知財高判令和7年7月31日(令和6年(ネ)第10007号)(中平健裁判長)
【事案の概要】
亡小説家笹沢左保(B)は、「紋次郎」という名の渡世人を主人公とする「木枯し紋次郎」シリーズの連載小説(本件小説)を執筆した。そして、本件小説を原作とする漫画、テレビドラマ及び映画が制作された。亡Bの死後、本件小説の著作権は、亡Bの妻である原告Aが相続した。そして、原告会社(X会社)は、原告Aから亡Bの著作物の独占的利用の許諾を受けた。被告会社(Y会社)は、食品の製造販売等を業とする株式会社である。
本件は、Y会社が商品名「紋次郎いか」等のいか乾製品(Y商品)の外装(ラベル又は外袋)に下記のY図柄を付して製造販売したこと及びY商品の画像をウェブサイトに掲載したことが、本件小説、本件小説を原作とする漫画、テレビドラマ(本件テレビ作品)又は映画に係る著作権(複製権又は翻案権、公衆送信権及び譲渡権)、X会社の独占的利用許諾を受けた地位を侵害するとともに、Y図柄を付してY商品を製造販売することは、不正競争防止法(不競法)2条1項1号又は2号の不正競争に当たるとして、著作権法112条1項、2項又は不競法3条1項、2項に基づくY商品の製造販売等の差止め及び廃棄の請求、不法行為又は不競法4条本文に基づく損害賠償請求がされた事案である。

【判決要旨】
1.権利の帰属
(1)本件小説につき、亡著作者Bは、著作権を有し、亡B死後は、相続により亡Aが著作権を取得し、亡A死後は、相続により控訴人X2、X3及びX4が著作権を取得する。
(2)本件小説を原著作物とする二次的著作物である本件テレビ作品につき、原著作物である本件小説の亡著作者Bは、本件テレビ作品の著作者が有する著作権(複製権又は翻案権、譲渡権、公衆送信権)と併存して、同著作権と同一の種類の著作権(複製権又は翻案権、譲渡権、公衆送信権)を専有し(著作権法28条、最高裁平成12年(受)第798号同13年10月25日第一小法廷判決・集民203号285頁)、亡B死後は、相続により亡Aが同著作権を取得し、亡A死後は、相続により控訴人X2、X3及びX4が同著作権を取得する。
2.依拠
Y会社は、自社のウェブサイト中のウェブページに、「紋次郎いかの由来」として、昭和47年当時テレビで流行っていた木枯し紋次郎がくわえていた長い楊枝を串に見立てたことによる旨を記載しており、この事実によれば、「紋次郎いか」の名称が本件テレビ作品の主人公である紋次郎に由来することが認められるとともに、Y図柄が本件テレビ作品に依拠して作成されたものであると推認される。
3.複製又は翻案の成否
(1)本件テレビ作品における下記の本件画像の紋次郎は、本件テレビ作品の紋次郎の画像を具体的に示すものであるから、本件画像をY図柄と対比することにより、本件テレビ作品の紋次郎の画像とY図柄の対比が明らかにされるものと認められる。そして、本件テレビ作品が本件小説の二次的著作物であることからすれば、このような本件テレビ作品の紋次郎の画像は、本件小説の二次的著作物であると認められる。

(2)そして、本件画像の紋次郎は、①通常のテレビドラマや映画等で用いられるものよりも大きな三度笠をかぶり、②通常のテレビドラマや映画等で用いられるものよりも長く、模様が縦縞模様である道中合羽を身に着け、③細長い楊枝をくわえ、④長脇差を携えているという特徴をすべて兼ね備える者として表現されている。ここで、本件テレビ作品の放映や本件小説の執筆の前に同①ないし④の表現上の特徴の全てを兼ね備える人物が登場するドラマ、映画等や小説が存在したとは、認められない。そのため、同①ないし④の表現上の特徴をすべて兼ね備えるという点は、本件画像の創作的な表現をなす部分であり、表現上の本質な特徴をなすものと認められる。
(3)他方、Y図柄は、人物の特徴を誇張して手で描かれた絵であり、俳優を実写した本件画像とは表現の方法が異なり、本件画像と比較して、手書きの絵であることによる新たな創作性が加えられた別の著作物であるから、本件画像や本件テレビ作品の紋次郎の画像の複製には当たらない。
(4)もっとも、Y図柄の人物は、三度笠をかぶっており、その三度笠は大きなものである。Y図柄の三度笠は、人物の顔の大きさと比べたとき、本件画像の紋次郎のかぶる三度笠よりも更に大きなものであるが、これは、三度笠が大きいものであるという前記①の特徴をY図柄において強調して表現したことによるものであって、前記①の特徴を感得することを妨げることはなく、むしろ容易にするものといえる。そのため、Y図柄から本件画像の前記①の表現上の特徴を直接感得できるものと認められる。
また、Y図柄の人物は、道中合羽を身に着けており、その道中合羽は縦縞模様で長いものである。Y図柄の道中合羽は、人物の身長と比べたとき、本件画像の紋次郎が身に着けている道中合羽よりも更に長いものであるが、これは、道中合羽が長いという前記②の特徴をY図柄において強調して表現したことによるものであって、前記②の特徴を感得することを妨げることはなく、むしろ容易にするものといえる。また、本件画像の人物が身に着ける道中合羽は、縞が細いのに対し、Y図柄の人物が身に着ける道中合羽は、それよりも縞が太く表されているが、これも、道中合羽が縦縞模様であるという前記②の特徴の一部をY図柄において強調して表現したことによるものであって、前記②の特徴を感得することを妨げることはなく、むしろ容易にするものといえる。そのため、Y図柄から本件画像の前記②の表現上の特徴を直接感得できるものと認められる。
さらに、本件画像の紋次郎は、細長い楊枝をくわえているのに対し、Y図柄の人物は、細長い棒状のものをくわえているが、それが楊枝であることは、一見しては明らかでないともいえる。しかし、口にくわえている細長い棒状のものが楊枝であることは容易に推測されるから、それが楊枝であることが一見しては明らかでないとしても、その点は、前記③の特徴を感得することを妨げるものとはいえない。そのため、Y図柄から本件画像の前記③の表現上の特徴を直接感得できるものと認められる。
また、Y図柄の人物も、本件画像の紋次郎も、長脇差を携えているから、Y図柄から本件画像の前記④の表現上の特徴を直接感得できるものと認められる。
(5)したがって、Y図柄から、本件画像の創作的な表現をなす部分であり、表現上の本質な特徴をなすものと認められる、前記①ないし④の表現上の特徴をすべて感得し得るものと認められる。
(6)そして、本件画像は、本件テレビ作品の紋次郎の画像を具体的に示すものであり、本件画像をY図柄と対比することにより、本件テレビ作品の紋次郎の画像とY図柄の対比が明らかにされるから、Y図柄から、本件テレビ作品の紋次郎の画像の創作的な表現をなす部分であり、表現上の本質な特徴をなすものと認められる、前記①ないし④の表現上の特徴をすべて感得し得るものと認められる。
(7)以上によれば、Y図柄は、本件テレビ作品の紋次郎の画像に依拠し、その画像の表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的な表現に変更を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現したものであり、Y図柄に接する者が本件テレビ作品の紋次郎の画像に係る表現上の本質的な特徴を直接感得することができるといえるから、本件テレビ作品の紋次郎の画像の翻案であると認められる。
4 著作権侵害等の有無
Y会社は、Y商品の外装(ラベル又は外袋)にY図柄を付して製造したこと及びY商品の画像をウェブサイトに掲載したことにより、本件テレビ作品についての翻案権及び公衆送信権を侵害したものと認められる。他方、譲渡権は、著作物を原作品又は複製物の譲渡により公衆に提供する権利であるから、著作物を翻案したものの譲渡によって譲渡権が侵害されたとは認められない。なお、X会社は、Y会社による同著作権侵害により、その独占的利用許諾を受けた地位が侵害されたものと認められる。
【コメント】
1.判決要旨1(2)について
判決要旨1(2)は、二次的著作物である連載漫画の原著作物である小説形式の物語原稿の原著作者が、連載漫画ひいては連載漫画における主人公が登場するコマ絵及び表紙絵のみならず連載漫画の主人公に係る新たな書下ろし原画についても、著作権法28条に基づき、連載漫画の著作者が有する権利と同一の種類の権利を専有し、両権利が併存することになる旨を判示したキャンディ・キャンディ事件最判平成13年10月25日判時1767号115頁によるものである。
2.判決要旨2について
判決要旨2は、Y会社のウェブサイトにおけるY商品の商品由来説明及びY商品の商品名「紋次郎いか」それ自体からY図柄が本件テレビ作品に依拠して作成されたものであると推認するところ、かかる明白な依拠の推認は、判決要旨3における複製又は翻案の成否に係る実際上の判断に大きく影響を与えたであろうと推測される。
3.判決要旨3について
(1)判決要旨3(1)について
原審において、原告は、本件小説における①通常より大きい三度笠を目深にかぶり、②通常よりも長い引き回しの道中合羽で身を包み、③口に長い竹の楊枝をくわえ、④長脇差を携えた渡世人という記述を被侵害著作物として特定・主張した。しかしながら、「一定の名称、容貌、役割等の特徴を有する登場人物が反復して描かれている一話完結形式の連載漫画においては、当該登場人物が描かれた各回の漫画それぞれが著作物に当たり、具体的な漫画を離れ、右登場人物のいわゆるキャラクターをもって著作物ということはできない。けだし、キャラクターといわれるものは、漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものということができないからである」と判示したポパイネクタイ事件最判平成9年7月17日民集51巻6号2714頁の下で、原判決により、「著作権者は、一話完結形式の連載小説に係る著作権侵害を主張する場合、その連載小説中のどの回の文章表現に係る著作権が侵害されたのかを具体的に特定する必要がある」にもかかわらず、「Xらの特定論に係る主張を前提とすれば、Xらは、本件書籍において著作権が侵害されたという著作物を具体的に特定しないものとして、その主張自体失当というほかな」いと判示された。かかる原判決の判示は、ポパイネクタイ事件最判の調査官解説(三村量一・最判解説民事篇平成9年度(中)943頁)に沿うものである。
他方、控訴審において、被侵害著作物は、キャンディ・キャンディ事件最判による判決要旨1(2)の下で、原審のような本件小説における紋次郎に係る言語的記述ではなく、本件小説を原著作物とする二次的著作物である本件テレビ作品における紋次郎に係る視覚的画像と特定され、特に、判決要旨3(1)の通り、直接的には本件テレビ作品における紋次郎に係る本件画像により特定されつつも、究極的には本件テレビ作品における本件画像の紋次郎に具体的に示される紋次郎の画像一般と特定され、このように特定された本件テレビ作品における紋次郎の画像一般がY図柄における複製又は翻案の成否の審理判断の対象とされたものと理解される。
(2)判決要旨3(2)について
さらに、判決要旨3(2)は、原審において原告が被侵害著作物として特定・主張した本件小説における紋次郎に係る言語的記述と殆ど変わらない、本件テレビ作品における紋次郎の画像一般に共通する、本件画像の紋次郎における①通常のテレビドラマや映画等で用いられるものよりも大きな三度笠をかぶり、②通常のテレビドラマや映画等で用いられるものよりも長く、模様が縦縞模様である道中合羽を身に着け、③細長い楊枝をくわえ、④長脇差を携えているという特徴をすべて兼ね備える者としての視覚的表現について、本件テレビ作品の放映や本件小説の執筆の前に同①ないし④の表現上の特徴の全てを兼ね備える人物が登場するドラマ、映画等や小説が存在したと認められないことにより、本件画像の創作的な表現をなす部分であり、表現上の本質な特徴をなすものと認めたものである。
この点、原判決と異なり、判決要旨3(1)及び(2)は、キャラクターの視覚的表現ではあるものの、言語的表現と実質同旨のものについて、複数の作品・表現に共通するものとして個別的・具体的表現から一般化・抽象化された創作的な表現要素・特徴を被侵害著作物として特定することを肯認したものと評価することができ、「キャラクター」自体の著作物性を否定するポパイネクタイ事件最判の下で、なお著作権法による創作的なキャラクター表現の実質的な保護に道を開こうとするものと評価することができる。この点に関連し、ポパイネクタイ事件最判後も、学説上、イラスト・絵柄・図柄・画像等ではない、人物像としての創作的なキャラクター表現の著作物性を肯認する見解がなお有力である(上野達弘「キャラクターの法的保護」パテント69巻4号(2016年)50頁、池村聡「今、考える『“キャラクター”と著作権』コピライト58巻687号(2018年)」38~39頁、松田俊治「新時代におけるキャラクターの法的保護」コピライト62巻742号(2023年)15頁等)。
もっとも、判決要旨3(2)が上記①ないし④のみをもって本件画像の紋次郎における表現上の本質な特徴をなすものと認めた点それ自体については、これをありふれたものとして傍論おいて否定した原判決と同様に、異論が有り得よう。
(3)判決要旨3(3)について
判決要旨3(3)は、Y図柄が本件テレビ作品における紋次郎に係る本件画像ひいては紋次郎の画像一般を複製したものであることを否定したものであり、相当である。
(4)判決要旨3(4)~(7)について
判決要旨3(4)~(7)は、恐らく判決要旨2における明白な依拠の推認に実際上大きな影響を受けつつ、判決要旨3(2)を前提に、「翻案(著作権法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう」と判示した江差追分事件最判平成13年6月28日民集55巻4号837頁に沿って、Y図柄が本件テレビ作品における紋次郎に係る本件画像ひいては紋次郎の画像一般を翻案したものであることを肯定したものであり、判決要旨2に鑑み、また、判決要旨3(2)を前提とすれば、相当である。
一方、判決要旨3(2)に異論があるとすれば、原判決と同様に、「既存の著作物に依拠して創作された著作物が、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、翻案には当たらない」とも判示した江差追分事件最判の下で、翻案を否定することも考えられよう。
4.著作権法28条の趣旨及び解釈適用と著作権法による創作的なキャラクター表現の保護
「キャラクター」自体の著作物性を否定するポパイネクタイ事件最判の下で、なお本判決のように著作権法により創作的なキャラクター表現を実質的に保護するための法律構成として、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利について規定する著作権法28条の解釈適用の如何が注目される。ここで、キャンディ・キャンディ事件最判や同最判による本判決においては、著作権法28条の趣旨自体は、直接的・明示的に判示されていない。もっとも、著作権法28条の適用によりキャンディ・キャンディ事件最判や同最判による本判決においてキャラクターの絵柄・図柄等の利用について当該キャラクターが登場する小説形式の物語原稿・小説等に係る原著作者の権利の侵害が肯定されたことは、創作的表現を保護する著作権法の原則との関係において、その例外と位置付けるよりも、寧ろ実質的に正当化されるべきものである。そうであるとすれば、かかる侵害の肯定により、著作権法28条の趣旨及び解釈として、原著作物である小説形式の物語原稿・小説等における人物像としての創作的なキャラクター表現に係る著作物としての保護が実質的に肯認されたものと理解することも不可能ではないように思われる。
5.判決要旨4について
二次的著作物の利用に関する原著作者の権利について規定する著作権法28条を介した著作権法21~27条の適用により、裁判例及び学説上、一般には、判決要旨4とは異なり、Y図柄の制作により「翻案」権(著作権法27条)侵害が、Y図柄を付したY商品の外装(ラベル又は外袋)の製造により「複製」権(同法21条)侵害が、Y図柄を付した外装(ラベル又は外袋)のY商品の販売により「譲渡」権(同法26条の2第1項)侵害が、また、ウェブサイトへの同Y商品の画像の掲載により「公衆送信」権(同法23条1項)侵害が、それぞれ肯認され得るのではないかと考えられる。
【Keywords】木枯し紋次郎、紋次郎いか、キャラクター、言語的表現、視覚的表現、ポパイネクタイ事件最判、著作権法28条、キャンディ・キャンディ事件最判
※本稿の内容は、一般的な情報を提供するものであり、法律上の助言を含みません
文責:弁護士・弁理士 飯田 圭(第二東京弁護士会)
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