NAKAMURA & PARTNERS
アクセス
  • MESSAGE
  • 事務所紹介
  • 業務内容
  • 弁護士・弁理士
  • 執筆・講演情報
  • 法情報提供
  • 採用情報
  • ご挨拶
  • 事務所紹介
  • 業務内容
  • 弁護士・弁理士
  • 執筆・講演情報
  • 法情報提供
  • 採用情報

法情報提供

  • 全カテゴリ
  • 特許
  • 特許 (Links)
  • 商標
  • 商標 (Links)
  • 意匠
  • 意匠 (Links)
  • 著作権
  • 著作権 (Links)
  • 知財一般
  • 知財一般 (Links)
  • 法律
  • 外国 (Links)
■

【不正競争防止法★】被控訴人(一審被告:Y)が型番EH-NA0Gのヘアードライヤー(Y商品)の広告において「高浸透ナノイーで髪へのうるおい1.9倍」、「水分発生量従来の18倍」、「ヘアカラーの色落ちを抑えます」、「摩擦ダメージを抑制」等の表示(Y各表示)をする行為は不正競争防止法2条1項20号の品質誤認表示に当たらないと判断し、控訴人(一審原告:X)の控訴を棄却した事例

2025年08月14日

知財高判令和7年2月19日(令和5年(ネ)第10061号)(中平健裁判長)

 

◆判決本文

 

【判決要旨】

1.不正競争防止法2条1項20号の品質誤認表示該当性の判断枠組について
(1)ある者の表示行為が不正競争防止法2条1項20号の品質誤認表示に当たると主張し、同法に基づく損害賠償請求又は差止めを求める訴訟が提起された場合、当該表示行為が品質誤認表示であることの主張立証責任は、訴訟を提起したXにあると解すべきである。しかし、本件のように、当該表示が、需要者に具体的な試験等に基づくものとの認識を抱かせる場合には、当該表示を裏付ける資料等を欠くならば、当該表示行為は品質誤認表示に当たると解されるから、当該表示行為をしたYが、当該表示を裏付ける資料等を提出しなければ、Xによる品質誤認表示の主張立証が成功したと解される余地がある。しかし、本件では、Yが実験結果報告書等を提出し、Xが提訴時検証試験及び控訴時検証試験の結果を提出しているので、これらを参酌して、Y各表示が品質誤認表示に当たると認められるかを検討する。

(2)Y各表示は、Yのウェブページ及びカタログに掲載され、一般消費者に対し、Y商品を使用することによってもたらされる効果を示し、その購買意欲を促すことを目的とするものであるが、Y各表示に示される効果は、使用者が視認できない機能によるものであり、効果の度合いは、その測定方法が一義的に決められているものではなく、使用環境、使用方法、個人差などの条件によっても大きく異なり得るものであり、効果には個人差がある旨の注意書きも付されているところであって、このようなY各表示を見た一般消費者は、具体的な数値や実験結果については、効果の程度やその裏付けとなる科学的根拠の存在を示すものとして理解するにとどまり、それが厳密に正確なものであるかという点についてはそれほど高い関心を有しないものと考えられる。このようなY各表示の内容、性格等に照らせば、Y各表示の記載内容について、厳密な正確性が認められなければ直ちに品質誤認表示に当たると判断されるものではなく、Y各表示が相当の科学的根拠に基づくことが認められる場合には、品質誤認表示に当たるとは認められない。
 

2.Y各表示の品質誤認表示該当性について
(1)Yが提出した実験結果報告書等によれば、Yは、その社内で作成した業務手順書に基づき、Y各表示に関して実験を行い、これに基づいて実験結果検証資料を作成したことが認められる。そして、YがY各表示について実施した個々の試験に係る実験結果報告書等の記載の具体的内容からすれば、Y各表示は、いずれも、業務手順書に基づいてYが実施した試験の結果の範囲内で、Y商品の性能又はY商品による効果を表示したものであるということができる。

(2)他方、Xが行った提訴時検証試験及び控訴時検証試験の結果は、いずれも、Yが実施した試験がY各表示の裏付けとならないことを示すに足りるものとはいえず、Y各表示が品質誤認表示であることを認めるに足りるものとも解されない。

(3)Y各表示の中には、Y商品の前に発売された機種(前機種)の広告における表示を流用した記載や写真が存在するが、その表示内容が一般の消費者を基準としてY商品の品質を誤認させるものでなければ、不正競争防止法2条1項20号の品質誤認表示には当たらないものであり、前機種の広告表示と同一の内容である、あるいは同一の内容を含むものであることの一事をもって、品質誤認表示に当たるということはできない。

 

【コメント】

1.不正競争防止法2条1項20号の品質誤認表示該当性の判断枠組について

従前の裁判例には、ろうそくに係る「油煙90%カット!」、「消しにおい50%カット!」等の表示が、然るべき通常の使用状態における実験の結果に裏付けられていない場合に、「通常の使用状態ですすの量が90%減少しておらず、消しにおいが50%減少していないにもかかわらず、そのようにすすの量及び消しにおいが減少しているように誤認させるから」、品質誤認表示に該当すると判断したものがある(大阪高判平成17年4月28日(平16(ネ)2208号)裁判所ウェブサイト是認の大阪地判平成16年6月1日(平14(ワ)8337号)裁判所ウェブサイト〔ろうそく品質誤認表示事件〕)。

また、景品表示法による不実証広告の規制においては、優良誤認表示を効果的に規制するため、表示業者に表示内容が優良誤認表示に当たらないことの立証責任を負わせている。すなわち、消費者庁長官は、優良誤認表示に該当するか否かを判断する必要がある場合には、期間を定めて、事業者に表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができ、事業者が求められた資料を期間内に提出しない場合や、提出資料が表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものと認められない場合には、当該表示は、措置命令との関係では不当表示とみなされ(景品表示法7条2項)、課徴金納付命令との関係では不当表示と推定される(景品表示法8条3項)。そして、提出資料が表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものと認められるためには、提出資料が客観的に実証された内容のものであること及び表示された効果・性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応していることが必要とされる(不実証広告規制に関する指針)。

上記判決要旨1(1)は、不正競争防止法2条1項20号の品質誤認表示該当性の主張立証責任が原告にあると解されることを前提に、このような品質誤認表示該当性に係る従前の裁判例や景品表示法による不実証広告の規制内容とも可及的に整合的な判断枠組を示したものと理解される。

また、従前の裁判例には、自動車用コーティング剤に係る「新車購入時の施工により、自動車の塗装面にテフロン被膜が形成され、その後5年間、新車時の塗装の輝きが維持されるものであること」を示した本件各表示について、「被控訴人が援用する前記の各耐候性試験の結果に依拠して、被告商品には新車時の塗装面の光沢度を5年間持続する効果がないとまで的確に認定することはできないといわざるを得ない。そして、本件各表示における『新車の輝き』が持続しているかどうかということ自体が、多分に見る者の主観によるところが大きく、ある程度の幅を持つものであることをも考え併せると、本件全証拠をもってしても、未だ本件各表示における『新車時の塗装の輝きが5年間維持される』との表示が虚偽であり、その表示が需要者等に被告商品の品質及び内容を誤認させるものであると認めることはできない」と判断したものがある(知財高判平成17年8月10日(平17(ネ)10029号等)裁判所ウェブサイト〔5年間完全ノーワックス事件〕)。

上記判決要旨1(2)は、このような従前の裁判例と可及的に整合的な判断枠組を示したものと理解される。
 

2.Y各表示の品質誤認表示該当性について
上記判決要旨2は、上記判決要旨1の判断枠組の下で、Y提出の実験結果報告書等とX提出の提訴時検証試験及び控訴時検証試験の結果を参酌して、Y各表示の品質誤認表示該当性を否定したものである。この点、上記判決要旨1の判断枠組の下で、上記判決要旨2のように判断する場合には、被告の提出資料が相応に実証された内容のものであり、被告により表示された効果等が被告の提出資料によって相応に実証された内容と相応に対応している限り、原告の提出資料の如何に関わらず、当該表示の品質誤認表示該当性は否定され易く、また否定されることが多くなるのではないかと思われる。よって、当事者間の攻防も、原告の提出資料の如何よりは、寧ろ、被告の提出資料が相応に実証された内容のものであるか否か、及び、被告により表示された効果等が被告の提出資料によって相応に実証された内容と相応に対応しているか否か、を中心とすることになるのではないかと思われる。

 

【判決の抜粋】

1.不正競争防止法2条1項20号の品質誤認表示該当性の判断枠組について
「不競法2条1項20号によれば、商品の広告に用いる書類又は通信にその商品の品質について誤認させるような表示をすること(品質誤認表示)は、不正競争に当たる。ある者の表示行為が不競法2条1項20号の品質誤認表示に当たると主張し、不競法に基づく損害賠償請求又は差止めを求める訴訟が提起された場合、当該表示行為が品質誤認表示であることの主張立証責任は、訴訟を10 提起した一審原告にあると解すべきである。しかし、当該表示が、需要者に具体的な試験等に基づくものとの認識を抱かせる場合には、当該表示を裏付ける資料等を欠くならば、当該表示行為は品質誤認表示に当たると解されるから、当該表示行為をした者(一審被告)が、当該表示を裏付ける資料等を提出しなければ、一審原告による品質誤認表示の主張立証が成功したと解される余地がある。本件についてみると、被控訴人各表示は、需要者に具体的な試験等に基づくものとの認識を抱かせるものと認められるから、被控訴人各表示をした被控訴人(一審被告)が、被控訴人各表示を裏付ける資料等を提出しなければ、被控訴人各表示は品質誤認表示に当たると解される余地がある。しかし、本件口頭弁論終結時までに、被控訴人は、被控訴人各表示が試験の結果に基づくものであって品質誤認表示ではないことを裏付けるために乙57添付の実験結果報告書等を提出しており、控訴人は、被控訴人各表示が品質誤認表示であることを裏付けるものとして、提訴時検証試験及び控訴時検証試験の結果等を提出しているので、これらを参酌して、被控訴人各表示が品質誤認表示に当たると認められるかについて検討する。

ところで、被控訴人各表示は、被控訴人ウェブページ及びカタログに掲載され、一般消費者に対し、被控訴人商品を使用することによってもたらされる効果を示し、その購買意欲を促すことを目的とするものであるが、被控訴人各表示に示される効果は、使用者が視認できない高浸透ナノイーによる毛髪に対するものであり、その性質上、効果の度合いは、その測定方法が一義的に決められているものではなく、使用環境、使用方法、個人差などの条件によっても大きく異なり得るものであり、効果には個人差がある旨の注意書きも付されているところである。そうすると、このような被控訴人各表示を見た一般消費者は、これらに示された効果について関心を有するとしても、具体的な数値や実験結果については、効果の程度やその裏付けとなる科学的根拠の存在を示すものとして理解するにとどまり、それが厳密に正確なものであるかという点についてはそれほど高い関心を有しないものと考えられる。このような被控訴人各表示の内容、性格等に照らすならば、被控訴人各表示の記載内容について、厳密な正確性が認められなければ直ちに被控訴人各表示が品質誤認表示に当たると判断されるものではなく、被控訴人各表示が相当の科学的根拠に基づくことが認められる場合には、品質誤認表示に当たるとは認められないこととなる。」
 

2. Y各表示の品質誤認表示該当性について
(1) Y表示1
「被控訴人は、被控訴人の作成していた毛髪水分増加量評価についての業務手順書に基づいて被控訴人試験1を実施したことが認められ、実際の被控訴人試験1について、その手順が業務手順書の内容から外れたものであったとは認められず、試験の内容が合理性を欠くとも認められない。
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● この結果と、被控訴人表示1とを比較すると、「高浸透ナノイーで髪へのうるおい、1.9倍」との記載は、試験の結果に沿ったものであるといえる。
被控訴人表示1-2に含まれる棒グラフは、前機種の広告表示を用いたものであり(前記3⑴ア(ア))、EH-NA9Eの水分増加量が0.136、被控訴人商品の毛髪水分増加量が0.263と記載されており、被控訴人試験1の結果として測定されたEH-NA9E、被控訴人商品の水分増加量と異なっている。しかし、被控訴人表示1は、EH-NA9Eを用いた場合の毛髪の水分増加量に比べ、被控訴人商品を用いた場合の毛髪の水分増加量が1.9倍となったという増加の割合の表示が最も重要な内容であるといえ、上記のとおりこの増加率の数値は被控訴人試験1に沿ったものであるから、被控訴人表示1が、被控訴人商品について、実際には得られない効果があると一般消費者に誤認させるものとはいえず、被控訴人商品の機能・性能について誤認を与えるものであるともいえない。

したがって、被控訴人表示1は、業務手順書に基づいて被控訴人が実施した被控訴人試験1の結果の範囲内で、被控訴人商品による効果を表示したものであるということができる。」

「提訴時検証試験1は、ドライヤーの風を2分間(120秒間)毛髪に当てており、控訴時検証試験1は、ドライヤーの風を1.5分間(90秒間)毛髪に当てている。

乙43に記載されたKF法を用いた試験の結果によれば、濡らした毛髪にドライヤーの風を当てて乾燥させると、約70秒で濡らす前の毛髪水分量になるとされている。この試験の結果からすると、提訴時検証試験1及び控訴時検証試験1は、いずれも、毛髪の水分量が、試験のために毛髪を濡らす前の水分量に戻った後もドライヤーの風を当て続けた可能性があるといえ、そのような提訴時検証試験1及び控訴時検証試験1において、毛髪の水分量が少ないとの結果が出たとしても、この結果をもって、被控訴人商品により髪を乾かした場合の毛髪水分増加量が被控訴人表示1の示す数値よりも少ないとか、被控訴人商品の毛髪水分増加量をEH-NA9Eの場合と比較した場合の増加率が被控訴人表示1の示す数値よりも少ないと解すべきことにはならない。

したがって、提訴時検証試験1及び控訴時検証試験1は、被控訴人試験1が被控訴人表示1の裏付けとならないことを示すに足りるものとはいえず、被控訴人表示1が品質誤認表示であることを認めるに足りるものとも解されない。」

(2)Y表示2
「被控訴人は、被控訴人の作成していたナノイー水分量評価方法に関する業務手順書に基づいて被控訴人試験2を実施したことが認められ、実際の被控訴人試験2について、その手順が業務手順書の内容から外れたものであったとは認められない。また、業務手順書の記載内容からすると、● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●

そして、前記アのとおり、被控訴人試験2の結果、従来ナノイーと比較して高浸透ナノイーは発生した粒子数が大幅に増加し、水分発生量が18倍以上であると結論付けられた。

被控訴人表示2の内容は、被控訴人試験2の上記結果に沿ったものであるといえ、被控訴人表示2は、業務手順書に基づいて被控訴人が実施した被控訴人試験2の結果の範囲内で、被控訴人商品の性能を表示したものであるということができる。」

「提訴時検証試験2及び控訴時検証試験2に用いられたシリカゲルが吸水した水分は、ドライヤーのイオン口(ナノイーデバイス)から放出された水分(ナノイー)以外に、系内の空気中の水分もあるといえる。前記のとおり、試験においては、ドライヤーとフィルムとが貼り付けられているが、完全に密閉されたものではない上、ドライヤーから送風を行

うことにより、イオン口からも系外の空気が系内に流入すると認められ、この流入した空気に含まれる水分も、シリカゲルが吸水した水分に含まれる。このことは、提訴時検証試験2及び控訴時検証試験2のいずれにおいても変わらないといえる。

そして、被控訴人商品とEH-NA9Eの両方において、シリカゲルがナノイー以外の水分を吸水することによる影響を無視することはできない。すなわち、両方の系のシリカゲルが吸水した水分のうち、空気中の水分がその一定の割合を占めるとすれば、EH-NA9Eと被控訴人商品を比較した場合の被控訴人商品のナノイーとしての水分放出量の増加の割合に比べて、提訴時検証試験2及び控訴時検証試験2におけるシリカゲルの吸水量の増加の割合は小さいことになるからである。

以上の事情によれば、提訴時検証試験2及び控訴時検証試験2は、被控訴人試験2が被控訴人表示2の裏付けとならないことを示すに足りるものとはいえず、被控訴人表示2が品質誤認表示であることを認めるに足りるものとも解されない。」

(3)Y表示3
「a 前記アのとおり、被控訴人は、被控訴人の作成していたカラー退色評価(ヘアドライヤー)に関する業務手順書に基づいて被控訴人試験3を実施したことが認められ、実際の被控訴人試験3について、その手順が業務手順書の内容から外れたものであったとは認められない。また、業務手順書の記載内容からすると、被控訴人試験3は、通常の被控訴人商品と、高浸透ナノイーが吹き出されないようにする処理を施された被控訴人商品とを用い、白髪染めでのカラーリングを施した白髪の毛束に対して洗髪と乾燥の処理を繰り返し行い、色差計を用い て色差を測定したものと認められ、このような試験の内容に不合理な点は認められない。

そして、被控訴人試験3において、被控訴人商品は、イオン無しドライヤー、すなわち高浸透ナノイーが吹き出されない被控訴人商品に対して、有意に退色が抑制されるとの結果が出たことが認められる。このことは、洗髪及び乾燥処理を複数回実施した場合の色差の変化を示すグラフ(乙57の別紙2「高浸透『ナノイー』&ミネラルによるカラーリング退色抑制効果検証」(乙57の30頁))からも読み取ることができる。」

「b 前機種の広告表示を流用したことによって被控訴人表示3が品質誤認表示となるかにつき検討すると、前記ア並びに前記第2の2⑶ウ、第3の3⑴ア(ウ)によれば、被控訴人表示3-3に含まれるグラフは、前機種の広告表示において使用されていたグラフを、機種名の部分を除いてそのまま用いたものであると認められる。そして、上記アによれば、前機種の広告表示において使用されていたグラフは、前機種について行ったカラー退色評価の試験の結果を基に作成されたものであるところ、前機種について行ったカラー退色評価の試験では、白髪でない毛髪に対し、白髪染めでない剤を用いてカラーリングを施したものが用いられており、この点で被控訴人試験3と異なっている。

しかし、被控訴人試験3の結果として作成された色差の変化を示すグラフ(乙57の別紙2「高浸透『ナノイー』&ミネラルによるカラーリング退色抑制効果検証」乙57の30頁)と、前機種に関する試験の結果として作成された色差の変化を示すグラフ(乙57の別紙2「高浸透『ナノイー』&ミネラルによるカラー退色抑制効果検証」(乙57の35頁))を比較すると、いずれもイオン無しドライヤーに対して有意に退色が抑制されるとの結果が示されており、前機種の結果の方が色差(退色)が小さいことはない。上記両試験は、カラーリングに用いられた剤が、白髪染めであるか(被控訴人試験3)、白髪染めでないヘアカラー剤であるか(前機種に関する試験)の違いがあるが、いずれも毛髪を染色する剤であることは共通しており、かつ、いずれの試験もイオン無しドライヤーの場合の色差も示されており、イオン無しドライヤーにおける退色の程度が、白髪染めと白髪染めでないヘアカラー剤とで大きく異なるとは認められない。

そうすると、被控訴人試験3における、被控訴人商品のイオン無しドライヤーに対する退色抑制の程度は、前機種に関する試験における、前機種のイオン無しドライヤーに対する退色抑制の程度と、少なくとも同程度であったと認めることができる。

そして、被控訴人表示3-3のグラフは、縦軸に0から2までの数値が0.5刻みで記載され、「ヘアカラーした毛髪色の変化(色差)」との文言が記載され、数値が小さくなるにつれて色が抜けにくい、大きくなるにつれて色が抜けやすい旨の表記も存在するが、被控訴人表示3には、色差をどのように測定したのか、及び上記グラフの数値がどのような意味を有するかについての説明はない。また、当該広告表示を見る一般消費者は、色差の測定や算出の方法を知らず、関心も有していない者がほとんどであると考えられる。これらの事情によれば、上記各文言や表記とともに被控訴人表示3-3のグラフを見た一般の

消費者は、グラフの縦軸の数値を、ヘアカラーの色が抜ける程度を示すものとして捉え、被控訴人商品の方がイオン無しドライヤーよりも色が相当程度抜けにくいとの印象をもち、洗髪・乾燥処理回数ごとの色差の厳密な数値には関心をもたないと解される。これらの事情によれば、被控訴人試験3において測定された色差(⊿E)と、被控訴人表示3-3のグラフの数値が異なることをもって、被控訴人表示3が品質誤認表示であるとは認められない。したがって、被控訴人表示3-3に含まれるグラフが、前機種の広告表示において使用されていたグラフを、機種名の部分を除いてそのまま用いたものであることによって、被控訴人表示3が品質誤認表示に当たることにはならない。」

「c 上記a及びbによれば、被控訴人表示3の内容は、被控訴人試験3の結果に沿ったものであるといえ、被控訴人表示3は、業務手順書に基づいて被控訴人が実施した被控訴人試験3の結果の範囲内で、被控訴人商品の性能を表示したものであるということができる。」

「a 提訴時検証試験3については、「対照組」としてEH-ND2Bが使用されているところ、このドライヤーは被控訴人商品と風量は異なるが、そのことをもって検証試験として合理性を欠くとはいえない。

しかし、被控訴人表示3は、高浸透ナノイー搭載のドライヤーにヘアカラーの退色抑制効果があることを示すものであって、毛髪色のグラフが一例であることは「カラー剤や個人差で効果は異なります。」との記載から理解されるものといえる。また、提訴時検証試験3で用いられたカラーリング剤は、我が国では販売されていない赤色の染毛剤であって(乙25、26、27の1~3、弁論の全趣旨)、かつ、毛髪にも個人差があることも考慮すれば、提訴時検証試験3において、被控訴人表示3と同等の差異が生じなかったからといって、直ちに被控訴人表示3が品質誤認を生じさせる表示であるとはいえない」。

「b 控訴時検証試験3については、イオン無しドライヤーとしてイオン吹出口をマスキングテープで塞いだ被控訴人商品が用いられているが、イオン吹出口をマスキングテープで塞いだ場合、ドライヤーの内部の機構により作られた高浸透ナノイーが、髪を乾燥させるための風の吹出口から放出されると考えられ、高浸透ナノイーが放出されない状態が形成されていなかったといえる。そうすると、控訴時検証試験3は、被控訴人表示3の検証試験とはならず、控訴時検証試験3の結果をもって、被控訴人表示3が品質誤認表示に当たると認めることはできない。」

「c 上記a及びbによれば、提訴時検証試験3及び控訴時検証試験3は、被控訴人試験3が被控訴人表示3の裏付けとならないことを認めるに足りるものとはいえず、被控訴人表示3が品質誤認表示であることを認めるに足りるものとも解されない。」

(4)Y表示4及び5
「a 前記アのとおり、被控訴人は、被控訴人の作成していた枝毛発生率評価に関する業務手順書に基づいて被控訴人試験4を実施したことが認められ、実際の被控訴人試験4について、その手順が業務手順書の内容から外れたものであったとは認められない。また、業務手順書の記載内容からすると、被控訴人試験4は、毛髪を洗浄し、被控訴人商品と、高浸透ナノイーを発生しないように処理をした被控訴人商品とを用いて、各ドライヤーで1毛束あたり90秒乾燥させ、各毛束を専用コームで1000回ブラッシングし、SEMを用いて撮影を行い、枝毛の本数を数えて枝毛発生率を算出したものと認められ、このよう な試験の内容に不合理な点は認められない。
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
被控訴人表示4には、「高浸透ナノイー&ミネラル」の場合の毛髪先端部(毛先)の拡大写真とされる画像と、「イオン無し」の場合の毛髪先端部の拡大写真とされる画像が掲載されており、比較画像として用いられているといえるが、これらの画像は、EH-NA9Aを用いて行われた実験の際に撮影されたものであり(前記3⑴ア(エ))、被控訴人試験4の際に撮影された写真ではない。この点で、被控訴人表示4は、前機種の広告表示を流用しているといえる。

しかし、これらの画像は、傷みがなく枝毛が発生していない毛髪であることを示す写真と、毛髪の先端部(毛先)が傷んで枝毛が発生した毛髪であることを示す写真であり、上記業務手順書における手順に従った場合に、被控訴人商品を用いた場合におけるダメージ度合いが中心値の毛髪が、傷みがなく枝毛が発生していない毛髪であり、イオン無しのドライヤー(高浸透ナノイーを発生しないように処理した被控訴人商品)を用いた場合におけるダメージ度合いが中心値の毛髪が、先端部が傷んで枝毛が発生している毛髪であったとすれば、被控訴人表示4の各画像が被控訴人試験4の際に撮影された写真でないとしても、これらの画像の使用が品質誤認表示に当たるものではないと解される。

そして、従来ナノイーを発生するにとどまるEH-NA9Aを用いた場合に、ダメージ度合いが中心値のものについて枝毛が発生していないとするならば、高浸透ナノイーを発生する被控訴人商品を用いた場合に、ダメージ度合いが中心値のものについて枝毛が発生していないとしても不自然ではなく、これらの画像が、被控訴人商品が実際に有する以上の性能を有することを示しているとも認められない

したがって、被控訴人表示4に含まれる画像が、被控訴人試験4の際に撮影された写真でないことをもって、被控訴人試験4が品質誤認表示に当たることにはならない。
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●被控訴人表示5-2に示されたグラフは、前機種の広告表示であり(前記3⑴ア(エ))、被控訴人表示5-2は、前機種の広告表示を流用しているといえる。
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●被控訴人表示5-2は、前機種の広告表示として既に表示されているグラフを用いていることから、被控訴人商品が少なくとも前機種と同等の性能を有していることを示しているものと認められ、被控訴人商品を用いた試験で測定された数値よりも性能が低いことを意味する数値を表示していることからすれば、実際には有していない性能を有していると誤認させて一般消費者に商品の購入を促すようなこともない。したがって、被控訴人表示5-2が不競法2条1項20号の品質誤認表示に当たるとは認められない。」

「d 被控訴人表示5は、一定の期間、上記棒グラフの右側に、「【試験方法】」として、「ブリーチ処理した毛束の洗髪、ドライヤー乾燥、コーミングを繰り返し実施。60回洗髪ごとにブリーチ処理し、180回まで実施。」との内容を含む記載が存在しており、その後削除された(前記第2の2⑶オ)。上記記載内容は、実際に被控訴人試験4として行われた試験内容と異なる内容であったが、上記記載があったことにより、枝毛発生率がイオン無しドライヤーよりも低下するという被控訴人商品の性能について、被控訴人表示5を見た一般消費者に対して誤認を与えたものとは認められない。」

「a 提訴時検証試験4及び5は、ダメージを受けたアジア人の髪を得るとの目的で、健康な髪の毛を60回洗浄・乾燥させ、ブリーチ処理を行い、この過程を3回繰り返し、合計180回の洗浄・乾燥と、3回のブリーチ処理を行った毛髪を試験に利用している。この手法は、当初被控訴人表示5に存在した「【試験方法】」の記載内容に従ったものではあるが、前記(ア)dのとおり、上記「【試験方法】」の記載内容は実際に被控訴人試験4として行われた試験内容と異なるものであり、提訴時検証試験4及び5で用いられた上記手法は、被控訴人試験4では用いられていないものである。また、提訴時検証試験4及び5は、目で髪先の枝毛状況を観察し、枝毛の本数を数えて枝毛発生率を算出しているが、被控訴人試験4ではSEMによる撮影を行って枝毛の本数を数えており、枝毛の判断における精度が異なっているといえる。さらに、提訴時検証試験4で用いられた各毛束は約2000本の毛髪からなるものであったのに対し、被控訴人試験4で用いられた毛束は100本の毛髪からなるものであり、提訴時検証試験4で用いられた毛束の毛髪より少ない本数であって、各毛束に含まれる毛髪がドライヤーによる乾燥及びコーミングによって受けるダメージは、本数の少ない被控訴人試験4の毛束に含まれる毛髪の方が大きいと考えられる。

以上のとおり、提訴時検証試験4及び5は、被控訴人試験4における条件と異なる条件で行われたものといえるから、提訴時検証試験4及び5において、被控訴人試験4の結果並びに被控訴人表示4及び5の内容と異なる結果が出たとしても、被控訴人試験4の試験が合理性を欠くものであったとは認められず、被控訴人表示4及び5が品質誤認表示に当たると認められることにもならない。」

「b 控訴時検証試験4については、イオン無しドライヤーとしてイオン吹出口をマスキングテープで塞いだ被控訴人商品が用いられているところ、この手法では高浸透ナノイーが放出されない状態が形成されていなかったといえるため、被控訴人表示4の検証試験とはならず、控訴時検証試験4の結果をもって、被控訴人表示4が品質誤認表示に当たると認めることはできないことは、控訴時検証試験3に関する判断(前記⑶ウ(イ)b)と同様である。また、控訴時検証試験4は、洗浄、乾燥の回数やブリーチ処理の有無などの条件が被控訴人試験4と異なる上、用いられた毛束は約2000本の毛髪からなり、各毛束の毛髪の本数が少ない被控訴人試験4よりも、ドライヤーによる乾燥及びコーミングによる摩擦のダメージが小さいと考えられる。さらに、枝毛発生有無の検証のために各毛束から選ばれた毛髪が50本と少なくなっている。

上記各事情によれば、控訴時検証試験4において、被控訴人試験4の結果並びに被控訴人表示4及び5の内容と異なる結果が出たとしても、被控訴人試験4の試験が合理性を欠くものであったとは認められず、被控訴人表示4及び5が品質誤認表示に当たると認められることにもならない。」

「c 上記a及びbによれば、提訴時検証試験4及び5並びに控訴時検証試験4は、被控訴人試験4が被控訴人表示4及び5の裏付けとならないことを示すに足りるものとはいえず、被控訴人表示4及び5が品質誤認表示であることを認めるに足りるものとも解されない。」

 

【Keywords】不正競争防止法2条1項20号、品質誤認表示、景品表示法、優良誤認表示、不実証広告、ヘアードライヤー、高浸透ナノイー、パナソニック、ダイソン

 

※本稿の内容は、一般的な情報を提供するものであり、法律上の助言を含みません。

 

文責:弁護士・弁理士 飯田 圭(第二東京弁護士会)

本件に関するお問い合わせ先:k_iida☆nakapat.gr.jp (☆を@に読み替えてください)

 

 
<< Prev    Next >>

  • サイトマップ
  • 利用規約
  • 免責事項
  • 個人情報保護方針
  • 事業主行動計画

Copyright © 2025 Nakamura & Partners All Rights Reserved.

  1. サイトマップ
  2. 利用規約
  3. 免責事項
  1. 個人情報保護方針
  2. 事業主行動計画

Copyright © 2025 Nakamura & Partners All Rights Reserved.