【知財実務オンライン】楽しい特許クレームの解釈のお話(弁護士・小林正和)
例えば、「環状のシール部材」というクレーム文言中の「環状」は、辞書的な意味(広辞苑)では「輪のような形」「丸い形」などと説明される。
この文言に対し、特許権者は、「輪のような」という点や明細書記載の「密封機能」という技術的意義に着目し、「一周して両端が結ばれた形状」であれば、被告製品が四角形であっても権利範囲に含まれると主張する。(大阪の「環状線」が真円ではないといった具体例も、解釈の材料となり得る。)
これに対し、被告は、「丸い形」という定義や、明細書の実施例の図が円形であることを根拠に、権利範囲は円形に限定されると反論する。
同様に、「棒状の」という一見明確な言葉であっても、対象製品がL字型や円錐形であった場合に、これを「棒」と評価できるかが争点となり得る。この場合も、単なる言葉の定義だけでなく、その部材が発明の中でどのような「技術的意義」(例:「直線の長穴を摺動する」機能)を担っているかに立ち返って解釈が行われる。
クレーム解釈は、①用語の意義、②一体別体論(一つの部材か、複数部材の組み合わせか)、③全部一部論(全体が要件を満たす必要があるか、一部でもよいか)の3つに分類できる。
文言の解釈だけでは決着がつかない場合、クレーム文言解釈の主戦場は明細書に記載された「技術的意義」や「課題」「効果」に移る。
ここでも、例えば「密封機能」なのか、より限定された「均一な密封機能」なのかといった、技術的意義の捉え方(上位概念か下位概念か)を巡って解釈の争いが生じる。
数値限定発明も例外ではない。「分子量700以上」というクレームに対し、被告製品が699.9であった近時の事案では、文言侵害は厳格に否定された。
数値自体は明確であっても、測定対象(例:「粒子径」)の定義の曖昧さ、測定方法、製品のバラツキ、経時変化などが論点となり、解釈は容易ではない。
結論として、クレーム解釈とは、言葉の曖昧さを前提としつつ、明細書、図面、出願経過(審査履歴)、技術常識などを総動員して、自らの主張を法的に組み立てる行為である。
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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