東京地判令和5年(ワ)70527【環状タンパク質チロシンキナーゼ阻害剤】<杉浦>
「延長された特許権の効力範囲」は、政令処分の対象となった物(先発医薬品「スプリセル錠」)及びこれと「医薬品として実質同一なもの」に及ぶ。
医薬品の有効成分のみを特徴とする特許発明において、対象製品が有効成分以外の成分で異なる場合、その変更が「周知・慣用技術」に基づくものであれば実質同一に含まれる。
本件において、処分の対象となった「スプリセル錠」は有効成分が「ダサチニブ水和物」で添加剤としてPEGを含むのに対し、原告製品は有効成分が「ダサチニブ(無水物)」でPEGを含まずカルナウバロウ等を添加しているという差異がある。
この差異は、原告製品が「無水物」を採用したことに起因する安定性や溶出性の課題(無水物は水和物より光安定性が低く溶解度が高い等)に対処するため、原告が独自の工夫を行った結果である。
具体的には、PEGをHPCに転換し、コーティング剤の成分を調整(カルナウバロウの添加等)したことは、単なる周知・慣用技術の適用ではなく、生物学的同等性を確保するための積極的な製剤設計によるものと推認される。
したがって、原告製品はスプリセル錠と「医薬品として実質同一」とは認められず、延長された本件特許権の効力は原告製品には及ばない。
⇒請求棄却
★同じ杉浦裁判長で、仮処分(令和5年(ヨ)第30214号仮処分命令申立事件)と判断が変わった!!
⇒控訴審に要注目
多くの実務家、学者がオキサリプラチン知財高判に照らして充足なのではないかと意見を述べており、逆の意見を聴かないので、控訴審が注目ですね。
レミッチを見ても、知財高裁は薬はプロパテントですからね。
ダサチニブ一審判決の結論が変わらないとしても、添加物違いの課題絡みの技術的意義を問題とするロジックを維持するのか、有効成分が違う場合に射程が限定されるかも要注目です。前者のまま維持されるならば、後発企業は、課題創作+添加物違い+特許取得で容易に効力範囲外にできてしまいますからね。
https://www.bms.com/assets/bms/japan/pressrelease/20231129-pdf.pdf
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-94154.pdf
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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