平成28年1月28日(平成27年(行ケ)第10058号)(知財高裁3部、大鷹裁判長)
原告は、被告Y及び被告会社が保有する本件商標に対し、引用商標1ないし3との関係で商標法4条1項11号に該当するなどとして無効審判を請求したが、特許庁は無効不成立の審決を行った(「本件審決」)。そのため、原告が本件審決の取消を求めて本件訴訟を提起した。
裁判所は、まず、リラ宝塚事件最高裁判例(最判昭和38年12月5日)やつつみのおひなっこや事件最高裁判例(最判平成20年9月8日)等を引用した後、本件商標の「Enoteca」の文字部分と「Italiana」の文字部分は、それを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められないと認定したうえで、本件商標の登録査定当時には、「ENOTECA」又は「エノテカ」は原告及び原告が行うワインの輸入販売等の事業などを表示するものとして日本国内において周知となっていたこと、及び本件商標の「Enoteca」の文字部分から取引者、需要者において原告の周知の営業表示としての「ENOTECA」又は「エノテカ」の観念が生じることを認定し、他方で、本件商標の「Italiana」の文字部分から「イタリアの」という観念を生じるが、本件商標の指定役務との関係においては本件商標の「Italiana」の文字部分はその役務の提供の場所、提供の用に供される物等がイタリアに関連することを示すものと認識されるにとどまるものであると認定して、これらに照らすと、本件商標がワインに関連する役務に使用された場合には、本件商標の構成中の「Enoteca」の文字部分は、取引者、需要者に対し、上記役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められ、独立して役務の出所識別標識として機能し得るものといえると判断した。そのうえで、裁判所は、本件商標から「Enoteca」の文字部分を要部として抽出し、これと引用商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも許されるとして、「Enoteca」の文字部分と引用商標を対比し、その結果、本件商標と引用商標はそれぞれ全体として類似していると判断した。
本判決は、結合商標の4条1項11号該当性について、特許庁の審決と異なる判断を行った事例である。両判断の結論が分かれた理由は、審決が「Enoteca Italiana」の文字部分について、分離分断して看取されるよりも、全体をもって一連一体の店舗名を表したものとして認識し把握されるものと判断したのに対し、本判決は、つつみのおひなっこや事件最高裁判例等の基準に従って、「Enoteca Italiana」の文字部分のうち「Enoteca」の文字部分につき、ワインに関連する役務との関係では出所識別標識として機能し得ると判断したことによる。
★結合商標の類否判断についての一般的な判断基準については、つつみのおひなっこや事件最高裁判決(最判平成20 年9 月8 日(平成19(行ヒ)223号))等を参照すべきである。
★最近の結合商標に関する審決・判決について、「結合商標の類似判断について」(パテントVol.66 2013年 No.7)において詳しい説明がなされている。
★なお、同一裁判体が同日に、結合商標である出願商標「エリエール i:na(イーナ)」について、これを分離して観察したうえで、引用商標「e– n á (いーな)」とは対比したものの、結論においては類似しない、と判断して、両者は類似するとして4条1項11号に該当するとした審決を取り消している(知財高判平成28年1月28日(平成27年(行ケ)第10171号))。
本件商標は,「Enoteca」の文字部分と「Italiana」の文字部分とから構成される結合商標であるが,その外観上,それぞれの文字部分を明瞭に区別して認識することができること,それぞれの文字部分から別異の観念が生じることに鑑みると,本件商標の「Enoteca」の文字部分と「Italiana」の文字部分は,それを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められないというべきである。
本件商標の登録査定当時には,「ENOTECA」又は「エノテカ」は,原告及び原告が行うワインの輸入販売,小売,卸売等の事業ないし営業を表示するものとして,日本国内において,取引者,需要者である一般消費者の間に,広く認識され,周知となっていたこと,本件商標の「Enoteca」の文字部分から,取引者,需要者において,原告の周知の営業表示としての「ENOTECA」又は「エノテカ」の観念が生じることは,前記ア(イ)認定のとおりである。他方で,前記ア(ウ)認定のとおり,本件商標の「italiana」の文字部分から「イタリアの」という観念を生じるが,本件商標の指定役務との関係においては,本件商標の「italiana」の文字部分は,その役務の提供の場所,提供の用に供される物等がイタリアに関連することを示すものと認識されるにとどまるものといえる。以上を総合すると,本件商標が「ワインの小売又は卸売の業務について行われる顧客に対する便益の提供」の役務及びワインに関連する役務に使用された場合には,本件商標の構成中の「Enoteca」の文字部分は,取引者,需要者に対し,上記各役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められ,独立して役務の出所識別標識として機能し得るものといえる。そうすると,本件商標から「Enoteca」の文字部分を要部として抽出し,これと引用商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるというべきである。
(Keywords)商標、商標法4条1項11号、結合商標、ENOTECA、エノテカ、Enoteca Italiana
文責:弁護士・弁理士 佐竹 勝一(第二東京弁護士会)
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