大阪地判令和2年(ワ)3473【照明器具】<松阿彌>
<損害論>102条2項の推定覆滅~8割覆滅
<推定覆滅事由>
①本件意義1=外装部の変形及び破損防止は、製品として当然に担保されるべき機能及び要素である。
⇒材質、ブラケットの取付方法及び取付部分の構造の工夫等、本件発明以外の技術によっても実現可能である。
②本件意義3は、不良率低減という製造コスト削減に寄与するが、コスト削減(製品価格への反映)の程度が不明である。
③代替技術の存在~原告後継品が本件発明とは異なる技術により同様の作用効果を奏していることは、本件推定を大きな割合で覆滅させる事情である。
④競合品~原告実施品及び被告製品と価格帯も概ね同程度である。
(判旨抜粋)
本件意義1
スポットライト製品一般は、本件特許発明より相当前から市場に存在し、既に成熟した市場が形成されており(乙5、弁論の全趣旨)、市場動向調査によれば、スポットライト製品は、演色性や色温度などにおいて高い付加価値を有する製品の開発が期待されている状況にあり(乙30、3
15 1)、原告、被告、競合他社のカタログ等において、配光制御・特性、光色、レンズ設計、省エネ、製品の大きさ、軽さ、デザイン等が訴求されていることもうかがえる(甲5、6、乙15、16、25ないし29)これに対し、外装部の変形及び破損防止という本件意義1は、いわば製
品として当然に担保されるべき機能及び要素であるといえ、また、材質、20 ブラケットの取付方法及び取付部分の構造の工夫等、本件各発明以外の技術によっても実現可能であり、現に各照明器具メーカーにおいて一般に実現している効果であると考えられる。
また、原告は、平成26年以降、原告実施品と同じシリーズ名・製品名で、ブラケットを放熱部ではなく外装部に取り付け、外装部を厚肉とする25 ことで外装部の変形及び破損の防止を実現した原告後継品を販売している(弁論の全趣旨)。すなわち、本件意義1は、これを欠いても、同一シリーズ・製品として顧客に販売することが可能な程度の顧客誘引力しか有しないと評価し得る。このことは、カタログに文言上本件意義1が明示されてないとしても、商品の写真から本件意義1に係る特徴を看取できることを考慮しても同様である。
本件意義3
本件意義3は、不良率低減という製造コスト削減に寄与するものであるといえるが、本件意義3によるコスト削減(製品価格への反映)の程度が不明であること等を踏まえると、被告製品の利益に対する寄与度が大きいとは認められない。
以上のような事情を踏まえると、本件意義1及び3の顧客誘引力は限定的であり、本件意義1及び3が被告製品の売り上げに貢献する程度は低いと言わざるを得ない。
販売実績
原告が本件登録日以降原告実施品を製造しておらず、その販売方法(販路)等が相当程度限定され、その規模も極めて小さいことや、原告が原告後継品を販売しているものの、当該製品が本件各発明とは異なる技術により本件各発明と同様の作用効果を奏していることは、前記(1)で説示した特許法102条2項の推定の前提事実を欠くとまでいうことはできないものの、本件推定を大きな割合で覆滅させる事情というべきである。
競合品
本件期間中、ブラケットが外装部ではなく、放熱部を含む別の部分に取り付けられているという特徴を有する製品は、パナソニックのTOLSOシリーズ(乙25)、オーデリックのC1000シリーズ(乙27の2ないし27の4)、三菱電機のAKシリーズ、彩明シリーズ、鮮明シリーズ及びLEDスポットライトシリーズ(乙29)をはじめ、複数存在する。これらの製品は、原告実施品及び被告製品と価格帯も概ね同程度である。
以上の事情に鑑みると、被告製品には、競合品が存すると認められ、かかる競合品の存在も推定を覆滅させる事情に当たる。
以上の事情、とりわけ本件特許発明の技術的意義や実施品の販売状況を重視した上総合的に考慮すると、本件においては、被告製品の販売がなかった場合に、これに対応する需要が原告実施品ないし原告後継品に向かう蓋然性20 はむしろ低いとみるべきであって、特許法102条2項により推定された損害の8割について覆滅されるというべきである。これに反する原告及び被告の各主張はいずれも採用できない。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/850/091850_hanrei.pdf
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
本件に関するお問い合わせ先:h_takaishi☆nakapat.gr.jp(☆を@に読み換えてください。)