東京地判平成24年(ワ)12351【餅】
<損害論>特許法102条2項~非寄与度減額90%(寄与度10%)約8億円認容
<寄与率>
①本件発明の意義(焼餅の美観、膨化防止)
②被告製品の外装における宣伝~「切り餅に施されたスリット」を表示
③被告の有価証券報告書等において、スリットを入れたことによる業績向上を記載
(判旨抜粋)
<寄与率>
本件特許に係る発明の寄与率について,原告は15%が相当であるとし,被告は1ないし1.5%程度が相当であると主張するので,以下,この点につき検討する。
証拠によれば,以下の事実が認められ,これを覆すに足りる的確な証拠はない。
ア 本件発明は,焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅においては,従来,餅を焼いた際の加熱時の膨化によって内部の餅が外部へ突然膨れ出て下方へ流れ落ち,焼き網に付着してしまうことにより,焼き網を汚すほか餅も引き上げづらく,しかも食べにくく,餅全体も均一に焼くことができないこと,一度に多く焼くこともできず,焼き上がり状態も忌避すべき状態となるなどの課題が存したところ,その解決のため,本件発明に示された構成をとることにより,切り込みの設定によって焼き途中での突発的な膨化による噴き出しを制御(抑制)し,美感も損なわず均一に焼き上げることができ,食べ易く,食欲をそそり,現に美味しく食することができる餅を提供するとの作用効果を達することを目的としたものである(前記1(1)イ)
イ 被告は,切り餅に施されたスリットにつき,被告製品の外装の裏面に以下のとおり表示して宣伝している。〔甲32の1,2〕
ウ また,被告は有価証券報告書等に以下のとおり記載する(甲77ないし79)ほか,食品マーケティング便覧には,以下の記載(乙219の1ないし9)がある。
・「当期の業績の概況
包装餅部門においては,包装餅生産全工場でのパリットスリットタイプの生産体制を整え,平成16年9月より400gに加え700g及び1kg規格をラインナップし拡販に努めた結果『サトウの切り餅パリッとスリット』が堅調に推移いたしましたが,平成15年産米の作況不良によるもち米不足及び昨年末の暖冬の影響により,売上高は3.8%減(前年同期比)の129億78百万円となりました。」〔甲77:有価証券報告書(事業年度:平成16年5月1日~平成17年4月30日,提出日:平成17年7月22日)〕
・「(1) 当期の業績の概況
包装餅部門につきましては,組み立て不要な『サトウのサッと鏡餅』や,パリッとスリットタイプの切り餅を入れた『サトウの切り餅入り鏡餅』等の消費者の購買動向に対応したラインナップの充実により鏡餅が伸長いたしました。また,『サトウの切り餅パリッとスリット』及び『サトウの丸餅シングルパック』が堅調に推移した結果,包装餅の売上高は0.5%増(前年同期比)の130億45百万円となりました。」〔甲78:有価証券報告書(事業年度:平成17年5月1日~平成18年4月30日,提出日:平成18年7月28日)〕
・「包装餅部門につきましては,消費者の餅に対する利便性及び食感の更なる向上を目的に,包装餅業界で当社が先駆けて開発した『パリッとスリット』を全ての切り餅タイプに導入するとともに,店頭での需要喚起を目的とした低価格帯対抗商品として『純情もち』『徳用杵つきもち』の投入を行いましたが,全国的な暖冬による鍋物需要等の消費低迷により,最需要期となる年末年始の販売環境が厳しい状況で推移した結果,売上数量は前年同期比1.9%増となりましたが,売上高は同1.7%減の128億19百万円となりました。」〔甲79:有価証券報告書(事業年度:平成18年5月1日~平成19年4月30日,提出日:平成19年7月27日)〕
・「①佐藤食品工業は,・・・2003年から手で4分割できる切り込みを入れた『パリッとスリット』を発売,徐々に『つきたてシングルパック』からのシフトを図って2004年は大きく力を入れている。」「②越後製菓は,・・・切り餅の『越後生一番』も好調な推移であった。2003年から技術的に難しいとされていた丸餅のサイドに切り込みを入れた『ふっくら名人』を発売し,佐藤食品工業とスリット餅戦争を展開し始めている。」〔乙219の1,2枚目〕
・「2003年・・・は餅に切り込みを入れる技術が開発され,オーブントースターでも焦げ目が付き,器具を汚さない餅が商品化され注目を集め,上位メーカーである佐藤食品工業と越後製菓は切り込み入りの餅への注力度を高めている。」,「2005年は,佐藤食品工業と越後製菓が切り込み入りの切り餅への注力度を高めており,切り餅における主流となりうるかが注目されている。」〔乙219の2,1枚目〕
・「①佐藤食品工業は,2004年に切り込み加工を施した『サトウの切り餅パリッとスリット』を発売し,切り餅は前年並みを維持した・・・。2005年は『サトウの切り餅パリッとスリット』を主力商品として注力度を高め,販路の拡大を図っていく。鏡餅は・・・『サトウの切り餅パリッとスリット』を入れた『サトウの切り餅入り鏡餅』を新たに投入,・・・前年の巻き返しを図っている。」
「②越後製菓は,・・・2005年は,主力の『越後生一番』に切り込み(“ふっくらカット”)を全面的に採用し,調理特性の優位性を訴求し,シェアアップを図っている。」
「佐藤食品工業と越後製菓が切込み入りの餅の拡販に力を入れているが,他社は様子見のところが多く,今後の切り込み餅の動向次第では市販用の切り餅で切り込み入りが主流になると見られ,切り込み入りの餅への注目が高まっている。」〔乙219の2,2枚目〕
・「③業務用中心のきむら食品は2008年に『うさぎ1切れパック丸もち』を切りもちに続いて,特別栽培米の仕様のスリット入りに切り替え,・・・,価格改定後も好調な販売を維持したためプラスでの着地となった。」
「全体の傾向としては簡便性を訴求した商品が主流で,割りやすく見た目も良く焼きあがるスリット入りの商品が3位までを占めており・・・。」〔乙219の6,2枚目〕
・「個包装での賞味期限表示やスリット入りなど食べやすさ,使いやすさを訴求した商品展開が進んでいる。」〔乙219の7,1枚目〕
・「①佐藤食品工業では,『シングルパック』から『サトウの切り餅・パリッとスリット』への切り替えを進めており,2009年には,『パリッとスリット』の機能性訴求によって需要を獲得,切り替えによるプラス効果もあり実績は前年を上回った。2010年には『パリッとスリット』の集中展開を図っている。夏場の猛暑による需要減の影響はあるものの,機能訴求とブランド強化を図りながら前年実績を上回る計画を立てている。」〔乙219の7,2枚目〕
エ 上記アないしウ記載の事実を総合考慮し,特に,本件発明の意義や被告におけるスリットの宣伝内容,スリットを入れたことによる業績向上の程度に加え,本件特許登録の時点が平成20年(2008年)4月18日であり,本件損害賠償請求の対象製品は,既に先行して損害賠償等請求が提起された代表的な製品である先行事件製品を除く被告製品であることをも勘案すると,特許法102条2項の損害を算定するに当たり,本件発明に係る特許の寄与率は10%が相当であると認められる。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/042/085042_hanrei.pdf
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執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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