【論稿/著作権】アクセス可能な著作物に対する公衆の利用の自由-はたらくじどうしゃ事件-(村井麻衣子、知的財産法政策学研究Vol.1.10(2006))
*東京地判平成13年(ワ)10130
アウトドアペインティングを中心に活動する画家が市営バス車体に描いた絵画を、被告出版社が出版した絵本に掲載したことを巡り、著作権侵害および著作者人格権(氏名表示権)侵害を主張した。
問題となった市営バスは一般道路を継続的に運行し夜間には車庫に入るものの、不特定多数の公衆が容易に観覧できる屋外の場所に恒常的に置かれていると評価された。
⇒著作権法46条の「美術の著作物の原作品を屋外の場所に恒常的に設置した場合」に当たり、著作権者の許諾なく自由に利用できる。
さらに、46条4号が定める「専ら美術の著作物の複製物の販売を目的とする行為」には該当しないかも問題となったが、被告絵本が町を走る各種自動車を幼児向けに紹介する教育的目的を有しており、原告作品を鑑賞や販売促進の主目的として掲げたものではないとされたため、該当しないと判断された。
また氏名表示権侵害については、著作物の利用目的・態様からみて著作者名を表示しないことによって原告の利益が害されるおそれはないとされ、最終的に原告の請求は棄却された。
本判決は、移動するバス車体への絵画も「恒常的に設置」された美術の著作物に該当すると認めることで、公共の場所で容易にアクセス可能な著作物の利用自由を広く認める一方、美術の著作物を販売目的に複製する行為には厳格な制限を課す46条の趣旨を改めて示した判例として意義がある。
https://lex.juris.hokudai.ac.jp/coe/english/pressinfo/journal/vol_10/10_9.pdf
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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