令和1年(行ケ)10128【低鉄損一方向性電磁鋼板】<高部>

*課題の認定は明細書の記載が原則

 

*「発明の課題」を明細書に限定的に記載した。

⇒鉄損減少

⇒渦電流損減少

⇒特に、磁区細分化による渦電流損減少

 

⇒限定された課題は、引張り応力で制御可能…という作用機序を、明細書に明記した。

⇒サポート要件〇

 

(⇒進歩性にもサポート要件にも役立つ論理!!)

 

 

原告(無効審判請求人)  JFEスチール株式会社

被告(特許権者) 日本製鉄株式会社

 

(判旨抜粋)

【請求項1】 板厚方向に対する応力が引張り応力であり,かつその最大値が40MPa以上で鋼板素材の降伏応力値以下である応力が存在する領域が,鋼板の圧延方向に7.0mm以下の間隔で形成されていることを特徴とする低鉄損一方向性電磁鋼板。

 

…サポート要件の適否を判断する前提としての当該発明の課題の認定は,原則として,発明の詳細な説明の記載に基づいてするのが相当である。…本件各発明については,「発明が解決しようとする課題」として記載されたとおり,「一方向性電磁鋼板の鉄損をヒステリシス損と渦電流損に分けて,特に磁区細分化による渦電流損の観点から,歪および応力分布を表面内だけでなく,板厚内部も含めて定量的に適正な条件下で制御することにより,優れた一方向性電磁鋼板を提供すること」を課題とする…。…

 

イ 作用機序について

(ア) 渦電流損の低減

本件明細書には,鋼板の板厚内部の応力状態,特に板厚方向に対する引張り応力こそが,還流磁区を発生させる芽であり,180度磁区細分化を促進させることが記載されている(【0015】)。…本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば,本件各発明は,鋼板の板厚方向に対する引張り応力を導入し,その最大値が40MPa以上で鋼板 素材の降伏応力値以下である応力の存在する領域を,鋼板の圧延方向に7.0mm 以下の間隔で,鋼板の板厚内部に形成するとの構成を採用することにより,一方向性電磁鋼板の鉄損をヒステリシス損と渦電流損に分け,特に磁区細分化による渦電流損の観点から,歪及び応力分布を表面内だけでなく,板厚内部も含めて定量的に適正な条件下で制御することにより,優れた一方向性電磁鋼板を提供するとの課題を解決したものと認められる。

本件各発明の課題解決の機序…からすれば,…板厚,分布幅・照射痕幅等の諸条件のいずれかを変化させた試料で実験したとしても,本件発明の上記の課題解決手段の機序が大きく阻害されるとか,全く異なる機序に変化してしまうような事情が生じるとは解されない…。

 

https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/735/089735_hanrei.pdf

 

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
本件に関するお問い合わせ先:h_takaishi☆nakapat.gr.jp(☆を@に読み換えてください。)