最高裁判決令和2年9月7日 平成31年(受)619
特許権の通常実施権者が,特許権者を被告として,特許権者の第三者に対する特許権侵害を理由とする損害賠償請求権が存在しないことの確認を求める訴えにつき,確認の利益を欠くとされた事例
⇒原審(高部裁判長)のうち本件確認請求に関する部分を破棄
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<理由>
①実際に参加人の損害に対する補償を通じて被上告人に損害が発生するか否かは不確実
②被上告人は,現実に同損害が発生したときに,上告人に対して本件実施許諾契約の債務不履行に基づく損害賠償請求訴訟を提起することができる
<最高裁判決・判旨抜粋>
本件確認請求に係る訴えは,被上告人が,第三者である参加人の上告人に対する債務の不存在の確認を求める訴えであって,被上告人自身の権利義務又は法的地位を確認の対象とするものではなく,たとえ本件確認請求を認容する判決が確定したとしても,その判決の効力は参加人と上告人との間には及ばず,上告人が参加人に対して本件損害賠償請求権を行使することは妨げられない。
そして,上告人の参加人に対する本件損害賠償請求権の行使により参加人が損害を被った場合に,被上告人が参加人に対し本件補償合意に基づきその損害を補償し,その補償額について上告人に対し本件実施許諾契約の債務不履行に基づく損害賠償請求をすることがあるとしても,実際に参加人の損害に対する補償を通じて被上告人に損害が発生するか否かは不確実であるし,被上告人は,現実に同損害が発生したときに,上告人に対して本件実施許諾契約の債務不履行に基づく損害賠償請求訴訟を提起することができるのであるから,本件損害賠償請求権が存在しない旨の確認判決を得ることが,被上告人の権利又は法的地位への危険又は不安を除去するために必要かつ適切であるということはできない。なお,上記債務不履行に基づく損害賠償請求と本件確認請求の主要事実に係る認定判断が一部重なるからといって,同損害賠償請求訴訟に先立ち,その認定判断を本件訴訟においてあらかじめしておくことが必要かつ適切であるということもできない。
以上によれば,本件確認請求に係る訴えは,確認の利益を欠くものというべきである。
<原審・知財高判平成30年(ネ)10059の説明部分>
上告人の参加人に対する本件損害賠償請求権の行使により参加人が損害を被った場合には,被上告人は,参加人に対し本件補償合意に基づきその損害を補償しなければならず,その補償額について上告人に対し本件実施許諾契約の債務不履行に基づく損害賠償請求をすることになる。この請求権の存否を導き出すに当たっては,本件損害賠償請求権の存否の判断に要する主要事実に係る認定及び法律判断と同様の認定判断が必要になるから,本件損害賠償請求権が存在しないことの確認を求めることは,被上告人の上告人に対する権利ないし法律関係を明らかにし,その不安を除去するために有効適切なものといえる。また,上告人が参加人に対し別件米国訴訟を提起し,その第1審において参加人に対して損害賠償を命ずる判決が言い渡されたこと等に照らすと,被上告人の上告人に対する上記損害賠償請求に係る権利又は法的地位について現実の不安が生じている。したがって,本件確認請求に係る訴えには確認の利益がある。
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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