令和元年12月25日判決
知財高判平成31年(行ケ)第10027号
「椅子式マッサージ機」事件
<鶴岡裁判長>
⇒各手段が協調して発明の機能を実現する必要あり
⇒実施可能要件×
(判旨抜粋)
「本件においては,構成要件D~Fを充足するような,[1]肘掛部の後部と背凭れ部の側部を連結する連結手段,[2]肘掛部全体を座部に対して回動させる回動手段及び[3]背凭れ部を座部に対し連結する連結手段の具体的な組み合わせが問題になっており,したがって,
これらの各手段は何の制約もなく部材を連結又は回動させれば足りるのではなく,それぞれの手段が協調して構成要件D~Fに示された機能を実現する必要がある。
そうすると,このような機能を実現するための手段の選択には,技術的創意が必要であり,単に適宜の手段を選択すれば足りるというわけにはいかない」
(コメント)
電気・機械分野で実施可能要件×の裁判例は珍しいです。
下掲するとおり、クレーム文言としては「それぞれの手段が協調して構成要件D~Fに示された機能を実現する必要がある」ことは限定されていません。
限定解釈⇒サポート要件・実施可能要件違反という、ピリミジン大合議判決以前の2年間に多く見られた傾向に類似しており、不気味な印象です。
【請求項1】
A 座部と前記座部の後側でリクライニング可能に連結された背凭れ部を有する椅子本体と,前記背凭れ部の左右の側壁部と,該椅子本体の両側部に設けた肘掛部と,を有する椅子式マッサージ機において,
B 前記左右の側壁部は,前記座部に着座した施療者の肩または上腕側方となる位置に配設しており,前記左右の側壁部の内側面には夫々左右方向に重合した膨縮袋を備えて,これら重合した膨縮袋の基端部を前記側壁部に取り付けるように構成しており,
C 前記肘掛部は,施療者の前腕部を載置しうるための底面部,及び外側立上り壁により形成され,前腕部の長手方向において前記外側立上り壁に複数個配設された膨縮袋
で前記底面部に載置した施療者の前腕部にマッサージを施すための前腕部施療機構を備えており,D 前記肘掛部の後部と前記背凭れ部の側部とを連結する連結部と,前記肘
掛部の下部に設けられ,前記背凭れ部のリクライニング動作の際に前記連結部を介して前記肘掛部全体を前記座部に対して回動させる回動部とを設け,
E 前記肘掛部全体が,前記背凭れ部のリクライニング動作に連動して,リクライニングする方向に傾くように構成されて,
F 前記背凭れ部のリクライニング角度に関わらず施療者の上半身における着座姿勢を保ちながら,肩または上腕から前腕に亘って側壁部及び外側立上り壁側から空圧施療を行う事を特徴とする椅子式マッサージ機。
【請求項2】
G 前記肘掛部が前記背凭れ部の側部付近まで延設されており,かつ前記外側立上り壁が施療者の前腕部から肘部に位置するように構成されている事を特徴とする請求項1記載の椅子式マッサージ機。
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
本件に関するお問い合わせ先:h_takaishi☆nakapat.gr.jp(☆を@に読み換えてください。)