(今回紹介する改正による変更点の概要)
改正後(新設) | |
定型約款の変更 | 【実体要件】 以下のいずれかに当てはまる場合 ①定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき ②定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき 【手続要件】 【効果】 |
定型約款に関する経過措置 | 書面による反対の意思表示がない限り、原則として、改正法の規定が、改正法施行日前に締結された契約にも遡及する。 |
(定型約款に関する改正事項②)
今回は、定型約款に関する改正の第2回として、定型約款の変更及び、定型約款に関する経過措置を取り扱う。例えば利用規約等において、策定後、その内容を修正する必要が生じる場面は決して少なくないため、いかなる場合に、利用者の同意なく、利用者との間の契約条件を変更後の定型約款により変更することができるか否かは、実務上重要な問題といえよう。また、既存の定型約款に対して、いついかなる条件で、改正民法の定型約款の規定が適用されることになるかといった経過措置についても、重要なポイントの1つといえよう。以下、それぞれについて紹介する。
(定型約款の変更)
新設された条文
548条の4(定型約款の変更)(新設) |
1 定型約款準備者は、次に掲げる場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。
① 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。 ② 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。 2 定型約款準備者は、前項の規定による定型約款の変更をするときは、その効力発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない。 3 第1項第2号の規定による定型約款の変更は、前項の効力発生時期が到来するまでに同項の規定による周知をしなければ、その効力を生じない。 4 第548条の2第2項の規定は、第1項の規定による定型約款の変更については、適用しない。 |
(1)制度趣旨
そこで、改正後548条の4は、一定の要件の下で、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができるものとしている。
(2)制度内容
②定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき
のいずれかに該当することである。
いかなる変更であればこの要件に該当するか、という点については、例えば、継続的に一定のサービスを有料で提供する契約において、顧客である相手方が支払義務を負う金額を減額するケースや、定型約款準備者が提供するサービス内容を相手方に負担を課さない形で拡充するケースなどがこの要件を充足するものと考えられている。
イ 要件②について―「定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ…(中略)…合理的なものであるとき」―
要件①の場合と異なり、相手方の利益にならない場合であっても、相手方の同意なく変更できる場合として、上記の要件②がある。
(ア)変更が契約の目的に反しないこと
(イ)変更内容の合理性
が考慮要素として挙げられている。
変更の必要性については、定型約款準備者において、なぜ定型約款を変更する必要性が生じたのか、という事情も考慮されるのみならず、変更にあたって個別の同意を得ることが困難である事情も考慮されると考えられている。
また、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無について、かかる条項が定型約款内に設けられていることを変更の絶対条件とするものではないが、かかる条項の存在が変更内容の合理性を肯定する方向で考慮される以上、「の条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定め」は定型約款内に設けておくべきであろう。
さらに、「その他の変更に係る事情」としては、変更によって相手方が受ける不利益の程度や性質、このような不利益を軽減させる措置(例:変更後の契約内容に拘束されることを望まない相手方に対して契約の解除権を付与する措置等)の有無などが考慮されるとされている。
ウ 不当条項規制(改正後548条の2第2項)の不適用
上記のとおり、定型約款の変更には、上記①及び②の実体要件が課されることとなり、不当条項規制(改正後548条の2第2項)よりも厳格な要件により変更の可否が判断される。そのため、定型約款の変更には不当条項規制が適用されないこととされた(積極的に不当条項を入れることを容認する趣旨ではない。)。
(経過措置)
新設された条文
附則33条(定型約款に関する経過措置) |
1 新法第548条の2から第548条の4までの規定は、施行日前に締結された定型取引(新法第548条の2第1項に規定する定型取引をいう。)に係る契約についても、適用する。ただし、旧法の規定によって生じた効力を妨げない。
2 前項の規定は、同項に規定する契約の当事者の一方(契約又は法律の規定により解除権を現に行使することができる者を除く。)により反対の意思の表示が書面でされた場合(その内容を記録した電磁的記録によってされた場合を含む。)には、適用しない。 3 前項に規定する反対の意思の表示は、施行日前にしなければならない。 |
定型約款に関する規定が改正前民法に存在しないことも踏まえ、定型約款に関する規定は、他の規定に関する経過措置よりもその適用範囲を拡張し、改正前民法下で締結された定型約款についても、全体としてこれを適用することを原則とした(附則33条1項本文)。他方、法的安定性が害されないように、改正前民法の下で生じた効力は妨げないことも明記された(同項ただし書)。
もっとも、改正民法全体の施行日の前日である2020年3月31日までに、反対の意思表示を書面にてした場合(その内容を記録した電磁的記録によってされた場合を含む。)には、施行日前に締結された定型取引について、改正後民法の定型約款に係る規定(548条の2~548条の4)は適用されないものとされている。
(Keywords)定型約款、変更、利用規約、定型取引、経過措置、民法改正
※本稿の内容は、一般的な情報を提供するものであり、法律上の助言を含みません。
文責:山本 飛翔(弁護士/第二東京弁護士会所属)
本件に関するお問い合わせ先:mailto:t_yamamoto@nakapat.gr.jp