【論稿/欧州】待望の決定を経て標準必須特許は欧州でも無用となったか(Christoph Rademacher、知的財産法政策学研究Vol.48(2016))
標準化技術の普及に伴い、特許権者がSEPを通じて市場を独占するリスクが指摘されてきた。
ドイツの「Orange-Book」判決(2009年)は、特許権者がSEPを侵害する企業に対し差止請求を行うことを基本的に認めたが、その後の欧州委員会の方針は、FRAND(公平・合理的・無差別)条件でライセンスを提供すべきとの立場を強調した。
2013年、HuaweiとZTEの訴訟を受け、CJEUに判断が委ねられた。
CJEUの2015年の判決では、特許権者がSEPの行使をする前に以下のプロセスを踏むべきとされた。
①特許権者は、被疑侵害者に対し特許侵害の通知を行わなければならない。
②被疑侵害者は、FRAND条件でのライセンス取得の意思を示す必要がある。
③特許権者は、FRAND条件に基づく具体的なライセンス条件を提示する。
④被疑侵害者がライセンス条件を不服とする場合、FRANDに基づいた対案を提示しなければならない。
⑤当事者間で合意に至らない場合、第三者機関に適正なライセンス料の決定を要求しなければならない。
この判決により、特許権者がFRAND条件を遵守しないまま差止請求を行うことは、支配的地位の濫用とみなされる可能性があることが明確になった。一方で、ライセンス交渉を意図的に引き延ばす「牛歩戦術」は認められず、被疑侵害者も迅速な対応が求められる。
米国では、契約法やエクイティの原則が適用され、日本では権利濫用法理に基づく規制が行われている。これに対し、欧州では競争法に基づく支配的地位の濫用が主要な制約となる。
さらに、FRAND条件のライセンス料率の算定方法についても議論があり、日本の知的財産高等裁判所が用いた標準必須特許の価値均等配分方式や、ドイツ裁判所の分類方式が紹介されている。
結論として、CJEUの判決により、欧州における標準必須特許の行使において特許権者と被疑侵害者双方に一定の手続き的制約が課されることになった。
しかし、未解決の論点も多く、各国裁判所の判断が今後の実務に大きな影響を与える。
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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