大阪地判平成29年(ワ)第9201号
「シリコーン・ベースの界面活性剤を含むアルコール含有量の高い発泡性組成物」事件(杉浦裁判長)
「低い圧力」というクレーム文言について、明確性要件○、充足性も〇と判断され、特許権者勝訴となりました。
本判決は、先ず、明確性要件(特許法36条6項2号)の判断基準として、「特許請求の範囲の記載のみならず,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願時における技術的常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断すべき」と判示しました。
その上で、本判決は、「…本件明細書の記載に鑑みると,本件各発明における『低い圧力』との語は,エアゾール容器のような加圧容器を用いない程度の圧力を意味するものであることは明らかである。このことと,上記『泡』ないし『発泡性』の意味を併せ考えると,『低い圧力で空気と混合されるときに発泡性』との語は,加圧容器を用いない程度の圧力で発泡性アルコール組成物と空気を混合したときに,泡沫を生成することを意味することもまた,本件明細書の記載から明らかである。したがって、本件各発明に係る特許請求の範囲の記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。」と判示し、明確性要件違反はないとしました。
充足論においても同じクレーム文言解釈を引用し、充足も認められました。
私が「数値限定発明の充足論,明確性要件」(パテント誌2018年6月号)において整理したとおり、「十分に」「略」「実質的に」等、程度を表わすクレーム文言は明確性が認められた裁判例が多く、充足論も含めて特許権者勝訴事案が多いと思われます。
そうであるとするならば、安易に数値限定を加えるよりも、程度を表わすクレーム文言を請求項1に用いた上で、数値限定は請求項2以降とすることが出願戦略上有効なのではないかと考えました。
https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/3011
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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