令和4年(ネ)10094【…テトラフルオロプロペンを含む組成物】<清水響>
R1(ワ)30991の第4世代
本件明細書に課題の記載が無い。
⇒課題を読み取れるとしても、発明が明細書に記載が無いから、サポート要件×。
原審・東地令和3年(ワ)29388は分割要件×(新規事項追加)⇒新規性×
(判旨抜粋)
…本件明細書には、HFO-1234yfが低地球温暖化係数(GWP)を有することが知られており、高GWP飽和HFC冷媒に替わる良い候補であること、HFO-1234yfを調製する際に特定の追加の化合物が少量存在すること、本件発明の組成物に含まれる追加の化合物の一つとして約1重量パーセント未満のHFC-143aがあること、HFO-1234yfを調製する過程において生じる副生成物や、HFO-1234yf又はその原料(HCFC-243db、HCFO-1233xf、HCFC-244bb)に含まれる不純物が、追加の化合物に該当することが記載されているということができる。
しかるところ、HFO-1234yfは、原出願日前において、既に低地球温暖化係数(GWP)を有する化合物として有用であることが知られていたことは、【0010】の記載自体からも明らかである。したがって、HFO-1234yfを調製する際に追加の化合物が少量存在することにより、どのような技術的意義があるのか、いかなる作用効果があり、これによりどのような課題が解決されることになるのかといった点が記載されていなければ、本件発明が解決しようとした課題が記載されていることにはならない。しかし、本件明細書には、これらの点について何ら記載がなく、その余の記載をみても、本件明細書には、本件発明が解決しようとした課題をうかがわせる部分はない。本件明細書には、「技術分野」として、「本開示内容は、熱伝達組成物、エアロゾル噴霧剤、発泡剤、ブロー剤、溶媒、クリーニング剤、キャリア流体、置換乾燥剤、バフ研磨剤、重合媒体、ポリオレフィンおよびポリウレタンの膨張剤、ガス状誘電体、消火剤および液体またはガス状形態にある消火剤として有用な組成物の分野に関する。特に、本開示内容は、2,3,3,3,-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yfまたは1234yf)または2,3-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロプロパン(HCFC-243dbまたは243db)、2-クロロ-1,1,1-トリフルオロプロペン(HCFO1233xfまたは1233xf)または2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパン(HCFC-244bb)を含む組成物等の熱伝達組成物として有用な組成物に関する。」(【0001】)との記載があるが、同記載は、本件発明が属する技術分野の説明にすぎないから、この記載から本件発明が解決しようとする課題を理解することはできない。そうすると、本件明細書に形式的に記載された「発明が解決しようとする課題」は、本件発明の課題の記載としては不十分であり、本件明細書には本件発明の課題が記載されていないというほかない。そうである以上、当業者が、本件明細書の記載により本件発明の課題を解決することができると認識することができるということもできない。…
仮に、上記【0001】の記載をもって本件発明の課題を説明したものと理解したとしても、…本件発明の課題は、「2,3,3,3,-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yfまたは1234yf)または2,3-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロプロパン(HCFC-243dbまたは243db)、2-クロロ-1,1,1-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xfまたは1233xf)または2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパン(HCFC-244bb)を含む組成物等の熱伝達組成物として有用な組成物を提供すること」と理解されることとなるはずである。そして、本件発明は、①HFO-1234yf、②0.2重量パーセント以下のHFC-143a、③1.9重量パーセント以下のHFC-254ebを含む組成物によって、当該課題を解決するものということになる。しかるところ、本件明細書には、上記①~③を含む組成物についての記載がされているとはいえない。…それのみならず、本件明細書には、このような構成を有する組成物が、HFO-1234yfの前記有用性にとどまらず、いかなる意味において「有用」な組成物になるのか、という点について何ら記載されておらず、示唆した部分もない。したがって、当業者が、本件明細書の記載から、上記①~③の構成を有する組成物が、熱伝達組成物として「有用な」組成物であるものと理解することもできない。したがって、当業者は、本件明細書の記載により本件発明の課題を解決することができると認識することはない。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/407/092407_hanrei.pdf
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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