とはいえない。

 

 

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/249/090249_hanrei.pdf

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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