知財高判平成29年(行ケ)第10117号
「マイコプラズマ・ニューモニエ検出用イムノクロマトグラフィー試験デバイス」事件(鶴岡裁判長)
引用文献に製造可能な程度に記載がないから、特許法29-1(3)「記載された発明」に該当しないとして、引用例適格が否定された事例。⇒進歩性〇
本判決は、「刊行物に記載された発明」(特許法29条1項3号)といえるためには,刊行物の記載及び本件特許の出願時(以下「本件出願時」という。)の技術常識に基づいて,当業者がその物を作れることが必要であるという一般論を判示した上で、引用例1の記載及び本件出願時の技術常識を考慮しても,引用発明1のデバイスを当業者が作れるように記載されていないとして引用例1の引用例適格を否定し、特許取消決定を取り消しました。
引用例適格については、引用「発明」である必要があるという文脈で従来から問題とされてきたものであり、本判決も従来の裁判例と整合すると思われます。
ここで本判決を取り上げたのは、平成30年4月のピリミジン大合議判決で主・副引用発明が「発明」である必要があることが明確に確認されたこと、また、同時期の先使用権に関する裁判例(医薬事件)で(傍論であるが)先使用物が偶々対象特許発明の数値範囲に入っていただけでは先使用権は認められないとして、先使用「発明」であったかどうかが重視されたという最近の裁判例の潮流とも極めて良く整合すると思われるためです。
次は、公知物が偶々対象特許発明の数値範囲に入っていただけでは公然実施「発明」は認められないという判決も有り得えます。本判決とパラレルに考えれば、公知物を作った者が当該公知物を作れたとしても、「当業者(発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)」が当該公知物を作れたか否かという争点が想定されます。そうすると、作り方をノウハウとして秘匿している場合に、後から当該物を作ることに成功した者が特許を取得できることが有り得ることになります。例えば、 数値限定された「物」を製造できたこと自体に技術的意義を認めて新規性・進歩性〇とした裁判例としては、平成19年(行ケ)第10430号、平成14年(行ケ)第418号等があります。
このように、主・副引用発明が「発明」であることを厳格に要求すると、従来技術と同じ物であっても新規性・進歩性が認められる場合があることから、従来から実施している者の保護をどのように考えるかが問題となると思われます。(筆者は、「自由技術の抗弁」復権を考えています!!)
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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