知財高判平成30年2月14日、平成29年(行ケ)第10121号 <森裁判長>
◆判決本文
【請求項1】 実質的に,スズ,銀,銅,ビスマス,アンチモンおよびコバルトからなるはんだ合金であって,前記はんだ合金の総量に対して,前記銀の含有割合が,2質量%以上4質量%以下であり,前記銅の含有割合が,0.3質量%以上1質量%以下であり,前記ビスマスの含有割合が,4.8質量%を超過し10質量%以下であり,前記アンチモンの含有割合が,3質量%以上10質量%以下であり,前記コバルトの含有割合が,0.001質量%以上0.3質量%以下であり,前記スズの含有割合が,残余の割合であることを特徴とする,はんだ合金。
【請求項2】 さらに,ニッケル,インジウム,ガリウム,ゲルマニウムおよびリンからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含有し,はんだ合金の総量に対して,前記元素の含有割合が,0質量%超過し1質量%以下である,請求項1に記載のはんだ合金。
(1)請求項1について
本判決は、審決と同様に、請求項1の発明(本件発明1)と主引用発明との相違点として「(相違点1)本件発明1では,任意成分として,ニッケルを0質量%超~1質量%以下の範囲で含むことを許容するものであるのに対し,引用発明1では,Ni:0.04質量%を必須成分として含有する点。」を認定して、この点が実質的な相違点でないとする原告(無効審判請求人)の主張を、「引用発明1及び4におけるニッケルは,…クラックの発生を抑制するとともに,一旦発生したクラックの伝播を抑制するという,引用発明の課題解決のために不可欠な技術的意義を有する必須の成分とされているものである。それに対して,本件発明1においては,ニッケルは任意成分にすぎない。したがって,両者の技術的意義が相違するから,相違点1及び3は実質的な相違点である。」として斥けた。
その上で、本判決は、主引用発明において「ニッケルは,クラックの発生を抑制するとともに,一旦発生したクラックの伝播を抑制する技術的意義を有し,これは,引用発明における課題である外部からの力に対して長時間耐えることに貢献するものといえる。このように引用発明1及び4において不可欠な要素であるニッケルを,任意成分とする動機付けは存在しない。」として、請求項1の発明(本件発明1)の進歩性を肯定した。
(2)請求項2について
本判決は、審決と同様に、請求項2の発明(本件発明2)と主引用発明との相違点として上掲の「相違点1」を認定しなかったため、請求項1の発明(本件発明1)に関する上記の議論がなされることがなく、進歩性が否定された。
1.問題の所在、若干の考察
(1)「必須成分」「任意成分」とは、何について「必須」「任意」かという問題
本判決は、引用発明においてニッケルが「必須成分」である理由として、「ニッケルは,…クラックの発生を抑制するとともに,一旦発生したクラックの伝播を抑制するという,引用発明の課題解決のために不可欠な技術的意義を有する必須の成分とされているものである。」と述べたうえで、「それに対して,本件発明1においては,ニッケルは任意成分にすぎない。したがって,両者の技術的意義が相違する」と判示している。すなわち、本判決は、引用発明においてニッケルが(クラックの発生・伝播抑制という)引用発明の課題を解決するために必須成分であると認定したものである。
これに対し、本判決が、本件発明1においてニッケルが任意成分であると認定したのは、「耐衝撃性に優れ,また,比較的厳しい温度サイクル条件下に曝露した場合においても,優れた耐衝撃性を維持できるはんだ合金…を提供すること」という本件発明1の課題との関係で、「任意成分としてニッケルを含有する場合には,その含有割合は,はんだ合金の総量に対して,例えば,0質量%を超過し,例えば,1.0質量%以下である。ニッケルの含有割合が上記範囲であれば,本発明の優れた効果を維持することができる。」と記載されていることに基づいており、ニッケルが(耐衝撃性の維持という)本件発明1の課題を解決するために任意成分であると認定したものである。(念のために付言しておけば、合金の分野において、「任意成分」とは、“含有していると望ましいが必須ではない成分”という意味ではなく、“含有していると望ましくないが、悪影響を与えない程度であれば許容される成分”という意味であるから、本来的に「必須成分」の単なる反義語に留まらない。)
このような本判決の論理を一般化すれば、引用発明において引用発明の課題を解決するために必須な成分について、当該成分が必須でない異なる課題を立てた発明を出願して、当該成分をクレームアップしないでこれを任意成分であると主張すれば新規性・進歩性が認められることとなってしまうのではないかという疑問がある。(これは、合金の分野に限らない問題であろうと思われる。)むしろ、クレーム(請求項1)がニッケルを0.04%含むものをカバーする以上、その限りで、(請求項2で進歩性が否定されたと同じ理由で、)進歩性が否定されるべきであると解する余地もある。
(2)公知発明と(一部)重複する特許発明の権利行使可能範囲について
本判決は、請求項1はニッケルが任意成分であるのに対し、主引用発明ではニッケルが必須成分であるところ、必須成分を任意成分に変更する動機付けがないとして、請求項1の進歩性を肯定したものである。
しかしながら、請求項1においてもニッケルは任意成分である以上、一定程度含有することは許容されており、発明の詳細な説明及びこれに対応する請求項2によれば、1質量%以下であれば合金に悪影響を及ぼさないから許容されるとされている。
これに対し、ニッケルが必須成分とする主引用発明においては、「クラックの発生を抑制するとともに,一旦発生したクラックの伝播を抑制する」という課題解決の為にニッケルが0.04質量%含まれていたというのであるから、主引用発明に含まれるニッケルの量は、請求項1が許容するニッケル含有量に含まれる。(そもそも、任意成分である以上、1質量%以下という限定自体も存在しないかもしれないが、仮に限定的に解釈しても含まれるという意味である。)
本件のように、公知発明と(一部)重複する特許発明の権利範囲・権利行使可能範囲はどのように考えればよいのであろうか?(以下に、公知発明と(一部)重複する特許発明の新規性・進歩性が肯定された裁判例、肯定され得るとした裁判例を紹介する。)
この点については、「自由技術の抗弁」で対応することを提唱する論者も散見されており、更なる議論が望まれる。(以下に、自由技術の抗弁に関する裁判例及び学説を紹介する。意匠権侵害訴訟では自由技術の抗弁が認められた裁判例があり、特許権侵害訴訟においても、一般論としては否定されておらず、各事案における当て嵌めの問題とされている。)この点は、知財高裁大合議平成28年(行ケ)第10182号「ピリミジン誘導体」事件以降引用「発明」の適格性が厳密に判断されていること、更に、知財高裁平成29年(行ケ)第10090号「医薬」事件(東和薬品v.興和)において先使用「発明」の適格性も厳密に判断されていることから、今後の自由技術の抗弁論も自由「発明」の抗弁と称され、先使用「発明」の完成及び範囲と同様に、点である公知技術(例えば、引用発明中の実施例)から自由「発明」として発明(技術的思想)を把握できる範囲まで認められると考えることも可能かもしれない。例えば、本件事案に即していえば、引用発明中の実施例ではニッケルは0.04質量%含まれていたところ、「ニッケルは,…クラックの発生を抑制するとともに,一旦発生したクラックの伝播を抑制するという,引用発明の課題解決」が為し得る範囲まで、自由「発明」の抗弁が認められるという考え方も可能である。(このように、先使用「発明」の完成及び範囲とパラレルに検討する合理性はあると思料する。)ただし、従来技術と“同一”の物については、発明性は不要であり、新規性が否定されると考える余地もある。
(3)請求項2の進歩性×、請求項1の進歩性〇という判断について
本判決は、従属項である請求項2に係る発明の進歩性が否定されにもかかわらず、逆に、独立項である請求項1に係る発明の進歩性が肯定された事例であり、一見すると有り得ない結論となっていることが注目を集めている。
本判決文中の「第4 被告の主張」を見る限りでは、被告(特許権者)は、請求項2の発明(本件発明2)と主引用発明との相違点として、上掲の「相違点1」が看過されている旨の一致点・相違点の認定誤りを主張していないようである。
すなわち、請求項2も「ニッケル,…からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含有し」と規定されている以上、ニッケルは任意成分であり(つまり、ニッケルは含まれていても含まれていなくてもよい。)、「相違点1」は、請求項2の発明(本件発明2)と主引用発明との相違点でもあるように思われる。仮にこの点が主張され、相違点として認定されていれば、請求項1と同じ帰結となったかもしれない。
仮に、請求項2が「ニッケルを,はんだ合金の総量に対して,0質量%超過し1質量%以下の割合で含有する,請求項1に記載のはんだ合金」というクレーム文言であったと仮定するならば、この問題は「『ニッケルを0質量%以上1質量%含有する』という請求項1は進歩性〇で有効であるが、『ニッケルを0質量%超過し1質量%含有する』という請求項2は進歩性×で無効である」という判決を受けて、『ニッケルを0質量%超過し1質量%含有する』イ号製品に対し、請求項1に係る特許権を権利行使できるという問題に帰着するから、後は、上記(2)の議論の帰趨次第となる。
2.従来技術と(一部)重複する特許発明の新規性・進歩性が肯定された裁判例、肯定され得るとした裁判例
(1)出願当時の技術水準で分析/解析できなかった場合は、新規性〇
・東京地裁平成15年(ワ)第19324号「分岐鎖アミノ酸含有医薬用顆粒製剤とその製造方法」事件(三村裁判長)
(判旨)「特許法が,同法29条1項…2号の『公然実施』については,不特定多数の者の前で実施をしたことにより当該発明の内容を知り得る状況となったことを要するものであり,単に当該発明の実施品が存在したというだけでは,特許取得の妨げとはならない…。」
⇒「公然実施」でないとして、新規性・進歩性〇
・東京地裁平成16年(ワ)第4339号「低周波治療器」事件(高部裁判長)
⇒通常の方法で分解し,解析しても発明を知ることができない場合は「公然実施」とならず、新規性あり。
⇒結局、進歩性×
・大阪地裁平成20年(ワ)第4754号「X線異物検査装置」
(判旨)「物の発明においては,当該物が販売された場合,通常,公然実施されたことになるが,当業者が利用可能な分析技術を用いても,当該物が特許請求の範囲に記載されている物に該当するかどうかの判断ができない場合には,公然実施されたものとは認められない…。」
(2)出願当時の技術水準では具体的構成が知られていなかった場合は、新規性〇
・平成19年(行ケ)第10378号「結晶性アジスロマイシン2水和物」事件(田中裁判長)
(判旨)「『刊行物』に『物の発明』が記載されているというためには,まず,同刊行物に当該物の発明の構成が開示されていることが必要であり,また,発明が技術的思想の創作であること(同法2条1項参照)にかんがみれば,当該物の発明の構成が開示されていることに止まらず,当該『刊行物』に接した当業者が,特別の思考を経ることなく,容易にその技術的思想を実施し得る程度に,当該発明の技術的思想が開示されていることを要する」
⇒出願当時の当業者に、内在的特性(非公知物質)の認識がなかったことから、新規性あり
・平成25年(行ケ)第10163号「帯電微粒子水による不活性化装置」(設樂裁判長)
(判旨)「本件優先日時点の当業者において,上記粒子分布を有する引用刊行物記載の帯電微粒子水がラジカルを含むものであることを認識することができたものとは認められない。」
⇒出願当時の当業者に、内在的特性(非公知物質)の認識がなかったことから、新規性あり
(3)従来技術と数値範囲の一部が重なっていたが、技術的思想の相違を理由に、新規性・進歩性ありとされた裁判例
・平成17年(行ケ)第10222号「食品包装用ストレッチフィルム」事件(佐藤裁判長)
(判旨)「仮に,…正確な追試であったとしても,乙4~8からは,せいぜい乙4や乙7の実施例に記載されたストレッチフィルムがたまたま要件Bを満たすものであるといえるだけであって,要件Bのパラメータとストレッチ包装における特性との関連性及び要件Bを達成するための具体的な手段が,本件出願前に知られていたことにはならない。」
⇒出願当時の当業者が内在的特性(パラメータ)の認識がなかったことから、進歩性あり
・東京高裁平成6年(行ケ)第30号
(判旨)「引用例1 に記載のニッケル-鉄合金素材も炭素含有量が0.01%以下のものであるから,本願発明の合金素材と同様に,早いエッチング速度を示し,結果として,製品の加工部の直線性や真円度が損なわれず,アラビが解消されるという作用効果を奏するものと認められるが,上記作用効果は,引用例1 に開示又は示唆されているものではない。進歩性の判断において問題となるのは,合金素材中の炭素含有量と上記作用効果との関連性が周知あるいは公知の事項として知られていたか否かということであって,この点が知られていなければ,炭素含有量をどの程度に設定すべきであるかということの着想が得られないはずであり,単に構成や作用効果の点で差異がないからといって,進歩性の議論が入り込む余地がないとはいえ…ない。」⇒刊行物記載の発明は炭素含有量0.009%に設定するに当たり本願発明の作用効果を意図したことは開示も示唆も無いから、新規性・進歩性〇
・東京高裁平成6年(行ケ)第267号
(判旨)「本件発明と引用例記載の発明のパルス状電気信号の正部分の持続時間は,1 ミリ秒の点で一致していると認められる。…
仮骨生成段階である第1 段階を対象とする本願発明のものと一致するパルス状電気信号の正部分の持続時間を有するとして審決が引用したモード1 は,カルシウム成分の沈殿による仮骨から真正の骨への移行過程である第2 段階を対象とするものであり,本願発明のように仮骨の形成を目的とするものではない。したがって,引用例に持続時間を0.2 ミリ秒~ 1 ミリ秒とすることが記載されていること,及び,この記載に基づいてパルス状電気信号の正の部分の持続時間の最適条件を見いだすことは当業者が通常行うことであることを根拠とする相違点1 についての審決の判断には誤りがあると認められる。」
⇒引用例と適用される場面が相違するから技術的意義が異なる。⇒新規性・進歩性〇
・平成22年(行ケ)第10269号「土壌の無害化処理方法」事件(中野裁判長)
(判旨)「…本願発明における土壌に対する鉄粉の添加量は,甲1発明から算出される値と(下限が)一部重なることから,少なくとも当該重複部分については当業者が容易に想到可能なものである…」
⇒数値の一部が従来技術と重複しても、当然に新規性×ではない。
(4)従来技術と構成の一部が重なっていたが、拡大先願違反とならなかった裁判例
・平成25年(行ケ)第10291号「固体農薬組成物」事件(清水裁判長)
(判旨)「本願発明において,液体溶媒に分散された固体農薬活性成分が繊維作物の破断物の内部空隙まで浸透せずに表面に結着して存在する場合,生成物同士を比較すると,本願発明と拡大先願発明との間で固体農薬活性成分の存在形態に違いがない以上,両者を区別することはできない。…このように,本願発明と拡大先願発明の固体農薬組成物に重なり合う部分があることは否定できないが,本願発明の請求項に「液体の農薬活性成分」又は「農薬活性成分を液体溶媒に溶解もしくは分散させた液状物」を「含有」するという記載がある以上,拡大先願発明との対比においてこの点を無視することはできないのであって,拡大先願発明がこの点を具備しない以上,相違点と認めざるを得ない。」
(5)公然実施「発明」が完成したと言えるために、反復可能性が必要とした裁判例
・東京地裁平成24年(ワ)第11800号(高野裁判長)
(判旨)「特許法2条1項の「発明」は,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいうから,当業者が創作された技術内容を反復実施することにより同一の結果を得られること,すなわち,反復可能性のあることが必要である(最高裁平成10年(行ツ)第19号…)。被告は…先行発明の技術的範囲に属する28本の先行製品を製造したのであって,先行発明には反復可能性があるから,被告が…先行発明を完成させていた…。」
(6)副引用「発明」も、「刊行物の記載から抽出し得る具体的な技術的思想でなければならない。」(知財高裁大合議判決)
・知財高裁(大合議)平成28年(行ケ)第10182号「ピリミジン誘導体」事件<清水裁判長>
(判旨)「進歩性の判断に際し,本願発明と対比すべき同条1項各号所定の発明(以下『主引用発明』といい,後記『副引用発明』と併せて『引用発明』という。)は,通常,本願発明と技術分野が関連し,当該技術分野における当業者が検討対象とする範囲内のものから選択されるところ,同条1項3号の『刊行物に記載された発明』については,当業者が,出願時の技術水準に基づいて本願発明を容易に発明をすることができたかどうかを判断する基礎となるべきものであるから,当該刊行物の記載から抽出し得る具体的な技術的思想でなければならない。」
(7)引用文献の実施例を追試して構造の同一性を示しても、出願当時に認識できたことまで裏付けていなければ、新規性を否定できない。
・平成29年(行ケ)第10041号「熱間プレス部材」事件(高部裁判長)
(判旨)「原告は,Zn-Niめっき鋼板に熱間プレスを施した場合,Ni拡散領域,γ相,ZnO層が,下から上にこの順番で形成され,そのような表面構造を有するめっき部材が本件発明1の自然浸漬電位を有することは,…甲2による引用発明の再現実験により,確かにこの表面構造が生成することが確認されている旨主張する。しかし,…甲2の記載は,あくまで,原告が本件各発明を認識した上で本件特許の優先日後に行った実験の結果を示すものであり,本件特許の優先日時点において,当業者が,引用発明の鋼板表面の皮膜状態の構造が上記のとおりであることを認識できたことを裏付けるものとはいえない。」
(8)先使用医薬が発明の数値範囲に偶々入っていたとしても、当該パラメータを制御する技術思想がなかったことから、先使用「発明」を否定して、先使用権不成立とした裁判例。⇒主副引用「発明」、公然実施「発明」の認定に影響を及ぼし得る、実務上重要な裁判例。
・知財高裁平成29年(ネ)第10090号「医薬」事件(東和薬品v.興和)(高部裁判長)
(判旨)「控訴人が先使用権を有するといえるためには,サンプル薬に具現された技術的思想が本件発明2と同じ内容の発明でなければならない。…仮に,本件2mg錠剤のサンプル薬又は本件4mg錠剤のサンプル薬の水分含量が1.5~2.9質量%の範囲内にあったとしても,…控訴人は,本件出願日前に本件2mg錠剤のサンプル薬及び本件4mg錠剤のサンプル薬を製造するに当たり,サンプル薬の水分含量を1.5~2.9質量%の範囲内又はこれに包含される範囲内となるように管理していたとも,1.5~2.9質量%の範囲内における一定の数値となるように管理していたとも認めることはできない。…。」
3.自由技術の抗弁に関する裁判例及び学説
(1)裁判例
(中国では、広東省高級人民法院2010年10月28日は、被告の「現有技術抗弁」を認めた。)
大阪地判昭和45年4月17日「金属編籠事件」第一審は自由技術の抗弁を認めて差止請求を棄却したが、第二審の大阪高判昭和51年2月10日は、自由技術の抗弁を否定した。
東京地判平成2年11月28日「イオン歯ブラシ事件」(平成1年(ワ)4033)は、自由技術の抗弁は特許法の予定する制度趣旨に反するとして、内容の判断に入らずに、同抗弁を否定した。
東京地判平成9年4月25日「ゴム紐意匠事件」(平成5年(ワ)17437)は、「…意匠登録を無効とする審判の請求ができることとは別に,自己の実施している意匠が当該登録意匠との関係での公知意匠と同一あるいは実質的に同一であることを主張,立証して,当該登録意匠の範囲に含まれないという意味での請求権不発生の抗弁(これを名付けるならば「出願前公知意匠の抗弁」と呼ぶことができよう。)とすることができるものと解するのが相当である。即ち,前記の通り,意匠法3条1項は登録意匠の範囲には当該登録意匠との関係での公知意匠及び公知意匠に類似する意匠は含まれないことをも規定したものと解釈することができ,これに意匠権の効力が登録意匠及びこれに類似する意匠に及ぶとの趣旨の意匠法23条の規定を併せ考えても,登録意匠の意匠権の効力は,少なくとも当該登録意匠との関係での公知意匠には及ばないというのが意匠法の条文の趣旨と解されるばかりでなく,実質的に考えても,公知意匠の存在によって無効事由があるのにこれを看過して登録された意匠権に基づいて当該公知意匠と同一の意匠の実施の差止請求等の請求を容認するのは,ものの道理に合わないからである。」として、意匠権侵害訴訟において、自由技術の抗弁を認めた。
⇒控訴審である東京高判平成10年3月25日(平成9年(ネ)2248)も同旨。
東京地判平成13年12月21日「帯鋼の巻取装置事件」(平成12年(ワ)第6714号)は、「被告の自由技術の抗弁は,その主張において失当であるか否かはさておいて,被告製品の構成と乙9の構成とは異なるので,被告の主張は理由がない。すなわち,公知技術である乙9には,厚物ストリップの巻取りに際して,巻込側にトップ・マークの発生を伴わずに巻取る方法に関する,コイル巻取方法が開示され,その『特許請求の範囲』には,『複数のラッパ・ロールの圧接位置を単独にもしくはグループごとに調整可能に設け,ストリップのトップを巻付けたマンドレルが回転するとき回転周期の複数箇所においてストリップのトップが通過する時点を電気的に検出すること,ストリップのトップが巻付けられている部位の到来に対応する配置にあるラッパ・ロールの押付け位置を前記検出信号の指令によって巻取ストリップの厚み分だけ単独にもしくはグループごとに後退させること,を特徴とするコイル巻取方法。』と記載され,『発明の詳細な説明』…には,ラッパ・ロールをストリップの厚みだけ後退させることが記載されている。乙9の発明は,巻取るストリップにトップ・マークが発生することを防止するために,ラッパロールを段差と同じ距離だけ移動させるものであるのに対して,被告製品は,段差寸法より大きな距離を移動させる構成を採用している点において相違する。被告は,乙9の発明は,段差以上にも後退させ得ると主張するが,乙9には,ストリップの厚みだけを後退させ,それによって,「コイルの巻取厚の増加に対応したラッパ・ロールの取付け位置が自動的に提供されるから,コイルの巻取表面に対するロールの押付け力は,段差部,非段差部を問わず一定となり,トップ・マークの発生が防止できる」と明記されており(…),段差以上に後退させることまでも想定したものでないから,被告主張は理由がない。したがって,被告製品は,出願前公知である乙9の公開特許公報記載の発明と同一であるということはできず,この点の被告の主張は理由がない。」と判示して、“自由技術”の範囲の認定という文脈で、公知文献に記載された発明の範囲を検討したうえで、同事案においては否定した。(飯村裁判長)
大阪地判平成19年4月19日「ゴーグル事件」(平成17年(ワ)12207)は、「被告は…いわゆる公知技術の抗弁(自由技術の抗弁)を主張するものとも解される。そして,そもそもかかる抗弁が許容されるか否かはともかくとして,本件特許発明5が公知技術と対比して新規でかつ進歩性を有する発明であることは,前記10で判示したとおりであり,被告製品がこのように新規でかつ進歩性を有する本件特許発明5の構成要件をすべて具備する以上,同特許発明の技術的範囲に属するものというべきである。」と判示して、進歩性を有することを理由に、自由技術の抗弁を排斥した。(田中俊次裁判長)
⇒東京地判平成13年9月20日平成12年(ワ)第20503号同旨(三村裁判長)
知財高判平成25年8月9日「液体インク収納容器事件」(平成24年(ネ)10093)は、「自由技術の抗弁を特許権侵害訴訟における抗弁として認めることができるかどうかはともかくとして,同抗弁を主張する者は,少なくとも本件訂正発明1の全ての構成要件に対応する構成を備えた製品が本件特許の出願日において既に存在していたことを主張立証する必要があるところ(…),控訴人の上記主張は,控訴人各製品につき,本件訂正発明1の構成要件を考慮することなく,控訴人主張控訴人各製品構成のとおりに特定することを前提とするものであること,及び,本件特許の出願日における公知技術から極めて容易に推考できたものであるとの主張も含むものであり,そもそも自由技術の抗弁の主張とはいえず,主張自体失当であり,本件特許権の直接侵害又は間接侵害が成立しない旨の抗弁としてはこれを採用することはできない。」として、“自由技術の抗弁”を主張するために、特許発明の全ての構成要件に対応する構成を備えた製品が本件特許の出願日において既に存在していた必要があると判示した。(設樂裁判長)
⇒「本件訂正発明1の全ての構成要件に対応する構成を備えた製品が本件特許の出願日において既に存在していたことを主張立証」すれば、inherentの構成要件に係る“認識”までは要求されないのか?
(2)学説
●古城弁護士の論文(「特許侵害訴訟と公知技術-自由技術の抗弁再考-」(日本工業所有権法学会第29号, 2005年)は、特に参考になる。
⇒「自由技術の抗弁の範囲」は、A:公知技術と同一、B:公知技術と近似、C:公知技術から推考容易の3通りが考えられる。(Bは拡大先願の範囲、Cは進歩性否定の範囲)
⇒Bの範囲までは許容されるべきであるが、Cの範囲まで広げることは慎重な検討を要する。
⇒Bの範囲とは、例えば、以下のような場合などを挙げることができる。
①公知文献にある技術思想が記載されていて、対象物件はこれを具現化した一実施態様と評価される場合、
②公知文献にある技術思想又は実施態様が記載されており、対象物件はその要素の一部を変更しているが、その違いが特許出願時の当業者を基準に考えたときに単なる設計変更、単なる材料置換、好適な数値範囲の選択、構成要素の均等物置換等と評価できる程度のものである場合
③公知文献に特許出願時における周知技術や慣用技術を適用したにすぎない場合
●「侵害訴訟における無効の抗弁と自由技術の抗弁」(牧野和彦、知財管理Vol.58 No.4, 2008年)
⇒自由技術の抗弁で問題とすべき「公知技術」とは、ある程度幅をもった「概念」として把握すべきか、侵害訴訟における対象物件のように具体的な構成からなるいわば「点」として把握すべきかについては、「点」と捉えるべきである。また、選択発明に新規性・進歩性が認められる場合であれば、対象物件に対する侵害を認めないわけにはいかない。
上記古城論文と同じく「自由技術の抗弁の範囲」はABCの立場があり、Bの立場が多数説と思われ、著者の私見としてもBの範囲と考えている。公知技術と同一の場合には、これが侵害となるのであれば、必ず当該特許発明は新規性を欠如しているはずである。
(牧野弁護士が、inherentの“認識”の問題をどのように考えているかは不明である。)
●「空権容認説(新自由技術除外説)について」(佐藤富徳、パテントVol.55 No.3, 2002年)
⇒イ号発明が自由技術と均等技術であれば、非侵害となる。先使用権等の法定通常実施権の効力範囲に均等論を認めるかどうかの議論に通じる。
●「特許法104条の3の現状と今後の運用に関する私見」(小池豊、パテントVol.63 No.8, 2010年)
⇒ボールスプライン最高裁判決は、要するに、出願時に公知又は公知技術から容易に推考することができるような物件については技術的範囲に入れることができないと述べたものであり、そうであれば、最高裁は「自由技術の抗弁」を認めている。
取消事由1(判断手法の誤り)について
イ 以上より,引用発明は,次のとおりのものと認められる。
引用発明の課題は,低温が-40℃,高温が125℃というような厳しい温度サイクル特性に長期間耐えられるだけではなく,縁石への乗り上げや前の車との衝突などで発生する外部からの力に対しても長期間耐えることが可能なはんだ合金及びそのはんだ合金を使用した車載電子回路装置を開発することである(【0008】~【0011】)。
上記の課題を解決するために,引用発明の発明者は,長期間の温度サイクル後の外部からの力に耐えるには,Sn相に固溶する元素を添加して固溶強化型の合金を作ることが有効なこと,固溶析出型の合金を作るにはSbが最適な元素であること,さらにSnマトリックス中のSbの添加は微細なSnSb金属間化合物が形成され,析出分散強化の効果を現わすことを見いだした(【0012】)。そして,はんだ合金中のSbは,原子配列の格子に入り込み,Snと置換することで原子配列の格子を歪ませてSnマトリックスを強化することで,温度サイクルを向上させる効果も有しているところ,はんだ合金に添加されるSb量が少なすぎると,Snマトリックス中にSbが分散する形態が現れず,固溶強化の効果も現れないが,反対に,Sb量が多すぎると,高温時にSbが再溶融しないので,SnSb金属間化合物の粗大化が進み,はんだ中にクラックが伝播することを抑制できない(【0016】~【0020】,【0022】,【0027】)。はんだ合金にNiを添加することで,はんだ付け界面付近に発生する金属間化合物層の金属間化合物を微細化して,クラックの発生を抑制するとともに,一旦発生したクラックの伝播を抑制する(【0023】,【0024】)。はんだ合金中のAgは,はんだのぬれ性向上効果とはんだマトリックス中にAg3Snの金属間化合物のネットワーク状の化合物を析出させて,析出分散強化型の合金を作り,温度サイクル特性の向上を図る効果が発揮される(【0025】)。はんだ合金中のCuは,Cuランドに対するCu食われ防止効果とはんだマトリックス中に微細なCu6Sn5の化合物を析出させて温度サイクル特性を向上させる効果がある(【0026】)。はんだ中にBiが入っていると,BiがSbと置き換わるので,さらに温度サイクル特性を向上させることができる(【0027】)。はんだ合金中のCo又はFeは,Niの効果を高めることができる(【0028】)。
以上のような個々の金属の特性等を考慮して,引用発明の発明者は,Ag,Cu,Sb,Ni及びSnを必須の要素とするはんだ合金,及び,さらに,Bi,Co又はFeを含むはんだ合金を発明した。
ウ 証拠(乙2~4)及び弁論の全趣旨によると,合金は,組成,含有比率及び温度によってその相(液相か固相か)や結晶構造が異なり,成分となる金属の数が増えれば,さらに含有比率及び温度による状態の変化は複雑となること,合金を構成する元素が同じであっても配合量が異なることにより,金属組織が異なり,性質が異なること,合金は,その性質及び特性の基礎となる金属組織の形成の予測性が低く,効果の予測性が低い技術分野に該当することが認められる。これらのことからすると,合金は,「所定の含有量を有する合金元素の組合せが一体のものとして技術的意義を有するであって,所与の特性が得られる組合せについては,実施例に示された実際に作製された具体的な合金組成を考慮して初めて理解できる」という技術常識があると認めることができる。
エ 引用文献の記載及び前記ウの技術常識からすると,引用文献における温度サイクル試験での3000サイクル後のクラック発生率とシェア強度残存率を測定した結果,引用発明の効果が現れたと認められる実施例のうち,本件発明1に最も近似している,実施例45及び46,並びに実施例42及び43から引用発明を認定すべきである。
したがって,引用発明は,前記第2の3(2)のとおりに認定される。
オ 原告の主張について
原告は,引用発明1及び4に代えて,引用文献の請求項3に記載されたものを原告引用発明1と認定すべきと主張する。
しかし,上記ウの「所定の含有量を有する合金元素の組合せが一体のものとして技術的意義を有するのであって,所与の特性が得られる組合せについては実際に作製された合金組成を考慮して初めて理解できる」という合金の技術常識に照らすと,原告の上記主張を採用することはできない。
(2) 対比
ア 本件発明1と引用発明1及び4とを対比すると,前記第2の3(3)ア(ア)及び同(4)ア(ア)のとおりの一致点及び相違点を認定することができる。
イ 原告の主張について
(ア) 原告は,本件発明1と原告引用発明1とは,いずれもニッケルを含有している点で実質的に相違するものではない,と主張する。
しかし,引用発明1及び4におけるニッケルは,前記(1)イのとおり,クラックの発生を抑制するとともに,一旦発生したクラックの伝播を抑制するという,引用発明の課題解決のために不可欠な技術的意義を有する必須の成分とされているものである。それに対して,本件発明1においては,ニッケルは任意成分にすぎない。したがって,両者の技術的意義が相違するから,相違点1及び3は実質的な相違点である。
(イ) 原告は,審決の引用発明1及び4の認定が誤っているから,相違点2及び4は存在しない,と主張する。
しかし,前記(1)のとおり,審決の引用発明1及び4の認定に誤りはなく,原告の主張はその前提を欠き,失当である。
(3) 相違点の判断
ア 相違点1及び3について
引用発明1及び4において,ニッケルは,クラックの発生を抑制するとともに,一旦発生したクラックの伝播を抑制する技術的意義を有し,これは,引用発明における課題である外部からの力に対して長時間耐えることに貢献するものといえる。このように引用発明1及び4において不可欠な要素であるニッケルを,任意成分とする動機付けは存在しない。
したがって,引用発明1及び4のニッケルを任意成分として,相違点1及び3に係る構成を備えることは,当業者が容易に想到し得るものではない。
イ よって,その余の点を判断するまでもなく,本件発明1は,引用発明1及び4から容易に想到し得るものではない。
(4) 以上のとおり,取消事由1には,理由がない。
3 取消事由2~8について
(1) 引用発明2,3,5及び6の認定
ア 前記2(1)によると,引用文献には,前記第2の3(2)のとおりの,引用発明2,3,5及び6が記載されているものと認められる。
イ 原告の主張について
原告は,引用発明2,3,5及び6に代えて,引用文献の請求項3に記載されたものに対応するものを原告引用発明2及び3と認定すべき,と主張する。
しかし,前記2(1)オで判示したところと同様に,原告の上記主張を採用することはできない。
(2) 対比
ア 本件発明2~8と,引用発明1~3を対比すると,少なくとも,前記第2の3(3)ア(ア)の相違点2(ただし,本件発明4については,ビスマスの含有割合は,4.8質量%を超過し7質量%以下である)において相違する。
本件発明2~8と,引用発明4~6を対比すると,少なくとも,前記第2の3(4)ア(ア)の相違点4(ただし,本件発明6については,コバルトの含有割合は,0.003質量%以上0.01質量%以下である)において相違する。
イ 原告の主張について
原告は,相違点2及び4に対応する相違点は存在しない,と主張するが,その前提とする引用発明の認定に誤りがあるから,失当である。
(3) 相違点の判断
ア 相違点2について
引用文献の【0027】には,はんだ合金に,Biを添加することで,さらに温度サイクル特性を向上させることができ,添加するBiの量は,1.5~5.5質量%が好ましいことが記載されている。したがって,引用発明1~3のビスマスの量を,上記好ましい量の範囲内である,4.8質量%を超過し,5.5質量%までの範囲とする動機付けがあるといえる。
そして,本件発明2~8においてビスマスの含有割合が所定の範囲内であることの効果は,「優れた耐衝撃性を得ることができ,また,比較的厳しい温度サイクル条件下に曝露した場合においても,優れた耐衝撃性を維持することができる」(本件明細書【0031】)ことにある。引用発明1~3においてビスマスの含有割合を上記好ましい範囲内とすることの効果は,温度サイクル特性を向上させること(引用文献【0027】)であるが,ここにいう温度サイクル特性とは,「-40℃から+125℃の温度サイクル試験を3000サイクル近く繰り返しても,微量なはんだ量のはんだ接合部にもクラックが発生せず,また,クラックが発生した場合においても,クラックがはんだ中を伝播することを抑制」する(引用文献【0021】)という性質である。温度サイクル試験後のはんだ接合部にクラックが発生せず,クラックが発生してもその伝播を抑制する効果が高まれば,厳しい温度サイクル条件下の耐衝撃性も高まるものといえる。そして,厳しい温度サイクル条件下の耐衝撃性が高ければ,そのような厳しい条件下にない場合の耐衝撃性も高いことが予想される。
したがって,本件発明2~8におけるビスマスの含有割合を所定の範囲内とすることの上記効果は,引用発明1~3のビスマスの量を4.8質量%を超過し,5.5質量%までの範囲とする上記効果と比較して,格別顕著な効果であるとはいえない。
以上より,引用発明1~3において,Bi:3.2質量%の数値を,相違点2に係る,「4.8質量%を超過し,5.5質量%まで」の範囲の本件発明2~8の構成とすることは,当業者が容易になし得たものである。
イ 相違点4について
引用文献の【0028】には,はんだ合金に,Coを添加することで,Niの効果を高めることができ,添加する量は,0.001~0.1質量%が好ましいことが記載されている。したがって,引用発明4~6にコバルトを添加し,その量を0.001質量%~0.1質量%とする動機付けがあるといえる。
本件発明2~8においてコバルトの含有割合が所定の範囲内であることの効果は,「優れた耐衝撃性を得ることができ,また,比較的厳しい温度サイクル条件下に曝露した場合においても,優れた耐衝撃性を維持することができる」(本件明細書【0037】)ことにある。そして,引用発明4~6においてコバルトの含有割合を上記好ましい範囲内とすることの効果は,Niの効果を高めること,すなわち,はんだ付け界面付近に発生する金属間化合物層の金属管化合物を微細化して,クラックの発生を抑制するとともに,一旦発生したクラックの伝播を抑制する働きをする(引用文献【0024】,【0028】)という効果を高めることである。クラックの発生を抑制し,一旦発生したクラックの伝播を抑制すれば,耐衝撃性がより優れ,これが維持されるといえる。したがって,本件発明2~8におけるコバルトの含有割合が所定の範囲内であることの効果は,引用発明4~6においてコバルトを添加し,その含有割合を0.001質量%~0.1質量%とすることの効果と比較して,格別顕著なものであるとはいえない。
以上より,引用発明4~6にコバルトを添加し,その量を0.001質量%~0.1質量%として,相違点4に係る,「コバルトの含有割合が,0.001質量%以上0.1質量%以下(本件発明6については0.003質量%以上0.01質量%以下)」の本件発明2~8の構成とすることは,当業者が容易になし得たものである。
ウ 被告の主張について
被告は,本件発明2~8と,引用発明1~6との間には,ビスマスの含有量又はコバルトの含有量について明確な相違点があり,これを容易想到とする理由はない,と主張する。
しかし,前記ア及びイのとおり,引用発明1~3において相違点2に係る構成を採用すること,及び引用発明4~6において相違点4に係る構成を採用することの動機付けがあり,本件発明2~8のビスマスの含有量及びコバルトの含有量について格別顕著な効果があるともいえないから,引用発明1~6に相違点2及び4の構成を採用することは,容易想到である。
(4) したがって,取消事由2~8には,理由がある。
原告(無効審判請求人):千住金属工業株式会社
被告(特許権者):ハリマ化成株式会社
(Keywords)千住、ハリマ、はんだ、合金、従属項、独立項、進歩性、ニッケル、必須成分、任意成分、クラック、公知技術、公知発明、自由技術、数値限定
執筆:高石秀樹(弁護士・弁理士)(特許ニュース平成30年12月10日の原稿を追記・修正したものです。)
監修:吉田和彦(弁護士・弁理士)
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